救世主の頼みごと
パルフェはクリスの案内で暗殺者ギルドへとやってきた。
そこで会ったのがギルドマスターのザック。暗殺者だとは全く思えない風貌に軽いノリなので本物の影武者ではないかと思えるほど。だが、一瞬でパルフェたちの背後に回り込む動きには、パルフェでも目で追えなかった。そのちぐはぐさがパルフェの頭の中を混乱させる。
テーブルの席に座ったパルフェとクリスはザックを不思議そうに見つめているが、そのザックは特に気にすることなく笑っている。
「ハヤトから助けてやって欲しいと連絡を貰っているよ。ハヤトもそうだけど、その娘も色々なことに巻き込まれるねぇ。こういうのは遺伝なのかい?」
「ええと、分からないです……」
「ハヤトもそうだけど他人を放っておけない奴ほど多くの人が集まるんだろうな。そして目立っちまうから色々なことに巻き込まれるわけか。難儀だねぇ」
ザックはそう言うとグラスに入ったお酒を少しだけ飲んだ。ゲーム内のお酒なので酔うことはないが、パルフェから見るとなんとなくお酒を飲んでいる時のように機嫌が良い風に見える。
「お父さんと知り合いなんですよね?」
「まあね。たいして絡んでたわけじゃないが、色々と世話になったよ」
「詳しく聞いてもいいですか?」
「あー、どこまで言っていいのか分からねぇんだけど、君達はどのあたりまで知ってんの? この聞き方もちょっと心配だけど」
「ディーテお姉ちゃんから大体のことは聞いています。ザックさんも120年前の人なんですよね?」
「そこまで知ってんのか。なら何を言っても平気だな。そう、君の母親と同じ年代の人間。ハヤトと出会ったのはAFOのサーバーが宇宙船アフロディテにあったころだな」
そしてザックはハヤトとの出会いを語る。
当時のソニアがギルドマスターであった盗賊ギルドがトレハンギルドになったことで健全化された。その影響から似たような犯罪系ギルドの暗殺者ギルドが落ち目となった。そこでイメージアップを図ろうとしたのだが、盗賊ギルドがトレハンギルドになった経緯にハヤトが絡んでいるということで、その拠点にザックが行った時が最初の接触だったと言う。
その拠点に忍び込んだのはいいが、タイミングが最悪だった。その世界で最強と呼ばれるほどの女性陣が拠点に集まっていたので、暗殺者ギルドのギルドマスターという立場にも関わらず、ザックは捕まってしまったのだ。
「色々疑問なんですけど、なぜ暗殺者ギルドがイメージアップを図ろうと……?」
「当時はAFOが俺の現実だったんだって。盗賊ギルドが健全化されちまったから裏稼業的なギルドは稼ぎが減ってなぁ。ゲーム内で腹が減って死ぬようなことはないが、美味いもんを食いたいし、酒も飲みたいからな」
「ああ、なるほど」
記憶がなくなり仮想現実こそが現実であるザックにはそこで生活するしかない。現実ではコールドスリープのポッドに入っているので死ぬことはないが、たとえ仮想現実でも美味しいものを食べたり飲んだりはしたいとのことだ。
「ザック殿、拠点へ行った時のタイミングが最悪だったというのは?」
クリスの質問にザックの眉間にしわが寄った。
「……思い出したくはないんだが、やべぇ奴らが集まっている時でな。あの時は本気で死ぬかと思った」
なぜかザックからは表情が消え、身震いする感じになった。暗殺者ギルドのギルドマスターが震えるほどの恐怖とはなんなのか知りたいが、ザックは頑なに言わない姿勢でいる。
なにかとても危険な目に遭いトラウマになっているのだろうと、それ以上は追及しなかった。
パルフェはようやく本命の話をすることにする。
「それでザックさん」
「なんだい?」
「お父さんから連絡が行っているとのことですが、助けてもらえると思っていいですか?」
「まあ、当然だな。コールドスリープしてた奴でハヤトの頼みを断る奴はいねぇよ。ハヤトには皆が命を救われたからな」
「それって救世主の話ですか?」
「そう。あのときは暗殺者の死に方なんてこんなもんだと諦めていたが……あれには魂が震えたよ」
ザックは懐かしそうにしながら手を頭の後ろで組み、椅子の背もたれに身体を預けてから天井を見る。
「でもな、ハヤトがログインしてきたというアナウンスが流れたとき、このまま死ねねぇと思ったね。俺は王都の防衛に回ったが、ハヤトならならなんとかしてくれると思ったもんさ。そこまで親しい間柄ではなかったんだけどな」
父親であるハヤトが褒められていることでパルフェは気分が良くなっている。自然と笑顔になっているのだが、一体どういう状況だったのだろうかとさらにザックへ質問しようとした。
「具体的にどんなことがあったか聞いても?」
「具体的に? もしかしたら知らないのか? 言ってもいいのかね?」
「ダメだったらディーテお姉ちゃんが飛んでくると思うんで」
