お願いとアドバイス
縁談の申し込み――あくまでもお見合いの席を作るという程度の話ではあるが、相手が財団となれば話が違ってくる。財団側からの申し込みで断れる相手がいるかどうかというのもあるが、断った後にどういう結果になるか予想できない。そういう面倒な相手ということもあり、パルフェの周囲にいる大人たちは縁談の申し込み自体を潰そうと躍起になっている。
パルフェはそこまで考えていないが、周囲が色々と動いてくれていることに感謝して、負けるわけにはいかないと決意を新たに改めて仲間を募ろうと考えていた。
領地争奪戦はまだ先の話。今から交渉で一緒に戦ってくれる仲間を探しているわけだが、ある程度は決めている。それはこれまでに一緒に戦ってきたクランや縁のあるギルドだ。
パルフェはメイドギルドに所属している。母親のエシャも所属していたという組織で、ギルドマスター――メイド長と呼ばれているローゼはエシャの友人でもある。
(お母さんから話があったかもしれないけど、ちゃんと私の方からもお願いしておかないとね)
そう考えたパルフェは、王都アンヘルダムのメイドギルドの施設にやってきた。そしてすぐにローゼに面会したいと話し、部屋へと案内された。
最初に来たときと変わらない綺麗に整理整頓されたメイド長ローゼの部屋。ローゼは待ってましたと言わんばかりの笑顔でパルフェを迎えた。
よく来てくれましたとローゼが言いながら紅茶とお茶菓子をテーブルにいそいそと用意すると、座るように促す。そしてパルフェが座ると、机を挟んで対面にローゼが座った。
必要以上に上機嫌に思えるローゼにパルフェは不思議に思っていたが、そのローゼが口を開いた。
「パルフェちゃん、大変なことになってますね」
「お母さんから聞いてますか?」
「はい、連絡を受けて、助けてあげて欲しいと頼まれました。もちろん、パルフェちゃんが所属するギルドのマスターとしても、友人の娘さんとしても、助けないという選択肢はありません」
「大変ありがたいことなんですけど、なにか異様に喜んでませんか?」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。ただ、ちょっとお願いがあるといいますか、私からのアドバイスがあると言いますか」
お願い、さらにアドバイスと言われて、不思議に思うパルフェ。
確かにローゼはスタッフとしてだが、いまだに現役とも言えるプレイヤーの一人ではある。そんな人からのアドバイスを貰えるならありがたいとしか言えないが、その笑顔が怪しい。
警戒度が上がるパルフェだが、ローゼはニコニコ顔で紅茶を飲んでいる。
「あの、お願いとアドバイスというのは……?」
「パルフェちゃん」
名前を呼んだローゼはキリッとした顔になると、手に持っていた紅茶のカップをソーサーに置いた。
「一般メイドコースから暗殺メイドコースに移りましょう!」
「ええ……?」
さすがにそれは予想していなかったというか、この場でそれが出る想定がまったくなかった。確かに月一くらいでコースを変えませんかと音声チャットが送られてくるが、変える理由がないので一般メイドコースのままだった。
「これはパルフェちゃんのために言ってるんですよ?」
「そうは思えないんですけど?」
「まあ聞いてください。暗殺メイドコースに移るのはお願いであると同時にアドバイスでもあります」
「……その心は?」
「スキル上げですよ、スキル上げ! 戦闘スキルを上げるなら暗殺メイドコース! 今ならスキル経験値アップボーナスもついて更にお得! ここを逃すとしばらくはないですよ! これパルフェちゃんだから言うんですよ!」
怪しげな通販のセールスのような言い方だが、ローゼはノリノリだ。
確かにスキル上げは大事である。リックも言っていたが、領地争奪戦はゲーム内の強さがそのまま反映される戦闘になる。スキルの差や装備の差を覆すほどの強さがあるかと言われればさすがのパルフェにもない。それこそベニツルやシモン並みの強さがなければ勝つことは難しいだろう。
力を貸してもらう以上、要望に応えるのは当然のことかもしれない。それにローゼの言い分も分からないではない。今必要なのは戦闘スキル、以前、暗殺メイドコースで恩恵があるスキルには変な物もあったが、ボーナスも付くならやるしかないと覚悟を決めた。
