伝説のテイマー
パルフェは今度の領地争奪戦で味方してくれるクランへ挨拶へ行こうと、まずは「猫は神」のクランへと向かっている。
元々頼む気ではあった。あくまでも個人的な依頼なので断られても仕方ないことなのだが、実際はまだ頼んでもいないのにすでに味方することが決まっているという驚きの情報があったためだ。
スジを通すためにもまずはきちんと挨拶と依頼をすることが大事だと、ルナリアとイヴァンから稽古を付けてもらう状況にも関わらず飛び出した。
そんなわけでクラン「猫は神」の拠点へとやってきたのだが、なぜか盛り上がりを見せていた。以前にも拠点へお邪魔したことはあったのだが、その時の比ではない。
パルフェは恐る恐る人だかりに近づいてリーダーのオリオンのことについて尋ねると、すぐさま呼び出してくれた。すぐに来るので待って欲しいと言われたが、そもそもこの盛り上がりの方も気になる。
「あのぉ、何かあったんですか?」
「実は伝説のテイマーさんが二人そろってここへ来てるんだよ!」
「伝説のテイマー……?」
「マリスさんとスーリャさんって知らない?」
「あー、よく知ってますけど……」
「そのお二人がさ、それぞれのペットを連れてきて色々指導してくれてるんだよ! 猫島であったジークフリートを従えているテイマーなんて伝説だよ、伝説! それにエルダーグリフォンのランスロット! これも前のイベントで戦ったよね! すっげぇやべぇ!」
そういや猫のスクリーンショットを撮るために戦ったなぁと思いつつ、むしろマリスのペットだからイベントに参加していたと言っても過言ではない。
そんな風に思っていると人垣の中からスチームパンク的なファッションのオリオンが這い出てきた。服装の乱れが人垣のすごさを物語っている。
そんなオリオンが身だしなみを整えながら笑顔でパルフェに近づいてきた。
「パルフェちゃん!」
「オリオンさん」
「いやぁ、ありがとうね!」
「は? あの、お礼を言う方は私の方なんですけど?」
満面の笑みで近づいてきたオリオンはパルフェの両手を握りこむように掴み、ブンブンと上下に揺らして礼を言った。
事情が分からないのでパルフェはここへ来た説明をする。領地争奪戦で味方してもらえないかを頼みにきたこと、頼む前から味方してくれそうなことの二点だ。
オリオンは一度だけ頷く。
「もちろんパルフェちゃんの味方をするよ! 大体さー、キャンサーから味方するように言われたんだけど、ずいぶんと偉そうに言われてね! 頭来たから追い返したよ!」
「え? 財団相手に大丈夫ですか?」
昔ほどではないにせよ、絶大な権力を持つ財団。そこに逆らえばそれなりに影響が出る。それはAFO内のことだけでなく、現実にも大きく影響する。
「あー、平気平気、確かにその心配はあったけど、そこはほら、マリスさん達が色々対処してくれたみたいで」
詳しく聞いてみると、マリスやスーリャが所属している財団サジタリウスがクラン「猫は神」の保護を申し出たと言う。簡単に言えば、現実でキャンサーから何かしら不利益をこうむったらサジタリウスが出るとこに出るという話だった。
思いのほか話が大きくなっているのだが、キャンサーやタウロスが権力を行使するようであれば、他の財団も黙っていないという流れになっているようで、財団からの依頼に関しては受けるも断るも自由にしていいということになっている。
「そんなことよりもさ! パルフェちゃんの味方を表明したら、マリスさんとスーリャさんが大学で会いに来てくれてさ! さっきのサジタリウスの保護の件と、良ければAFOでテイマーの技術を教えたいって言ってくれて、今日来てくれたんだよ! しかも今度、大学の講義を受講しないかって言われちゃって! ぶっちゃけ、やばい」
嬉しそうに語っていたオリオンが、ぶっちゃけやばいと言った時は真顔だった。それだけやばさが伝わってくるが、なんでも二人の講義はかなり人気らしく、まず受講の予約が取れないほどなので、その二人から枠を取っておくと言われて呼吸困難になりそうだったと言っている。
