恐竜と車いす
「普段から仲良くさせてもらっている相手に付くのは当然のことだから気にしなくていい」
「ありがとうございます、ディーガーさん」
「お礼など不要だよ。しかし、依頼に来るとは律儀なことだ。ご両親の教育が良かったのだろうな」
「ははは、どうでしょう?」
パルフェはそう言われながらも両親を褒められてご満悦だ。自分の行動が両親の評価につながるというのは稀にあるが、今回の件は間違いないと思っている。普段から父親のハヤトのやり方を見ている自分としては普通のことだと思うが、見る人が見ると違うのだろうとパルフェは改めて思った。
「では、魔王城を手に入れたらすぐにでも連絡をして欲しい。我々はどちらかと言えば攻略戦よりも防衛戦に向いているからな」
「はい、心強いです。それじゃ、私は他にもいかなくてはならない場所があるので今日はこの辺で」
「うむ、気をつけてな」
パルフェは頭を下げると、クラン「クリテイシャス」の拠点からメンバーとそのペット恐竜たちに見送られながらクランの領地から出た。
恐竜のテーマパークと言えるほどの場所なのでまた改めて来ようと誓いながら、今度はクラン「ハイウェイスター」の拠点へと向かう。
今日はテイマー関係のクランを全部回ろうとパルフェは考え、「猫は神」から直接「クリテイシャス」へとやってきた。そしてつい先ほどリーダーのディーガーにも挨拶をしてお願いをしてきたところだ。
相変わらずティラノサウルスのリアルな着ぐるみを着ていたが、その実力は本物。その上、集団戦に強いので味方をしてくれるのはかなり助かるとパルフェは思っている。
とくにディーガーが帰り際に言っていたが、恐竜のペットたちはかなりの防衛力を持つ。機動力が特に大事とならない限定された空間で巨大な恐竜たちが暴れていいとなれば相当な強さとなる。魔王城入口周辺ならまず負けないというレベルだ。
巨大な恐竜たちはサイズ的に魔王城の中には入れないが、空を飛ぶプテラノドンやディーガーが乗る翼竜ケツァルコアトルスで空中戦も可能なため、魔王城の主に外の防衛に関してはほぼ「クリテイシャス」で完結できるというほどだった。
パルフェとしては大変ありがたい話なのだが、ディーガーたちがパルフェを味方することにメリットがある。あくまでもメリットが提示されたのは味方を表明した後のことであるが、これには財団パイシーズのパーシャが絡んでいた。
パーシャが管理するコロニー「ミュージアム」。ここにはかつて美術品と呼ばれた物が多くあるのだが、その中に恐竜の化石がある。それををメンバーに公開してもいいといいとパーシャ本人がディーガーに提案したらしい。もちろんパルフェたちが魔王城をとれるかどうか関係なく、味方を表明したお礼にどうかという話だった。
それを聞いたディーガーとメンバーたちはやる気が倍増。気分よく化石を見るためにも絶対に勝つと心の中で燃えている。
そんな事情をつい先ほど聞いて驚いたパルフェだが、これまた財団が絡んでいるのかとかなり驚いている。
財団パイシーズのパーシャと言えば、ナツの母親であるノアトと仲が良い。たまにわけのわからない言葉を使って意味のない会話をするという「高貴なる遊び」を良くするらしい。ナツ曰く、自分はまだあの次元には到達できていないとの話だ。
それはともかく、その辺りのルートからパーシャに依頼があったのだろうと考えている。もし味方することを表明しなかった場合の奥の手だった可能性は高い。
徐々に事が大きくなっている気がしてきたパルフェだが、だからこそ負けるわけにはいかないと、次の目的地へと急いだ。
クラン「ハイウェイスター」の拠点は辺境にある。
大手クランとはいっても、そのメンバーは地球の危険区域にあるコミュニティ「スカベンジャー」の人達だけで構成されている。だからと言って地球の安全地帯やコロニー住まいのプレイヤーと関りがないわけではなく、普通に接することもできる。
