中途半端な世界
パルフェは本日の挨拶回りの最後としてクラン「ふぁいと☆くらぶ」を選んだ。
実際に手を貸してもらえるかどうかは微妙なところではある。ただ、クランは別にしてカザトキとリオンが味方してくれるという話があるならクランリーダーのブレイクに一言でも言っておくべきだと思ったためだ。
以前のクランの規模は中規模程度だったが、精霊祭のイベントで知名度が高まり、今では大手クランといっても過言でないほどのメンバーがいる。
戦闘系のクランではなく、あくまでもエンタメ系、動画配信系のクランなので戦力的にはそこまでではないが、その数は侮れない。味方してもらえれば最高だが、敵にならなければ十分、パルフェはそんな気持ちで拠点へ到着した。
クラン「ふぁいと☆くらぶ」の拠点はロートアイアンのフェンスで囲まれているので、パルフェは正面の門に行くまで中を見ながら移動する。
(前に来たときよりも広くなったなー。でも、中庭に誰もいないって何事?)
凝った造りの中庭にはステージ用の広場もあるが、バラの花などが綺麗に見えるように配置されている。前に来たときは中庭でメンバーがたむろしていたのだが、今は誰もいない状況であった。
不思議に思いながら歩き、正面の門まで移動すると、三人ほどのメンバーがひそひそと話し込んでいるのが見える。
なにかあったのかと思いつつ、パルフェは声をかけた。
「あのー、パルフェと申しますが、ブレイクさんはいらっしゃいますか?」
パルフェに全く気付いていなかったのか、三人は飛び上がるほどの驚きの顔になってから、パルフェを見てさらに驚いていた。
「き、君、パルフェちゃんだよね!? 今はまずい! 今はまずいからすぐに戻って!」
「え?」
「ブレイクさんには伝えておくから、すぐにこの場から離れて!」
「は、はぁ――」
「これは良い時に来たようだ。お前がパルフェだな?」
声がした方を見ると、黄金の鎧を装備した男性が立っていた。他にも護衛なのか五人ほどいるが、全員が同じ形の鎧を装備しており、さらには顔の見えないフルフェイスの兜を付けている。
パルフェの頭の中では「誰?」としか思い浮かばないが、派手な鎧と初対面での呼び捨て、さらには値踏みするような視線から、なんとなくだが相手が誰なのか分かった。
とはいえ、相手の名前は知らないし、そもそもどちらの財団の人なのかも分からない。今のところ話をする必要も感じないので、すぐにこの場を離れようと思ったが、黄金の鎧の男はずかずかとパルフェに近寄った。そしてパルフェをジロジロと見てから口を開く。
「見た目は悪くないが子供だな」
そんな子供に縁談を持ちかけきた馬鹿はどいつだと思ったが、これではっきりしたことがある。
相手は自分の容姿を今知った。つまり、見た目や性格、趣味嗜好などはどうでもいい状態で縁談を持ち掛けてきたということだ。甘酸っぱい何かを求めていたわけではないが、それでも何かしらの礼儀なり、敬意なりを示してくれるかと思っていたので、その言動には逆に怒りを感じるほどだ。
「貴方も見た目は悪くありませんけど、中身は子供ですね」
その煽りとも言うべき言葉を口にしたパルフェだが、本人や言われた相手よりも周囲の方が息を飲む。「ふぁいと☆くらぶ」のメンバーの方は上手く息が吸えないほどになっており、相手の護衛は剣の柄に手をかけた。
男の見た目は悪くない。おそらく二十前後、肩にかかるくらいの金髪で、モデルのような顔立ちに肌も髪もどれほど手入れしているのかと思うほど綺麗ではある。
だが、パルフェからすればそれだけだ。見た目がいくら良くても、それ以上に良い見た目の人達なら周囲にいくらでもいる。価値がないとまでは言わないが、パルフェからすれば重視するような部分ではない。
そんな値踏みの視線を受けたのは初めてだったのか、次期当主らしき男は笑い出した。
「なるほど、気の強い女は嫌いじゃない。意外と父も見る目はあったようだ」
いや、ないでしょ、とパルフェは思う。余計なことをしたせいで、今やタウロスとキャンサーは財団の中でも孤立していると言っていい。表立って敵対しているわけではないが、味方する理由もないという状況だ。
そして特に名乗るようなこともないので、このまま帰ろうと背中を向ける。
「待て。話がしたい」
「私はしたくないですけど」
「もうこんな面倒なことは止めないか?」
その言葉にはパルフェも同意したい。味方になってくれそうな人たちにお願いはしているが、戦いがなくなるならその方が良いに決まっている。なので足を止めて向き直った。
「それはいい考えですね」
「だろう? それに財団の一員になるなら悪い話ではあるまい。それなりの教育は必要だが、見返りを考えれば拒否する馬鹿はいない」
「……ああ、そういう」
「それに結婚しても自由にしていて構わないぞ。必要なのはお前の伝手、それ以外は特に期待していない」
人を怒らせる天才だなと思いつつ、相手への嫌悪感が増していく。お前に興味はないから縁談なんかせずに嫁に来いと言って嫁に行く人がいるのだろうか。確かにそうすれば面倒な戦いも必要ないということになるが、そんなことをするなら最初からこんなことにはなっていない。
「財団の一員になるメリットを感じない上に、貴方の嫁というデメリットしかない婚姻は嫌なので戦うしかないですね。二度とふざけたことが言えないようにぶちのめします」