「いやぁ、これが目的だったわけじゃないんだけど、パルフェちゃんの味方を表明してよかったなぁって。だからお礼を言ったんだけど」
「そういう経緯でしたか。さっきも説明しましたけど、何も頼んでないのにいつの間にか味方をしてくれるってことで慌ててお願いに来たんですよね。マリスさん達がいるとは思ってなかったですけど」
「そういうとこ、真面目だねぇ」
「いえいえ、何事にもスジは通さないと。ええと、それで、オリオンさん、今度の領地争奪戦、クラン『モンブラン』の味方をしてくれますか?」
「もちろんだよ! 話によれば魔王城の領地を取るんでしょ? そんな大イベントに乗っからないでどうするの! AFOの歴史に私とペットの名を刻んじゃうよ!」
言われてみれば魔王城の領地を得るというのはAFO内で初めての出来事。その最初のクランを応援したクランとなればAFOの歴史に名を連ねるという状況になる可能性が高い。
「簡単にはいかないと思いますけど、オリオンさん達が味方してくれるならすごく心強いです」
「そう言ってもらえると嬉しいけど、意外と財団の誘いに乗っている大手クランも多いみたいで、楽観視はできないかもねー」
「そうなんですか?」
「色々と表明しているところはあるね。『グラトニー』とか『第六天魔王』とか『黄金の果実』とかはキャンサーに付いたんじゃないかな」
「聞いたことがある大手クランですね」
「聞いたことがあるのは東の国の百鬼夜行に参加しているからかもね。ちなみに百鬼夜行常連のナイツ・オブ・スイーツのバルバラさんはパルフェちゃん側に付くって言ってた」
「バルバラさんも味方してくれるんですね? これはちゃんと挨拶に行かないと」
「その関係で最大大手とも言われているバンディットもパルフェちゃんに付くらしいね。リーダーはイングリッドさんだったけ?」
「イングリッドさんもかぁ、ありがたいなぁ」
甘い物大好き仲間のバルバラと腹筋の鍛え方がすごいイングリッド。その二人は別のイベントでは戦っていたが、どうやら顔見知りのようでもあった。
もともとバンディットは元財団レオのジョルトが創ったクラン。その姪であるイングリッドがこちらの味方をしてくれるのはネイからの依頼の可能性もある。
その二人が味方してくれるというなら、これまたありがたい。パルフェは改めてお願いに行こうと頭のメモ帳に書いておく。
他にもオリオンから「クリテイシャス」のディーガーや、「ハイウェイスター」のラーディアもパルフェに付くという話を聞いた。「クリテイシャス」の方は知っていたが、「ハイウェイスター」の方は初めて知ったので、挨拶に行かなくてはと、これまた頭のメモ帳に書き込む。
「パルフェちゃん」
「あ、マリスさん」
人垣の中から今度はマリスがやってきた。白をベースにした軽装で少々肌が露出しているが、気になるのは背中に背負っている巨大なランス。馬上で突撃することを目的としているような槍なのだが、かなり巨大であり、あんなので突かれたら痛いじゃすまないレベルだ。
そんなマリスは周囲から羨望の眼差しを受けているが、本人はまったく気にしていないようで、グリフォンのランスロットを連れて近づいてくる。
そしてオリオンは先ほどとはうってかわりガチガチに緊張している感じだった。
「久しぶりだね。元気だった? 風邪とかひいてない?」
「はい、元気です。ご心配ありがとうございます。でも、私よりも地球の危険区域に行っているマリスさんの方が心配ですけどね」
「私の方は大丈夫だよ。保護しなくちゃいけない動物たちがいっぱいいるからね! でも、動物ってすごいんだよ、環境に慣れる強さがあるっていうか、そういうのは人間よりもはるかにすごいよね! 最近はね、保護はせずにそのままにしておく方が良い場合もあってね、観察や記録をすることの方が多くて――」
「あの、マリスさん、その辺りはまた今度で……」
動物のことを語り出したら止まらないマリス。喫茶店に来たときによくあることなのだが、今回はAFO内の話なので強制的に止めることにした。
