黒龍と黒薔薇
パルフェは拠点の店舗エリアでこれからのことを考えていた。
領地争奪戦において魔王城を得ることで財団との縁談を回避できるわけだが、自身のクランである「モンブラン」では戦力が足りない。そのために味方になってもらえるクランを探しているわけだが、すでに両親が知り合いに声掛けをしているようで現時点でも過剰戦力と言わざるを得ない。
とはいえ、領地争奪戦では一週間の防衛が必要。毎日ログインできる保証もないので戦力は多ければ多いほどいい。過剰戦力であろうと更なる戦力の増強が必要だとパルフェは考える。
ただ、基本的に両親の知り合いはほぼ無条件で手を貸してくれるようで改めてお願いに行く必要はないとのことだった。そう言われても挨拶に行くのは当然だと、今日はどこへ行こうかと頭を悩ませている。
(ここはお父さんやお母さんの知り合いじゃなくて私の知り合いに直接お願いに行こうかな。「ナイツ・オブ・スイーツ」のバルバラさんとか「猫は神」のオリオンさん、あとは「ふぁいと☆くらぶ」のブレイクさんとか……ブレイクさんは財団関係者だから厳しいかも。それに自分の領地もあるから手伝ってもらえない可能性もあるかな)
色々と考えるパルフェ。どのクランも領地を持っているのでそこを攻撃されたら防衛の必要がある。その状況で助けてもらえるかどうかは分からないが、打診だけはしておこうかと考えている。
(魔王城を得るならこの拠点も手放さないと駄目だよね。結構気に入っているんだけど)
領地はクランで一つというルールがあるため、もし魔王城の領地を得て拠点とするならこの拠点は手放す必要がある。一年に満たない場所ではあるが、それなりに思い出もあるのでちょっとだけ寂しく感じるパルフェだ。
(まあ、魔王城を得てもそのうち手放せばいいか。その後はまたここを拠点にしよう……よく考えたら、こんなことさせられている私はもっと怒っていいのかな?)
今回の件、巻き込まれたとはいえ、あまり怒ってはいなかったのだが、よくよく考えるとこの拠点を手放す必要が出てきたことで怒りのベクトルが財団に向いた。タウロスとキャンサーの財団は何がしたいんだと言いたくもなる。
そんな怒りから、イチゴパフェをやけ食いしようと思ったところで拠点へ誰かが来たようだった。
「どちら様ですか?」
「ネイだ。それにロザリエもいる。開けてもらってもいいだろうか?」
「え? ネイさん? それにロザリエさんも?」
慌てて入り口の扉を開けるパルフェ。
そこには白銀の鎧を着たネイと、黒のゴスロリ服で目元を隠す蝶のマスクをしたロザリエがいた。正反対のような気もするが、一緒にいるとお互いを引き立てているようにも思える二人組。もともと仲が良いとは聞いていたが、実際に二人で一緒にいるところを見るのは初めてのパルフェはちょっとだけ驚いた。
「ハヤトの喫茶店ではよく会うが、AFOでは初めて会うな」
「入ってもよろしいですか?」
「あ、はい、どうぞどうぞ」
まさかの来訪者に動揺するパルフェ。ロザリエは以前「ふぁいと☆くらぶ」のイベントでルナリアと一緒のところを遠くから見たことはあったが、AFO内でネイに会うのは初めてだった。元々プレイヤーであり、現在はAFOの運営をしているネイにアバターがあることは知っていたが、初めて見るその姿にちょっと感動もしている。
そんな状態ではあったがパルフェは二人をテーブルに案内して座るように促す。そして飲み物や食べ物を聞き、それを用意してテーブルに置いた。
「えっと、お二人そろってどうしたんですか?」
その言葉にネイとロザリエが頭を下げた。
「その前に申し訳なかった。今回、つまらないことに巻き込んでしまったのは大人の失態だ。財団の当主として謝罪する」
「ルナリア様も同じように反省しています。仕事の都合で今日は来れませんでしたが私が代わりに謝罪を。どうか許してやってください」
「ちょ、ちょ、ちょ、頭を上げてください。お二人というか、ルナリアさんのせいでもありませんから」
怒りがあるとすれば、財団タウロスと財団キャンサー。それ以外は自分と同じように巻き込まれたとしか思っていない。元をただせば色々あるのだろうが、そんなことを言っていたらどこまでも遡れることなので、そこに謝罪を求めてもいないし謝罪をされても困ると言うのが本音だ。
二人は頭を上げると顔を見合わせてから改めて謝罪した。
「パルフェならそう言ってくれるとは思っていたが、本当にすまなかった。それにエシャがかなり怒っていてな、つまらんことに娘を巻き込むなと言って、ハヤトがなだめているほどだよ」
家ではいつも通りの母であったが、見えないところではそんな風に思ってくれているのはちょっと嬉しい。
「そして全く関係ないのにハヤトが自分のせいかもとへこんでいてな、見ていてこっちが辛い気持ちになってしまったよ」
これまた家では普通だった父だが、なんでそんな風に思うのか分からない。詳しく聞くと、面倒ごとに巻き込まれる体質が受け継がれたとか、この面倒事も自分のせいだと思っているとのことだった。
それを聞いたパルフェはさらに二つの財団に怒りを覚える。
(私だけじゃなくて、お父さんとかお母さんにも影響がでてる……なんかイライラしてきた……!)