ただ、色々と習慣が違うこともあるのでAFO内でもあまり他との接触を好んでいない部分があった。
そんなわけで王都などからは離れた辺境に拠点があるのだが、パルフェは場所は聞いていたものの、来るのは初めてだった。
(瓦礫の山じゃないけど、あまり整然としてない感じだなぁ)
どこかの工事現場を思わせるような場所であり、広い土地に金属の資材が無造作に置かれている。何かに使う資材なのか、それともただの屑鉄の山なのか微妙なところだが、ここから整理整頓という言葉は想像できないほどの荒れ方だ。これはこれで味があるとも言えなくはないが。
一通り全体を見てからラーディアに挨拶に行こうと、一番大きな金属製の建物に近づいた。何度も増築がされたような不安定な建物で見ているだけで不安になるが、その入り口らしきドアに近づく。
そしてノックをしようとしたところで扉が開いた。
そこには車いすに乗った女性とラーディアがいた。車いすの女性は白いワンピースに黒いロングヘアで、ラーディアはその車いすを押すような形で立っている。
パルフェに気付いたラーディアはすぐに笑顔になった。
「あ、パルフェちゃん! いらっしゃい!」
「こんにちは、ラーディアちゃん。ええと――」
「ああ、こちらは私達の長でリーさん」
「よお、パルフェか、久しぶりだなぁ。いつの間にそんなにでかくなったんだ?」
「え? あー、そう、です、ね?」
なぜか知っている風に言われてしまったが、パルフェの方はリーに会うのは初めてだと思っている。どこで会ったか忘れてしまったのはかなり失礼なことだが、どうしても思い出せない。
その様子に気付いたのか、リーの方が「わはは」と笑ってバシバシとパルフェの腕を叩いた。
「そうかそうか、別に挨拶したわけでもねぇから覚えてねぇか」
「あの、その、すみません」
「いや、いいんだよ。地球危険区域観光で車を運転してたんだが、外の景色に目を奪われていたみたいだしな」
「観光……? あー、あの、ひゃっはーって言ってた運転手の!」
「そうそう、思い出してくれたか!」
パルフェとしては顔よりも言葉の方が印象深いのでその言葉しか覚えていないが、言われてみればこんな感じの人だったと思い出す。
そして「ひゃっはー」という言葉に顔を曇らせているラーディアを見て、ちょっとだけ同情する。あまり好きじゃない掛け声がコミュニティの長がやっているとなれば文句もつけられない。ラーディアがいつか望みの生活を送れる日が来るようにと祈るしかないパルフェだ。
それはそれとして、今回の目的は「ハイウェイスター」への協力依頼。すでにオリオンから話は聞いているが、改めてお願いしようと、「ラーディアちゃん」と言って真面目な顔になる。
「次の領地争奪戦に協力を依頼しにきたんだけど」
「え? そのつもりというか、お願いされるようなことでもないと思うんだけど……? むしろ味方できなかったら怒るね!」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、こういうのはちゃんとお願いするものだから。コホン、ラーディアちゃん、次の領地争奪戦、味方してもらえないかな?」
「もちろん! 友達――いや! 一緒に女子会をした親友のために頑張っちゃうよ!」
そう言ったラーディアは感極まったのか、パルフェに抱きついた。そしてパルフェの背中をポンポンと叩く。
パルフェとしてはかなり驚いたが、これが地球式の表現なのかなと、こちらもラーディアの背中に手をまわし、ポンポンと軽く叩く。
「おーおー、美しい友情じゃねぇか。いいぞ、ラーディア、仲間のために体を張るのはうちのチームの伝統だ。おめぇにもその伝統の血が流れてんな!」
ラーディアはパルフェから離れると、ちょっと照れ臭そうに笑う。
「というわけでな、俺もパルフェのために一肌脱ごうってことになった。今日は預けていた武器を取りに来てたんだよ」
「え? そうなんですか?」
