お願いと感謝
魔王ルナリアと勇者イヴァンの戦いを参考にする、そんな目論見があったパルフェだが、それは数秒で破綻した。
(まったく参考にならない……)
パルフェのそんな心のボヤキは仕方ないことだ。正直なところ、速すぎてほとんど見えない。なにかしらフェイントを入れているような気はするが、そう思った次の瞬間には別の攻撃に移っており、パルフェの認識では二、三手遅れている。
また、絶え間なく続く攻防の速さもそうだが、ほぼ未来予知でもしているのかというほど攻撃と守備が同時だった。普通の戦闘であれば守備側の方がほんのわずかな時間だけ動くのが遅い感じになるのだが、そこに攻撃が来るのが分かっているのか、相手の攻撃の始動モーションと同時に攻撃を受ける状態になっている。
二人の性格からしてそれはないと思うが、台本の通りに戦っているようにしか見えない。よく考えたらベニツルとシモンの戦いも似たよう感じだなーとパルフェはのんびりした思考で考える。早々に色々なことを諦めて戦いを眺めるだけにした。
そんなパルフェの方にイヴァンはルナリアと戦いながらも視線を向けた。
「これじゃパルフェの参考にならねぇな。ちゃんと教えてやらねぇと後でエシャに何を言われるか分からねぇんだが?」
「大丈夫、パルフェちゃんならなんでも参考になる」
「相変わらず無駄に自信だけはあるんだな」
「フッ、魔王としてレベルアップしたと言っていい……!」
「パルフェのことなのにお前がレベルアップして自信を付けんな」
パルフェからすればそんな高速戦闘中に良くしゃべれるなとしか言えないが、二人なら余裕なんだろうなとしか言えない。
そんな状況がしばらく続いたが、突如、イヴァンの方がルナリアの攻撃を受けなかった。その攻撃が当たる瞬間にルナリアも動きを止める。
「どうかした?」
「パルフェは感覚派じゃないからこのままだと何の参考にもならないんだよ。いや、少しくらいは参考になるかもしれないが効率が悪い」
「むう……じゃあ、私とパルフェちゃんで戦う方がいい?」
「お前は手加減が下手だろ。それにすぐ本気出すし、練習にならねぇんだよ」
「むう……!」
ちょっとむくれ気味のルナリアだが、パルフェとしてはイヴァンに賛成したい。興が乗ってくると色々と状況を忘れて本気を出すのがルナリアだ。昔、ゲームでボコボコにされた経験もある。
「でも、私が元凶だからパルフェちゃんに何かしてあげたい」
「気持ちは分かるが……例えばだが、戦闘ならパルフェになんてアドバイスする?」
「戦闘で? なら、斬られる前に斬れば勝てるってアドバイスする」
イヴァンはパルフェの方を見て「な? 参考にならないだろ?」みたいな顔をしているので、パルフェは力強くうなづいた。そのやり取りで色々察したルナリアは寂しそうに剣で地面に変な字を書いている。
「あのな、ルナリア、お前とかベニツル、それにセシルなんかもそうだが頭の中にある大量の情報を瞬間的に精査、判断して動くから凡人には参考にならねぇんだ――ああいや、パルフェが凡人だとは思っていないが、こういうことに関してはルナリアは天才の中でも更に上澄みだからな。今の時点でパルフェにその動きを理解しろと言うのは無理がある」
天才の中でもさらに上澄みと言われて、寂しそうだったルナリアの顔が笑顔になってパァーと明るくなる。
「確かに魔王としてレベルが上がり過ぎたかも。ゲームでもレベル差があると経験値が入らないというシステムはよくある」
そんなゲームシステムの話ではないのだが、似たような物かもしれないとパルフェは納得した。ただ、気になる点はある。
「でも、ベニー師匠は結構教えるのは上手いですよ」
「ベニツルは父親だか祖父だかに剣術の指南を受けていたからな。指導方法の指導も受けているだろうから何とかなる。修行が苦しく思っていない奴だから自分にできることは他人にもできると信じて疑っていないのが玉に瑕だが」
パルフェは心の中で頷く。
アズマ流の道場に門下生がシモンとパルフェしかいないことがそれを物語っている。ベニツルは戦闘センスや身体能力なんて死ぬほど修行すれば何とかなると信じて疑わない。そもそも死ぬほど修行できること自体が特異体質であることが分かっていないのだ。しかも残念なことにシモンがその稀有な例として頑張ってしまったというのもある。
