テイマーとサマナー
目の前に現れたテイマーらしきNPCにハヤトは幸運ウサギを譲った。
幸運ウサギは森ウサギのレアモンスターだ。倒せば希少なアイテムが手に入る可能性がある。とはいえ、初心者が来るような場所のレアモンスターでは希少なアイテムを落としたとしてもそれほど価値はない。譲ったところで問題はなかった。
テイマーの女性はハヤト達に礼を言った後、すぐにテイムを開始した。
このゲームではモンスターへの攻撃占有権というものがあり、最初に敵対行動をとったキャラにしかモンスターを攻撃できない。もちろんテイムも敵対行動の一つだ。
占有権はパーティ単位で行われるため、テイマーとパーティを組んでいないハヤト達は幸運ウサギを攻撃することができなくなった。
ただ、救援というシステムがあるので、占有権を持っているプレイヤーが救援を依頼した場合は誰もがそのモンスターに攻撃をすることが可能になる。メリットしかなさそうな救援だが、救援を依頼すると手に入れられるアイテムの質が悪くなるというデメリットがあるため、よほどのことがない限りすることはないだろう。
採取は終わっているため、すぐにその場を離れても良かったのだが、ハヤトはテイムするところを見るのが初めてだったので遠巻きに見ることにした。
(テイマー系のスキルを極めると、モンスターによっては騎乗することができるから羨ましいんだよね)
テイマー系スキルは、調教、動物知識、魔物知識、騎乗、獣医学で構成されることが多い。またテイムしたモンスターに食事をさせる必要があるため、ペット用の食べ物を作るために料理スキルがある程度必要になる。さらにテイム中はモンスターから攻撃されるので、それなりに戦えるスキルも必要になるのだ。
目の前のテイマーも幸運ウサギから攻撃を受けながらテイムしている。もちろんテイマーからは攻撃をしない。倒してしまっては意味がないからだ。どんなに攻撃を受けても反撃せずにテイムスキルを使用し続けるしかない。
「私と一緒に冒険に行こう! ――ぐふぅ! まだまだぁ!」
痛覚はないはずだが、痛みを感じているように振舞うNPC。色々と大変そうだなと同情する。
そんな姿を見ながら数分後、テイマーの旗色が悪くなってきた。
徐々にHPが減ってきているのだ。種類の違うポーションを交互に飲むことで、クールタイムの問題を解決しながらHPを回復しているようだが、このままだと倒される可能性が高い。
レアモンスターは通常のモンスターよりも強い。だからこそペットにしたいのだろうが、テイムできずにやられてしまっては意味がない。
「アッシュ、こういうときはどうしたものかな? あの人、やられそうなんだけど?」
「救援さえあれば手伝うことも可能だが、倒したいわけではないだろうからどうすることもできないな」
「でも、さっきからあの人、こっちをチラチラ見てるよ。何とかしてほしいんじゃないかな?」
「戦闘中にアイテムのトレードってできたっけ? ポーションや料理を渡してHPを回復してもらおうか?」
「そこまでする必要があるのか? いや、ハヤトだからそれくらいするか」
「どういう評価なのか分からないけど、それくらいしてあげてもいいかなとは思ってるよ。それじゃ試してみる」
ハヤトがテイマーに近づこうとしたら、アッシュがそれを止めた。
「待った。範囲攻撃に巻き込まれたらハヤトなんて一撃で倒される。俺が渡してくるから」
モンスターの攻撃には複数のキャラを巻き込む攻撃をしてくる技がある。その攻撃はモンスターへの攻撃占有権を持っているかいないかに関わらず、周囲のキャラクターを巻き込むのだ。
「ああ、なるほど。でも、こっちが攻撃できないのに、モンスター側は攻撃できるっておかしいよな?」
「範囲に巻き込まれる奴のほうが悪いんだぞ。それじゃレン、護衛は任せたぞ」
アッシュの言葉にレンが頷く。それを確認したアッシュはテイマーのほうへ近づいた。そしてハヤトが作った料理とポーションをいくつか渡す。
テイマーの女性はこちらを見て勢いよく頭を下げたが、その間にも攻撃されているので、礼はいいからと早くテイムするように促した。
ハヤトの料理とポーションのおかげか戦況はずいぶんと良くなった。いまだにテイムは成功していないが、かなりHPに余裕がある状態だ。
「テイムって結構根気がいるんだね」