これにはさすがの相手も驚いたようで、目を見開いている。護衛達はなぜか後退りして、「ふぁいと☆くらぶ」のメンバーの一人は足から崩れ落ちた。
「貴様――」
「ノース! お前何して――パルフェ!?」
「ブレイクさん」
何人かを連れてやってきたのは「ふぁいと☆くらぶ」のクランリーダー、ブレイク。黒い革ジャンを着たロカビリースタイルでポンパドールの髪型が相変わらずだが、この場においては心強い味方だ。
ブレイクは次期当主という立場ではないが、財団ジェミニの血族。ノースと呼んでいた黄金の鎧を装備した相手に立場的には近い。そしてブレイクの登場で少し頭が冷えたのか、ノースも普通の表情に戻った。
「ブレイクさん、久しぶりですね」
「ああ、久しぶりだな。先触れがあったが、何の用だ?」
「おや、拠点に入れてくれないのですか?」
「内容によっては客じゃねぇからな」
「手厳しいですね。分かりました、単刀直入に言いましょう。次の領地争奪戦で我々の味方をしてください」
「断る」
「……すこしくらい考えてくれてもいいと思うのですが。まさかとは思いますが、そちらのパルフェに味方するので?」
ブレイクはちらりとパルフェを見たが、すぐに顔を横に振った。
「いや、ウチのクランはどこにも味方しない。そもそも戦闘系クランではないからな」
「よろしいので? 日和見が許される状況ではないと思いますが。お父様である財団ジェミニの現当主様も落胆するのでは?」
「日和見? お前はもう少し周りの状況を知っておけよ……それに親父に落胆されても構わねぇよ。そもそも俺は期待されているような奴じゃねぇんだ。それにな――」
「それに?」
「AFOに財団がどうとかを持ち込むんじゃねぇよ。ここじゃ意味のねぇ肩書で偉そうにしているのは滑稽だぜ?」
「仮想現実だって現実の延長でしょう――いえ、現実という基盤の上にしか成り立たない出来損ないで中途半端な世界です。大なり小なり現実の影響は間違いなくありますからね。だいたい、持ち込むなというなら、統括は最初からこんな提案をしなければいい」
「……お前の考えは分かったよ。そこに文句をつけるつもりはない。だがな、ノース、今回の件、よく考えろよ?」
穏やかな表情でブレイクと話していたノースだが、ここで初めて眉を顰める。
「よく考えろとは?」
「お前の親父さんがなぜこんなことをしたのかということだ。本当に財団のため、お前のためにやったと?」
「どういう意味でしょう?」
「……財団キャンサーの次期当主候補はお前だけじゃないだろ?」
ブレイクの言葉に思うところがあるのか、ノースの顔が少しだけ曇る。
「まさかとは思いますが――」
「財団の血族、とくに次期当主候補は常に当主としてとしてふさわしい行動をとれるかどうか試されていると思った方がいい。候補でもない俺だってそれくらい分かるんだが、お前は分かっているのか?」
ノースは黙り込んでいるので、ブレイクはさらに続ける。
「結果よりも過程が大事な時もある。そして金や権力でどうとでもなったこれまでとは違う。お前にしたら出来損ないで中途半端な世界かもしれないが、ここを現実と同じようにできると思っているなら、お前は現実でも痛い目を見るぞ」
「……ご忠告感謝しますよ、ブレイクさん」
ノースは「失礼します」と言い、パルフェの方を見ることなく護衛達と共にこの場を離れた。
そして見えなくなってから、パルフェを除く全員が大きく息を吐きだす。
ブレイクは頭を掻きながら口を開いた。
「悪いな、パルフェ、つまらんことに巻き込んじまって」
「ああ、ええと――」
「それとウチの親父から言われていてな、どこにも味方するなって言われてんだよ。それを守る義理はねぇんだが、俺は俺の意思でどこにもつかねぇと決めた」
「無理を言っているのはこっちなので問題ないです。むしろ敵にならないと分かっただけでも十分ですから」
「パルフェには恩があるから気持ち的には味方してぇんだが――本当にすまねぇ。ただ、クランとして味方しないってだけで、メンバーには助けたい奴は味方してやれとは言っておいた」
「ああ、それです。カザトキちゃんとリオンちゃんが味方してくれるって人づてに聞いてて。なので挨拶に来たんですけど」
「律儀なこった。まあ、アイツらはそうだろうな。俺がダメと言ったらクランを辞めてでも味方するだろうよ――二人のこと、よろしく頼むな」
「どちらかといえばこちらがよろしくされる方ですよ。ところでさっきの会話って……?」
パルフェがそう言うとブレイクはまた頭を掻く。
「財団は財団で色々あるんだ。今回の件、いろいろとキナ臭くてな。馬鹿なことはしないと思うが警戒は必要なんだ。はぁ、パルフェの前で言えることじゃねぇが、つまらねぇことに巻き込まれるのだけは勘弁してほしいぜ」
おそらく現実の方の話だろうとパルフェは思うのだが、正直、そちらにはまったく関わりたくないというのが本音だ。それに聞いていた限り、今回の件は裏がある。ルナリアもそれを分かっていてこんな条件を出したのか、それとも何も考えずにこうしたのか微妙なところではあるが、パルフェは余計なことは考えないようにしようと頭から消し去った。
その後、ブレイクから「使える素材があるなら持って行ってくれ」とレアアイテムの譲渡を提案されたので、武具のバージョンアップに必要なものだけを貰い、お礼を言ってから自分の拠点へと戻るのだった。




