最強の訪問者たち
パルフェは拠点に戻ってきてようやく一息ついた。
今日はネイに誘われてパルフェの修道服を強化するためのアイテムを黒龍のメンバーと共に取りに行っていたのだ。
強化素材用のアイテムはほとんどオークションや他のプレイヤーから直接買うことができるが、レアなアイテムは売りに出されていないので自分で取りに行かなくてはならない。
さすがに十人程度のメンバーでは集められるアイテムにも限度がある。今度はレイドボスと戦闘をする必要があるらしく、ネイは色々なところに調整をしておくと言ってパルフェと別れた。
その後、拠点で休んでいたのだが、ネイがアイテム集め中に言っていた言葉が印象的だったとパルフェは思い出す。
「懐かしいな。昔もこうやって素材集めにいそしんだものだ」
ネイが昔を懐かしむようにそう言った顔はとても優し気だったとパルフェは思う。聞けば父であるハヤトのために多くの素材を取りに行っていたという。
誰かの誕生日には本人には内緒で素材を集め、ハヤトが生産スキルで作り出していた。ネイの持つエクスカリバー・レプリカも同じ理由で用意されたもので、これは一生の宝だと恥ずかしげもなく言っていた。そんな大事な装備だが一度奪われたことがあり、父であるハヤトが取り返してくれたと言う。
「装備は単なるデータとはいえ、それに付随する思い出だけは間違いなく本物だ。現実の高価な物よりもはるかに価値があると思っているよ。それに皆と遊んだ時間も私にとっては大事な思い出なんだ」
すでに40を超えているような大人ではあるが、同じ仲間が集まると当時の感覚が戻るのか言動がかなり若くなるようで、言葉遣いも普段より柔らかい。ただ、ネイの普段は優秀なのに黒龍のメンバーと一緒だとなぜかポンコツ気味だった。
自分も歳をとった時に今を楽しかったと思い出すときがくるのかなとパルフェは想像する。少し考えた後、歳をとれば分かるよね、と思考を止め、今日の残りの時間をどうするか考え始めた。
友人たちはそれぞれ修行中だ。
ナツは両親のミストとノアト、そしてダミアンとルースに色々教わっているようで死霊魔法や支援魔法の腕を磨いているとのこと。ルースと一緒の時間が増えたのか、満面の笑みでそう報告された。
クリスは暗殺者ギルドでザックに色々教わっているが、さらに両親のギルやシルヴァからも色々と教わっているようで、かなり充実な日々を過ごしていると学校で満足げに言われた。
リックはレリックやソニアから指導を受けているようで、こちらもかなり充実しているようだった。それ以外にもクラン「レイブン」と連携して色々と情報収集を行っているようで、そのうち連絡するとのことだった。
ジニーも両親のアドリアンやリンジーに悪魔召喚の戦闘技術を教わっている。さらにはミカンと共にダンジョンに潜って悪魔召喚の神髄を学んでいる最中という報告を受けている。
ウィルネはロニオスから剣技を学んでいる。それ以外にも両親のハリントンやクレモラに色々教わっているようで、昔よりも家族で一緒にいる時間が増えたと喜んでいた。
アベルは現実の仕事が忙しいようだが、こちらもドラゴンソウル総出で色々と教えているようで「役者の指導より厳しい……」とちょっと愚痴をこぼしている。また、アベルの母であるセシルに対して、やべぇ、と言っていたが、具体的に何がヤバいのかは教えてもらえなかった。
そんな状況であったので、自分もベニツルやシモンに指導を受けるべきではないだろうかと、連絡をすることにした。
現実の方の連絡先につなごうとしたところで拠点のドアがノックされる。
今日は誰も来る予定はなかったはずとパルフェは不思議そうにドアへと近づく。
「どちらさまですか?」
「な、謎の魔王です……」
「ルナリアさんじゃないですか」
なぜか消え去りそうな声で魔王を名乗ったのは間違いなくルナリア。とくに警戒することもなくドアを開けると、なにやら両手の人差し指をちょんちょんとしながらおどおどしているルナリア――らしき赤い鎧で兜をかぶった人物がいた。
これはメンタルが弱っている時のルナリアさんだ、そう思ったパルフェは笑顔でルナリアを中へと促す。
「どうぞどうぞ、入ってください」
「お、お邪魔します……」
キョロキョロしているルナリアをテーブルに付かせると、砂糖とミルクたっぷりのコーヒー、通称「ルナリアスペシャル」を出し、さらにイチゴのショートケーキを出した。