「あれはレアなモンスターだからだと思いますよ? 普通は数回で成功するって聞いたことがありますし」
「そういうものなんだ? レアなモンスターには遭うだけでも大変なのにね」
ハヤトはレンとそんな話をしていると、幸運ウサギが輝きだした。そしてテイマーに対して攻撃を止めて、キュイキュイ言いながら、テイマーの周囲を飛び跳ねた。
「や、や、や、やりましたー!」
テイマーの女性も幸運ウサギと同じように飛び跳ねて喜んでいる。そして一通り喜んだ後、肩に幸運ウサギを乗せてハヤト達のほうへ近づいた。
「ありがとうございました! あのままだったら負けていましたので、料理とポーションの提供、本当に助かりました!」
「目的を達成できてよかったですね」
「はい、皆さんのおかげです。幸運ウサギを譲ってくれたことといい、本当にお世話になりっぱなしで――あ、そうだ、良かったらこれをどうぞ。あまりお金にはなりませんが、大量にありますから!」
テイマーの女性はそう言って袋を渡してきた。中身を確認すると、散光草と光吸草が大量に入っているのが分かる。
「幸運ウサギを探して森をさまよっていた時に採った草です! 最近需要があるみたいなので、そこそこな値段で売れると思いますよ!」
すでに大量に持ってはいるが、多くて困るわけでもないのでハヤトはありがたく貰うことにした。
「ありがとう」
「こんなもんじゃ全く足りませんけどね! では、またどこかで会いましょう! なにかあればテイマーギルドまで来てください! それでは!」
そう言うと、テイマーの女性はウサギを抱えて走っていった。
そして三人が取り残される。
「なんというか、ずいぶんと慌ただしい子だな。名前も名乗らずにいなくなったぞ」
「それだけ嬉しかったんじゃないかな? あのウサギは可愛かったし。私ももっと禍々しい感じのペットなら欲しいかな……あ、テイマーじゃなくて、サマナーとして使い魔を呼ぶ方がいいかも」
「まあ、嬉しいって気持ちは分かるから、別にいいんじゃない? 渡した料理やポーションから考えると、貰ったものでもトントンって感じだし損はないよ。さて、それじゃ俺達も帰ろうか。日焼け止めを作らなくちゃいけないし」
ハヤトは転移の指輪を取り出すと、拠点までテレポートした。
テイマーの女性と会ってから数日後、ハヤトはクラン戦争で使うと思われるものを自室で大量に作っていた。そしてその合間に棺桶を作るという日々を過ごす。
(次の対戦に関しても色々と考えなきゃいけないんだけど、今回はランダムマッチにしてるから相手が一週間前にならないと分からないんだよな。拠点を賭けて対戦相手を特定するという手もあるんだけど、今の状況だと申し込んでくるのはランキングが低いところだけだろうし、意味がないんだよな)
ハヤトはそんなことを考えながら棺桶を作る。すると手元から虹色の光が溢れだした。
(ようやく来たか。こういうのって物欲センサーがあるのかね。欲しいときには作れないけど、適当にやったときには作れるって)
ハヤトの部屋に棺桶が現れる。まちがいなく星五の最高品質だった。特に欲しいとは思っていないが、ここまで作るのに苦労すると少しだけ愛着が湧く。ハヤトは棺桶を少しだけ触ってから、ミストを呼び出すために部屋を出た。
そして部屋の外でエシャに出くわす。
「もしかして手が空きましたか? 胡散臭い人達が買い物に来ているので対応をお願いしたいのですが」
「お客さんなんだから胡散臭い人なんて言わないで」
「見れば私の気持ちは理解してもらえるかと。店主に会いたいと言っているので待ってもらっていますが、どうしますか?」
「もちろん会うよ。もしかしてオーダーメイドの依頼かな?」
ハヤトは黒龍にいたころ、この拠点で客からアイテムの作成を請け負っていた。クラン戦争が始まった頃からは請け負うことも少なくなったが、それでもたまには請け負っていたのだ。
拠点から一時期ハヤトはいなくなったが、最近売り物が充実してきたのを聞きつけた誰かが来たのだろうと会うことにした。
ハヤトが拠点の一階にある店舗エリアへやってくると、黒いフード付きのローブを着た人達が五人いた。全員がフードを深くかぶっており、顔は見えない。口元が少しだけ見える程度だ。
(名前は不明だけど青色。NPCじゃなくてプレイヤーか。それにしても胡散臭い格好だな)
ハヤトがそう思うと、隣ではエシャがなぜかドヤ顔をしている。胡散臭いと思ったことが顔に出たと思って慌てて冷静そうな顔を作る。そしてローブの人達に話しかけた。
