ご出陣
ハヤトは馬車の中で色々なアイテムを作り出す。
即席の物でしかないが、ないよりはマシ。それに元から作ってあるアイテムもいくつかある。今日、アッシュ達やネイ達に渡そうと思っていたものだ。それらをルナリアに渡す。
「ルナリアさん、ポーションとか料理とか渡しておくから好きに使って。あと、デュラハンアーマーの一式もあるんだけど、どうする? ドレスでも平気だって言っていたけど、装備しておいた方がいいんじゃないかな?」
ルナリアはハヤトから薬や料理類を受け取りながら思案顔になる。
「ドレスで登場するのと、デュラハンアーマーで登場するのとどっちが恰好いい?」
「……デュラハンアーマーかな」
「じゃあ、装備する」
「そうして」
デュラハンアーマーの一式をルナリアに渡すと、ルナリアの装備がドレスから変わる。
インフェルノシリーズと呼ばれるいつもの赤い鎧ではなく黒い鎧だが、性能的にはそう悪くはない。神聖魔法に弱いという弱点はあるが、死霊魔法や闇属性の攻撃をかなり軽減できる装備なので、このスタンピードでは強力な性能といえるだろう。
次にハヤトは指輪と腕輪を二つずつ、計四個取り出した。それをルナリアとノアトの二人に渡す。
「これはノックバックとスタンを防ぐ指輪と腕輪。スタンピードではこれがあるとずいぶん楽になるってアッシュ達も言っているから装備しておいて」
ルナリアはそもそも接近戦をするため、必須な装備と言える。
そしてノアトも同様だ。レクイエムに限らず歌の効果範囲をハヤトは知らない。おそらく広場まで行かないと効果はないが、そこは冥龍の攻撃範囲とも言える。物理的な攻撃は躱せるだろうが、ドラゴンロアなどの範囲攻撃には巻き込まれる。それを危惧して渡しておこうと考えた。
ルナリアとノアトは頷くとすぐに装備する。
「なんだか無敵感が出てきた。あとはノアトちゃんがお化けを退治してくれたら完全に無敵になる」
「それは良かった。でも、絶対に倒れないでね。冥龍はアンデッドフェスっていう、倒れた相手をゾンビ化する技があるから。ルナリアさんがゾンビ化したら誰も倒せないし」
アンデッドフェスの対策は見つかっていない。倒されない、という対策しかないのだ。一応ルナリアの場合は魔王城で復活することもできるが、魔都の広場へは遠い。復活した場合、それなりの時間をロスするだろう。
「魔王がゾンビ化したら末代までの恥。絶対に倒れないから安心して」
「恥かどうかは知らないけど、ならない方向で頑張ってもらったほうがいいね」
とりあえず装備の方はこれでいいと、ハヤトはアッシュ達に連絡を入れる。
冥龍を倒すのもそうだが、秘宝のかけらを得ることも重要だ。どこか一つでも施設が壊されると冥龍に勝てても秘宝のかけらを取ることができない。
今回のスタンピードは多くのプレイヤーが魔都へ集まっている。それに時間は夜。本来ならプレイヤーが少なくなるもっと遅い時間に発生させるべきなのだろうが、今回は夜会の時間に合わせるようにスタンピードを起こしたようで、今は社会人プレイヤーが多くいる時間帯だ。
ハヤトの憶測でしかないが、他の拠点はプレイヤーが守っているので安全だろう。
今、一番危険な施設はドラゴン達が集まっているミストの屋敷だ。パットはこちらに引きつけているものの、アグレスとランダというドラゴンは屋敷でアッシュ達と戦っている。
「アッシュ、戦闘中にすまない。これからルナリアさんが冥龍を討つ。ミストさんの屋敷が破壊されないように頑張ってくれ」
戦闘中ということもあり、答えが返ってこないことも想定していたが、数秒後に声が聞こえた。
「ずいぶんとやる気がでる言葉を言ってくれるな! 分かった、どうやってルナリアを戦わせるのかは知らんが、そっちは任せるからこっちは任せろ!」
今も戦っているのだろう。アッシュはずいぶんと興奮した感じでそう答えた。同じようにチャットを聞いていたレンからも「呪います!」と頑張る旨の応答が来た。
「ハヤトさん! あと五分くらいで魔都の広場に着きますよ! ちょうど冥龍が出てくるところです!」
マリスの声にハヤトはエシャが身を乗り出している窓とは逆側の窓から顔をだして進行方向を見る。