兜を脱ぎ、コーヒーを飲んでちょっとは落ち着いたのか、ルナリアは大きく息を吐く。
「ルナリアさん、珍しいといいますか、ここに来るのは初めてですよね? どうされました?」
「う、うん、パルフェちゃん、ごめんね、変なことに巻き込んで」
「ああ、なんだ。そんなの別にいいですよ。大体悪いのはタウロスとキャンサーの財団なんですから」
「そうかもしれないけど、一番のきっかけを作ったのは私だし……皆にもかなり怒られた。魔王なのに」
魔王どころか財団統括ですけどね、そんなツッコミが口から出かかったが、なんとか耐えた。
「だからお詫びにパルフェちゃんを財団統括の正当な継承者にしようかと思って」
「いやいやいや、今回の件、何が問題だったのか分かってますよね?」
「うん、大丈夫。それに副業でいいから。猫カフェをメインに統括はサブで」
「常識的に言えば逆です」
「フッ、魔王に常識は通じない……!」
それ以前に話が通じないというのはおかしな指摘ではないだろうとパルフェは思う。ただ、これは喫茶店に来たときのルナリアさんだというのは子供のころから知っている。
オンオフの切り分けがはっきりしているというか、はっきりしすぎて、ほぼ二重人格。仕事中のルナリアはかなり優秀なのも知っているが、振れ幅が大きいので同一人物と思えないほどだ。
「また怒られますよ?」
「大丈夫、内緒にしておくから。どうしてもだめなら財団統括はディーテちゃんに任せるという考えもあるから、頭の片隅にでも置いてほしい。もしかしたらなりたいと思う時が来るかもしれないし」
「来ないと思います。というか母が許さないような気も」
「……エシャちゃんは怖いよね。あれは魔王でも怖い」
魔王に恐れられる母親って何とは思うが、何か本能的な恐怖があるのだろうとこれ以上は考えないことにした。
「それで今日は謝罪に来てくれたんですか? もう現実で何度も謝ってもらってますし、怒ってませんから大丈夫ですよ」
「うん、謝罪と継承者の話もあるけど、今日は別件でも来た。むしろこっちがメイン」
「別件……?」
「私がパルフェちゃんを鍛えてあげようと思って。言うなれば修行」
「え? ルナリアさんが直々に?」
「うん。それに昔から思ってた。ベニーちゃんのアズマ流剣術だけじゃなくて、ルナリア流剣術も学んで欲しいって」
そんな流派は初めて聞いたというのが正直なところだ。そもそもルナリア以外にルナリア流剣術が仕えるのかどうか微妙な気がする。
とはいえ、実際にルナリアが戦うところを見たことはない。剣術がどうこうというよりはルナリアがどれほど強いのか知りたいと言うのはある。
そう考えたパルフェはルナリアに頷いた。
「修行というか、ぜひ手合わせしてもらえますか? ルナリアさんが強いのは皆から聞いているんですけど、実際には見たことが無くて」
ルナリアの顔がパァーと輝くような笑顔になって「すぐやろう!」と、ケーキを食べてコーヒーを一気に飲むとすぐさま外へ出てしまった。
その後を慌てて追うパルフェだが、入り口を出たところでルナリアが止まっていた。
「あれ、ルナリアさん、どうされました?」
「おー、パルフェか? デカくなったなぁ。もう中学――いや高校か。時の流れは早いもんだ」
「え?」
何やら軽そうなノリの男性が外に立っていた。一瞬、誰か分からないでいるとルナリアが口を開く。
「イヴァン……!」
「あ、イヴァンさん!?」
勇者イヴァン。魔王ルナリアのライバル的な存在。現在は地球の危険区域に行っていたため会うことすら数年ぶりだ。そのイヴァンがパルフェの方にヒラヒラと手を振って「よう!」と言っている。
「ルナリアも一緒とは驚いたぜ。なんかエシャからパルフェに戦い方を教えてやってくれって頼まれたから来たんだが――うお! あぶねぇ! いきなり斬りつけんな!」
「パルフェちゃんに教えるのはこの魔王ルナリアって生まれた時から決まってる。イヴァンは帰るといい……!」
「決まってんのかよ。でもよ、俺だってエシャに頼まれて何もしなかったらやべぇんだ。無理矢理にでも教えてくぞ」
なぜか拠点の前で勇者と魔王の戦いが始まりそうだが、強者同士の戦いを見るのも勉強になるかなと、ちょっとだけわくわくするのだった。