「あ、あー、ごめん、久々だったから暴走しちゃった。こんな話でもオリオンちゃんはしっかり聞いてくれるからその癖が出ちゃったかも」
「い、いえ! マリス教授のお話は全部面白いので! 私もいつか地球の動物の観察や保護の仕事に就きたいと思っていますからすごく参考になります!」
「あ、本当? なら今度一緒に行く? 大学の課外授業の一環で。スーリャはコロニーでやることがあるし、なかなか一緒に行ってくれる人がいなくてねー。危険な場所ではあるけど、護衛の皆さんはかなり強いから安全だよ」
「絶対に行きます!」
オリオンはマリスをかなり尊敬をしていることがその言動から分かる。パルフェとしては、動物以外のことはちょっと抜けているですよと思ったが口に出すことはなかった。
「それにしてもパルフェちゃん、大変だったね」
「まあ、色々ありまして」
「ハヤトさんも色々と巻き込まれるタイプだったけど、最終的には全部いい形で問題を解決していたからね、パルフェちゃんも大丈夫だよ」
「そう言ってもらえるとちょとだけ気が楽になります」
顔や態度には出していないが父親のハヤトは今回の件を自分のせいだと思っている節がある。全くそんなことはないと周囲は言っているし、パルフェもそんな風には思っていないが、そんな心労をかけた財団にはかなりの恨みがある。
とはいえ、それを前面に出すのも大人げないので大人しくしている。少々怒りがくすぶっているが、大きく息を吐いた後、マリスが連れているランスロットが目に入った。
とても良い毛並みをしているので撫でて心を落ち着けようと許可をもらうためにマリスの方を見た。
「マリスさん、ランスロットを撫でてもいいですか?」
その言葉になぜかマリスは少し顔を曇らせた。
「あ、駄目でしたか……」
「ごめんごめん、そうじゃなくてね……昔、エシャさんがランスロットを撫でてものすごく攻撃されてたんだけど、パルフェちゃんは大丈夫かなって」
「マリスさんのペット扱いなんですよね? なぜお母さんに攻撃を……?」
本来ペットは攻撃命令をするまで大人しくしている。襲われたときは反撃するが、撫でるくらいで攻撃すると言う話は聞いたことが無い。
「それが原因不明でね。エシャさんの調教スキルがマイナスだったことが影響しているって話らしいけど、他の人はそんな状況でも平気なんだけどね……」
母はかなり特異な体質を持っていたという話だが、ディーテも分からないような仕様が含まれていたらオカルトとしか言えない。
「それでもエシャさんは諦めなくてね、ディーテさんに治癒魔法を受けながらランスロットを撫でていたよ……」
「お母さん……まあ、お母さんの動物好きはかなりのものがありますからね。具体的にはジークがかなり被害を被っている感じですけど」
エシャはジークが喫茶店に来ると大体三十分はお腹を撫でている。ジークもその時は心が無になっている状態なのか、微動だにせず、ただ時が過ぎ去るのを待つだけだ。その後にハヤトが出す猫用マグロ丼のためだろうとパルフェは思っているが。
「あ、そうだ。ジークで思い出した」
マリスが何かを思い出したような顔になると、すぐにパルフェの方へ笑顔を見せる。
「うちのジークがトラチヨちゃんを修行しているみたい。もうそろそろ帰ってくると思うよ」
「え? トラチヨが? ジークのもとで修業?」
「うん。トラチヨちゃん、武者修行で各地のボス野良猫を倒していたみたいだよ。ジークへの対戦権利を得てボコボコにされたけど、その心意気に感心して稽古をつけてあげているとか。トラチヨちゃん、主人思いだよね」
「え? トラチヨちゃんの二回目の修行って全国武者修行!? というかジークフリートちゃんへの対戦権利!? また検証しないと!」
興奮しているオリオンの声を聞きながら、なんの修行をしているのだろうかとちょっと疑問に思ったパルフェだが、強くなったトラチヨも領地争奪戦の戦力なるだろうと再会できることを楽しみにするのだった。