「おうよ、ハヤトやエシャには返しきれねぇほどの恩がある。こういうところで少しでも返済していかなきゃな!」
「ありがたい話なんですけど、その失礼ですが、足が――」
よく思い出すと観光で使った車はリーの車いすがそのまま運転席になるような構造だった。つまり現実でもリーは足が悪い。気持ちは嬉しいが、あまり無理はしてほしくないと言うのが本音だ。
「ああ、問題ねぇよ。現実で足が悪くてもAFOでは関係ない。それに俺の戦闘スタイルは車いすに座ったままだからな」
「そうだったんですか……え? 車いすに座ったまま……?」
「おうよ。ラーディアに預けていたラッキーセブンは俺の愛車でもあるからな。むしろ足が動かない方が動きは良いぜ……おっとハヤトの娘にそんなことを言うのは失礼だったかな」
「え? お父さん? なんでです?」
「聞いてねぇのか? ハヤトは昔、足を怪我した時のショックで足を上手く動かせなかった時期があったらしいぞ」
「そうなんですか? でも今は普通ですけど……?」
「当時も怪我は治ってて、うまく動かせなかったのは精神的なものだったらしい。でも、エシャを守ろうとしてとっさに足が動いたとかなんとか。それがきっかけでかなり良くなったらしいぞ」
「そんなことがあったんですか……!」
足を怪我したことを聞いたことはあったが、両親のそんなエピソードを聞くのは初めてだ。確かにそんな惚気に近い話を娘に言う必要はないだろうが、何かの拍子に話してもいいんじゃないかと思うほどの内容だ。これは家で改めて確認するべきだとパルフェは決意する。
そしてパルフェと同じくらいの熱意を持っているのがラーディアだ。目をキラキラさせながら、鼻息を荒くしている。
「そ、それって、愛する人を守るために行動したってこと!? リーさん! 詳しく! もっと詳しく教えて!」
「俺も又聞きだから良くは知らねぇよ。なんかレイドボス的な奴の攻撃をかばおうとしたとかなんとか。でも、エシャのデストロイが一瞬早くて、レイドボスの攻撃が届く前に倒したってことらしいが」
それを聞いたラーディアは少しだけ眉を下げる。
「……それってAFOでの話?」
「そうだけど、そういう流れだったろ。現実の話じゃねぇよ」
「そっかぁ、AFOかぁ。ハヤトさんのことだから現実でも命を懸けてエシャさんを守ったとか、そういう話なのかと思っちゃった」
実を言えばパルフェも似たようなことを思った。さすがにそんなわけはないという気持ちもあったのでショックではないが、ちょっと残念だとも思う。
そんなパルフェとリーの表情を見たリーは、少しだけ笑った。
「ハヤトがエシャをかばえたのはAFO内だから、なんて思う必要はないぞ」
「えっと……?」
「ハヤトは現実でも同じことをやるよ。ハヤトは楽観的なところがあるが、仲間のために命を張れる奴だ。俺の昔の仲間たちと同じ――いや、それ以上の奴だよ、パルフェは親父さんを誇っていい」
「……は、はい!」
面と向かって父親を誇っていいと言われてパルフェはリーに対する好感度がいきなり最大になったと言ってもいい。
「まあ、ラーディアみたいにハヤトのことを聞いただけの奴じゃ理解は難しいかもな。でもな、俺がここに居られるのも、お前達が地球の危険区域で生きられるのもハヤトのおかげだってことは忘れるなよ」
「も、もちろん分かってますってば! ハヤトさんは私達の救世主だって大人は皆言ってますもん。それを嘘だなんて思ってませんってば!」
「ラーディアちゃん、救世主って言葉はあまり他で言わないでね。前に私がそれを言ったら、お父さん、泣きそうな顔してたから」
「ハヤトは謙虚だよなぁ」
リーはそう言って笑う。
絶対に謙虚じゃなくて本当に嫌がっているのだろうなとパルフェは思う。それはそれとして父親が救世主と呼ばれている娘の立場としてもちょっと嫌なので、出来るだけそのコミュニティだけの話にして欲しいなぁとパルフェは願うのだった。