パルフェとしては強い人は何らかのリミッターが外れている人なんだろうなと常々思っているほどだ。
「何かを教えるなら自分の考えをしっかり言語化できる奴が一番いいんだけどな。ゼノビアとかシモンなら文句はないんだが……頭で理解した上でルナリアと戦うなら得る物も多いとは思うんだけどな」
「ゼノビアちゃんはカザトキちゃんの修行に付き合ってるから今は無理」
「え? カザトキさん?」
カザトキはクラン「ふぁいと☆くらぶ」所属でジニーやシンシアから狐巫女僕っ娘のじゃ姫をプロデュースされている女性。家が空手道場なのだが、その強さを見込まれてルナリアの護衛部隊にも所属している。
パルフェ並みの強さを持っており、友人とも言える仲だが、最近は護衛の仕事が忙しく、ゼノビアに修行してもらっていると聞いたのは初めてだった。
以前、イベントでパルフェと戦うためにゼノビアに稽古をつけてもらっていたのは知っているが、なぜ今、という疑問がある。
「あれ? 聞いてない? カザトキちゃんはパルフェちゃんの味方をするって改めてゼノビアちゃんに修行してもらってる」
「え? そうなんですか?」
カザトキには頼もうと思っていたパルフェだが、装備強化のためにネイ達と一緒に素材集めをしていたこともあって会えていなかったのだ。
何も言わなくても助けてくれる、だからと言って何も言わないわけにはいかない。改めて頼みに行く必要はあるが、頼んでもないのに味方してくれるというのはちょっと涙腺が緩む。そして、今度、家の喫茶店に呼んでお礼をしようと心に決めた。
「そういや、マリスも地球から戻ってきてるぞ」
「え? マリスさんが? それは嬉しいですけど、なんでいきなりそんな話を?」
「パルフェ以外も修行していると聞いて思い出したんだよ。なんかスーリャに呼ばれたらしいが、指導してやりたいテイマー達がいるとかなんとか。今回のパルフェ絡みでそのテイマー達が味方すると言ってたのを聞いたから思い出した」
「それって『猫は神』のクランのことですか?」
「あー、そんな名前だったな。それに恐竜関係のクランもあった気がする。マリスやスーリャたちも直接パルフェの味方をするみたいだけど、そのクランメンバーたちにテイマーとしての修行を付けるみたいな話をしてたぞ」
クラン「猫は神」とクラン「クリテイシャス」。主に猫や恐竜をペットとして扱っている大手クラン。とあるイベント中で二つのクランと知り合い、たまに一緒にクエストをこなす仲だ。
それぞれクランリーダーのオリオンとディーガーとは特に仲が良く、AFOの外でも話をするほどだが、その二つのクランにもまだ頼みには行っていない。にもかかわらず、味方をしてくれると言う。
仲が良い人たちが何も言わずとも味方してくれると思うと、胸のあたりが温かくなる。そもそも大手クランにはタウロスやキャンサーから味方するように声掛けしているようで、大手クランの「猫は神」や「クリテイシャス」にも声が掛かっている可能性がある。可能性でしかないが、味方してくれるというなら財団の頼みを断ったということだ。
これは修行の前にきちんとお願いに行くのが筋ではないだろうか。そう思ったパルフェはルナリアとイヴァンに説明する。
それを聞いたルナリアはこくんと頷いた。
「それは大事。お願いと感謝はしておかないとご飯のグレードが下がっていくから」
「ルナリアはロザリエたちにメシを作らせてんのか」
「……エスパー?」
「いや、なんとなくそう思っただけだ。しかも合ってんのかよ」
「昔の話だから。今はちゃんとクッキーを焼いてお礼と共に感謝の言葉も伝えている。今はお願いとお礼と感謝を欠かさない立派な魔王。褒めることを許す」
「まあ、確かに立派だな……いや、普通か……?」
そんなんでいいのかとは思うが、ロザリエ達ならそれで十分なのだろうとパルフェは勝手に納得した。それよりもまずはきちんとお願いに行こうと、二人にはせっかく来てくれたのに申し訳ないと謝ってからすぐにクランの場所へと向かうのだった。