「確かにそうか。なら簡単に言うと、AFOはデスゲームのような状況になった。後から聞いたらそんな状況ではなかったらしいけどな」
「デスゲーム……仮想現実で死んでしまうと本当に死んでしまうみたいな?」
「そうそれ。実際には違ったみたいだが、現実が分からない俺たちには判断が出来なくてな。倒されて復活もできなかったことでそういう状況になったと判断した。しかも現実の記憶が戻っちまって混乱している時だ、さらには大量のレイドボスが主要な都市を襲ってなぁ、逃げまどっていたよ」
ザックはその時のことを思い出したのか、先ほどよりも眉間にしわが寄っている。そしてグラスに入っていたお酒を一気に飲んだ。
「ログアウトはできない。耐えたところで助かるか分からない。そういう絶望的な状況だったんだが、ハヤトがログインしてきたというアナウンスが流れた。そして仮想現実を救う者――救世主の称号を得たともアナウンスされたな。その時の俺たちの喜びようは言葉では言い表せないほどだったぜ」
「そうだったんですね」
「これも後から聞いた話だが、ハヤトはその時のAFOの状況を知っていて助けに来てくれたわけじゃない。ただ、ヘッドギアからのログインはできなかったみたいで、宇宙船アフロディテに乗り込んでまでログインした。下手をしたら仮想現実からログアウトできずに宇宙をさまよう可能性もあったのに、来てくれたわけだ。まあ、ディーテを助けに来たというのが主な理由だったらしいが、AFOをあんな状況にした元凶をぶっ倒すために危険を顧みずにやってきてくれたってわけだ」
「おおー」
初めて聞く具体的な内容にパルフェはちょっと感動している。ベニツルやシモンがハヤトに助けられたという話は聞いていたが、具体的な内容に関してはあまり詳しくは教えてくれなかった。その理由は不明だが、ハヤトが口止めしていた可能性がある。
「これで分かったかい。命の恩人であるハヤトに頼まれたら俺たちが断るわけないってな」
「はい。まあ、ちょっと出来過ぎなので信じていいのか微妙なんですけどね」
「まあ、そうだな。でも、俺だけじゃなくて、クリスの両親も似たようなことを言うんじゃないかな。確か俺と同じようにAFO内に閉じ込められたメンバーだったからな」
「うむ。ウチの両親もハヤト殿のことを命の恩人だと言っている。何かを頼まれたら必ず応えるとも言っていた」
「だろ? だから安心しなよ。ハヤトの娘のために何かするってのは俺たちにとっては恩返しの一つさ。この程度じゃ何も返してないと同じくらいだけどよ」
「はい、ありがとうございます」
パルフェはそう言ってザックに頭を下げる。するとザックは「いいっていいって」とパルフェに頭を下げないでくれと逆に頼んでいるほどだ。
「話を変えるがザック殿、実は先ほどの動きのことを聞きたいのだが」
「え? 動き?」
「我々の背後を取った時の動きだ。恥ずかしながら全く見えなかった。あれは何を?」
「ああ、あれか。あれは人の反射を逆手に取った技みたいなもんでな。やべぇ奴らには通じないけど、二人には何とかなったって感じだな」
「反射を逆手に?」
「コインを上に飛ばした時に目で追ったろ? 動く物に対して無意識に目が行くのは反射みたいなもんだ。その隙に動いたに過ぎないさ。訓練すればそれを抑えることもできるが――そんなことよりも知らない人に殴りかかっちゃいけないからな? 君らの両親が言ったとしても、だ。それが常識だぞ」
なぜか暗殺者ギルドのギルドマスターに常識について語られているが、まあそうかもしれないとパルフェは思う。父親のハヤトはそんなことを言わないが、母親のエシャは気になったらまず攻撃という感じではあるし、ベニツルやシモンも似たような感じなので、なにが常識なのかとちょっと分からなくなってきたが。
そんなことを考えていると、クリスがザックに向かって頭を下げた。
「ザック殿、その技術、私に教えてもらえないだろうか。むしろ弟子にして欲しい」
「え? その技術?」
「相手の虚を突く技術だ。一流の暗殺者は相手の意識の外側から一瞬で倒すという。先ほどの反射を逆手に取るという技術といい、ザック殿はそういう技を極めていると見た。ぜひお願いしたい」
「君、恰好はメイドなのに暗殺者になりたいの? というか知り合いにそういう子がいるけどさ」
真剣に頼んでいるクリスと、色々なところから怒られるからと断るザック。その二人を見ながらザックの知り合いとはローゼなのではないかとパルフェは思う。
最終的にザックは「ご両親が良いって言ったら」と条件を出した。クリスはすぐ両親に連絡をして、許可が出たと話すと、ザックは「そこは断ろうよ!」とこの場にはいないクリスの両親に向かって言うのだった。
次回更新は6/21になります。一週お休みをいただきますが、引き続きよろしくお願いいたします。