「分かりました。それでは暗殺メイドコースに変更ということで」
「……本当ですか!?」
「さっきまで推してたじゃないですか。なんで受けたら驚くんです?」
「半分冗談でしたので――いえいえ、スキル上げに関してはボーナスも含めて本当ですよ。なのでベルゼーブはしまってください」
パルフェは静かに取り出したベルゼーブをアイテムバッグにしまう。もう少しで抜刀する可能性もあったが、スキル上げに関して本当なら許容範囲だ。ただ、よく考えたらローゼは母の友人だったと今更ながらに思い出したパルフェだ。
念のために暗殺メイドコースでスキルが上がりやすくなる対象を確認する。
「確かに戦闘スキルへの恩恵が強いですね……一部のスキルは全く上がらなくなりますけど」
「基本的に戦闘に特化したコースですからね。ちなみにおすすめは暗殺スキルですね。しっかり上げていきましょう」
「……物騒なスキルですね」
「確かに物騒ですけど、対人戦ならこのスキルですよ。いわゆる貫通攻撃で防御力がどれだけ高くとも攻撃の数パーセントは必ずダメージが入るというものです。魔物相手の場合はHPが多くてあまり意味がないのですが、対人戦なら効果的です」
パルフェはそれは確かにと納得した。
盾役のプレイヤーに関しては防御力が相当高く、対人戦でダメージを全く与えられないという状況もある。装備品が充実しているであろう大手クランと戦うなら必須と言っても間違いではない。それに魔物と違ってプレイヤーのHPには上限がある。何十回か攻撃を当てれば必ず倒せるというならスキルを上げるしかない。
「エシャなら防御力完全無視のウェポンスキルとかもあるのですが、あれはほぼエシャ専用ですし、殲滅の女神の称号は取れそうにないですからね」
「ウェポンスキルってデストロイですか。なんか勇者と魔王を同時に倒すとか……うちの母はそんなことをしたんですか?」
「作戦だったというか仲間の勇者を囮に巻き込んだというか……話は変わりますけど、もしかするとエシャはその勇者にも連絡をしたかもしれませんね」
「イヴァンさんですか?」
「そうです。今は地球の危険区域にいると思いますけど、エシャなら呼び寄せる可能性が高いですね。はっきり言ってルナリアさんとゼノビアさん以外に勝てる人はいないでしょうから」
「そこまでの強さですか――え? ベニー師匠とかシモン先生も勝てない?」
「あー、うーん、微妙なところですね。たぶん、シモンさんは勝てないと思います。ベニーさんは……ゲーム的な戦闘では勝てないような気がします。現実だとベニーさんの方が強いような気がしますが」
「なるほど」
パルフェはイヴァンのことを良く知らないが強いと言うことは知っている。あと、ルナリアに告白して振られた話も聞いたことがある。そんなイヴァンがベニツル並みの強さがあるとはちょっとだけ驚きだ。
それはそれとして、助けに来てくれたらありがたいと思いつつ、他に伝手がないかをローゼに聞くことにした。
これもリックが言っていたが、領地争奪戦はある程度継続して領地を占有している必要があるので、一日に三回あるという戦闘で領地を防衛しなくてはならない。その三回の戦闘で常にメンバーが揃うわけではないので仲間は多い方がいい。
「ローゼさん、どなたか強そうな人を紹介してもらえますか? 母が声をかけていなさそうなところがいいんですけど」
「そうですねぇ……ハヤトさんが声をかけているかもしれませんが、暗殺者ギルドはどうでしょう?」
「……また暗殺……でも、お父さんの知り合いがいるんですか?」
「ええ、ギルドマスターのザックがハヤトさんの知り合いだったはずです。エシャはそこまでの知り合いではないかと。それにクリスちゃんがそのギルドに所属していますから行くだけ行ってみたらどうでしょうか?」
「そういえば暗殺者ギルドに所属してましたね。分かりました、行ってみます」
「はい、ちなみにクリスちゃんもいつでもメイドギルドへ来てくれていいと伝えておいてください。あれほど完璧なメイドなのに、なぜ暗殺者ギルド……!」
それはローゼさんにも言えることなのでは、と口に出して言いそうになったが、パルフェは我慢しつつ笑顔でお茶菓子を食べたのだった。