「いらっしゃいませ。店主のハヤトですが、どういった御用でしょうか?」
ハヤトがそう言うと、五人のうちの一人が前に出た。
「お忙しいところすみません。この店では日焼け止めを大量に扱っているようですね?」
「え? ええ、まあ。ちょっと作り過ぎてしまったので売りに出していますが、それが何か?」
採取した分と貰った分を合わせると相当な量となってしまったので、作った日焼け止めの過剰分は店で売りだしたのだ。現時点では特に需要がないので結構安めに売りに出していた。
拠点での店売り商品には検索機能があり、条件を指定すれば売っているお店を調べることができる。またそこまではテレポートができるので、それを利用してここへ来たのだろうとハヤトは考えた。
「日焼け止めを作るには散光草と光吸草が必要になると思います。日焼け止めではなく、散光草と光吸草を買い取りたいのですが、いかがでしょうか? 相場の倍は出すつもりです」
「理由を聞いても?」
「それは企業秘密と言うことでお願いします」
ハヤトは考える。
(もしかして散光草と光吸草が市場からなくなっているのは、この人達が絡んでいるのか? でも、利用方法が分からないな。日焼け止め以外に利用することができるのか? 少なくとも生産スキルで使うことはないと思うんだけど)
ハヤトは生産スキルで作れる物の材料は完全に把握している。少なくとも生産スキルで散光草と光吸草は日焼け止め以外の使い道はない。自分と同じように新しいレシピなどを手に入れたという可能性もあるが、それなら考えても答えは出ない。まずは生産以外での使い道がないか思い出そうとした。
(もしかして魔法か? たしか、一部の魔法は触媒が必要になるとか聞いたことがあるけど)
魔法の種類によるが、基本的に魔法は魔法書を持っていれば使うことができる。その魔法をアイテムバッグに入れておけばMPがある限り魔法を使うこと可能だ。
だが、それとはほかに、一部の魔法は発動させるために触媒というものが必要になる。ハヤトの知識だとそれは召喚魔法だ。特に悪魔系の召喚を行う時には必須ということをハヤトは聞いたことがあった。
そしてこの場にいる人達の容姿。どう見ても悪魔召喚士だ。召喚魔法を使うプレイヤーをサマナーとかサモナーと呼ぶ。過去に論争があったが、このゲームだとサマナーで決着した。
どんな悪魔を呼び出すのかは知らないが、おそらく散光草と光吸草が必要になるのだろうと結論付ける。
ゲーム内通貨だとしてもお金は欲しい。全部売れば結構な値段になるだろう。だが、使い道がクラン戦争である場合、自分の敵になったときは困る。可能性は低いだろうが、売るのはやめておくことにした。
「ええと、申し訳ありません。実は倉庫を圧迫していたので全部日焼け止めにしてしまったんですよ」
「そうでしたか。それは残念です。もし手に入れたら高めの値段にして売ってください。買いにきますので」
「ええ、そのときはお願いします」
全員軽く頭を下げて店を出て行った。
店にはハヤトとエシャが残る。
「こう言ってはあれだけど、見た目に反して礼儀正しい人達だったね」
「悪魔を召喚してる人達に礼儀正しいとか言っている場合じゃないと思いますが?」
「エシャもその結論に行きついたんだ? 俺もそうじゃないかと思ってたんだよ。散光草と光吸草を使うなんて悪魔の召喚魔法くらいだよね」
「は? いえ、あの人達のプロフィールを見たのですが、所属しているクランが『悪魔召喚研究会』という名前でしたよ? それに称号もそんな感じでそろえてました。それで悪魔を召喚しなかったら詐欺じゃないですか。クラン管理委員会に訴えるレベルです」
プレイヤーやNPCが設定しているプロフィールは確認することができる。当然ステータスやスキルを確認することはできないが、所属するクランや称号の情報を見ることができるのだ。ハヤトは名前を確認したが、プロフィールまでは確認していなかった。
「先にそっちの情報を知りたかったよ。色々考えた末に行きついた結果だったのに」
「どんまいです。いつかその思考が役に立ちますから。保証はしませんが」
「どんまいと言いつつ、追い打ちかけてない?」
ハヤトはちょっと落ち込んでから、そもそも部屋の外へ出た理由を思い出して、ミストを呼び出すのだった。