自分のことはともかく、両親や知り合いに害が及ぶとなれば黙っていないパルフェ。これは領地争奪戦でボコボコにしないと気が済まないとまで思い始めてきた。
それはそれとして、それを言いに来ただけではないと思ったパルフェは最初の質問に戻る。
「状況は分かりましたけど、謝罪は不要ですよ。まあ、タウロスとキャンサーには色々言いたいことはありますが。それで、今日はお二人でどうされたんですか?」
「うむ、今回の領地争奪戦では私も協力しようと思ってな。黒龍のメンバーにも声をかけた」
「わたくしもです。黒薔薇のメンバー全員で参加いたします」
「はい? いやいや、ネイさんもロザリエさんもお暇ではないでしょう。大体、ネイさんは運営側じゃないですか」
「そんなことを言ったらディーテは管理者だ。運営が参加することくらい何の問題もない」
「いや、まあ、そうなんですけど」
「それにな、今回、負けるわけにはいかない」
かなり真剣な顔でそう言ったネイ。さらにはロザリエも深く頷く。
「それはどういった……? あの、負けてお見合いくらいなら別に平気ですけど……そもそも結婚をするわけでもないので」
「そうじゃない。問題はディーテだ」
「ディーテお姉ちゃんですか?」
「ディーテがハヤトやエシャ、それにパルフェが望まないことを誰かが強制したとしよう。どうなると思う?」
「ええと、どうなります?」
「世界が終わる」
「何言ってんですか」
いきなり規模が違うというか、何をゲームみたいなことを言っているんだというツッコミを入れる――のだが、ネイはいたって真面目な顔をしている。そしてロザリエもとくに驚く様子もなく、真剣な顔をしていた。
「いや、冗談ではなくてな、ディーテはその気になれば世界を支配できるほどのAIだ。そんなAIを怒らせたらどうなるか……財団に制裁するくらいならいくらでもできる。実際に世界を滅亡させるような真似はしないが、財団は全部そろっていて初めて人は生活が出来ている状態だ。いくつかが消滅した場合、一部の秩序は失われ、その影響は計り知れない。そしてディーテはパルフェたちのためなら躊躇なくそれをする」
パルフェは口をぱくぱくさせており、ネイとロザリエはコーヒーと紅茶をそれぞれ優雅に飲んでいる。
ネイがカップから口を離すと、改めてパルフェへ視線を向けた。
「ディーテはこの会話を聞いているだろうが、ここへ来て訂正していないだろう?」
「そう……ですけど」
「ハヤトやパルフェが言えばディーテは止めてくれるだろうが、エシャはやれというだろうな。ディーテもエシャも似たようなところはあるが、とくに敵に容赦しないという部分は間違いなく一緒だ。そんなことにならないように私やロザリエも手を貸す。なのでパルフェも見合いくらいならと手を抜かないで欲しい」
「当事者ではあるんですけど……なんか大変なことになってますね……」
「まったくだ。知らないとはいえ、タウロスとキャンサーは本当に余計なことをしてくれた。これからのイベントで二つの財団に協力を仰ぐところであったのに……事前通達していなかったこちらにも非はあるが猜疑心が強すぎる」
「ネイが言いたいことも分かりますが、それだけ他の財団と差が開いていると思っているのでしょう。それに協力を仰いでいない財団がその二つになったことも問題でしょうね。攻撃と防衛、バランスが崩れたらお互いがお互いを危険だと思い、強硬手段に出たのだと思います。そちらの都合なんてディーテには関係ないでしょうが」
ロザリエがそう言うと、今後はネイが頷く。
自分の想像以上に大変なことになっていると今更ながらに認識するパルフェ。もともと負けるつもりはなかったが、それなりに軽く見ていた部分はある。とはいえ、世界のために負けられないと覚悟を決めるのは無理があるが。
「と、とりあえず話は分かりました。ネイさんやロザリエさん達が手を貸してくれるなら百人力です」
「そう言ってもらえると助かる。それで領地争奪戦が始まる前にやっておこうと思っていることがあるのだが」
「やっておくこと? なんでしょう?」
「当然、装備のアップグレードだ。今着ている修道服を強化すれば最強装備になる。それにベルゼーブもレプリカではなく、本物に代えておこう。装備が強すぎるとゲームをつまらなくするかもしれんが、今回だけはそうも言ってられん。スキル向上も兼ねてレアアイテムを取りに行こうじゃないか」
そう言われたパルフェは着ている修道服と持っているベルゼーブ666・レプリカ・Pカスタムを見つめるのだった。