夜なので見えにくいが、星空が一部が全く見えなくなるように真っ黒な円状の何かが上空に出現した。それが一瞬だけ光ると、黒い液体がどろりと落ちる。その液体が意志を持つようにグネグネと動いた後、龍の形を作った。
冥龍オニキス・ロッドは炎龍と同じように最初にドラゴンロアを放つ。
その後、闇属性のドラゴンブレスや死霊魔法で周囲を攻撃していた。それに定期的に死霊魔法の「クリエイトアンデッド」で、ゾンビやゴーストの類を作り出していた。
(どちらかと言うと遠距離の範囲攻撃が多いか? 前衛よりも中衛とか後衛をアンデッドフェスでゾンビ化させることが目的なのかもしれないな)
できるだけ多くのプレイヤーやNPCを倒してアンデッドフェスを使用するという戦略なのだろうとハヤトは考えた。相手の戦力を削ぎ、さらには自分の戦力にできるというのなら積極的に狙うのは間違ってはいないだろう。
そんな風に思っていると、ルナリアが独り言を言っていた。
「うん、そう。今回は出撃するから準備しておいて。馬車で登場するから。東側の道」
「ルナリアさん、どうかした?」
「黒薔薇の皆に連絡しておいた。これから広場に行くって」
「黒薔薇? ああ、ロザリエさんのこと……じゃないよな? え? 皆?」
「黒薔薇十聖はその名の通り十人いる。リーダーのロザリエちゃんはミストさんの屋敷にいるから残りの九人が広場で戦ってる。今から行くって音声チャットを送っただけ」
「ああ、そういうこと」
「それじゃ準備するからお化けが消えたら言って。ノアトちゃん、よろしくお願いします」
「分かった。それじゃレクイエムで周囲のアンデッドを浄化するから。歌っている間、アンデッドは出てこないから、ルナリアちゃんも暴れて大丈夫だよ」
ノアトがレクイエムを発動させてから歌いだす。すると周囲にいたアンデッドが崩れ去るように消えていった。
(すごいな。ダメージを与えているっていうか、確かに浄化だ。ドラゴンゾンビも一撃というか、一瞬で倒すなんて――ルナリアさんは何やってんだ?)
ノアトが歌いだした直後、お化けが周囲にいないことを確認したルナリアは、なぜか馬車の窓から外へ出ようとしている。
「ちょっと、ルナリアさん、何やってんの」
「準備。魔王なんだから恰好良く登場しないと。馬車の屋根に仁王立ちして広場に入る。皆にもそう言っておいた」
「すぐそこで銃撃戦をしてるでしょうが。当たったら大変だからやめよう」
「魔王はそんなこと気にしない。それに魔王は恰好良くないと。皆の憧れである魔王。そのイメージは壊すのは良くない」
「普段のルナリアさんが一番イメージを壊しているんだよ」
ハヤトは止めようとするが、STRの関係でそれは無理だった。
ルナリアは窓から外へ出て馬車の屋根にあがる。そして進行方向に向けて仁王立ちをした。長い銀髪が風になびいてはいるが、仮想現実なので風の抵抗はなく、ルナリアは普通に立っている。凛々しいといえば凛々しいだろう。
馬で追いかけてきているパットはそれを見て首を傾げたが、ルナリアに狙いを定めた。とはいえ、エシャからの攻撃と馬上ということで上手く狙いが定まらず、当たらないようだった。
当のルナリアは全く気にせずに背中を向けて進行方向を見ている。攻撃なんて当たるわけがない、そんな確信を持っているような顔だ。
(これだけ見ると魔王っぽいんだけどね)
ルナリアの行動は諦めてフォローするほうがいいとハヤトは考えた。
「エシャ。可能な限りパットの邪魔をしてくれ。ルナリアさんが馬車の屋根に立ってるから」
「何やってんですか。なら、そろそろジュースがきれそうなんで追加で作っておいてください。あと、チョコパフェも」
ハヤトはエシャの要望に応えてジュース類を作り始める。
「私がルナリア様の壁となりましょう。さすがに飛び道具を白刃取りすることはできませんが、数発は耐えられると思いますので」
レリックはそう言うとルナリアと同じように屋根にのぼる。年齢を感じさせないというか、片手だけで器用に屋根へ移動した。
直後に「うわ」とマリスから声があがった。
「どうかした?」
「屋根の上に人影が見えるんですけど、あれはなんですかね?」
「人影?」
魔都の中心地は広場になっているが、その周囲には家などが多く存在する。主にレンガ製の家が多い。その屋根の上に数人の人影があった。街灯がかなりの明るさなので、夜でも誰かがいるのが分かる。
ハヤトが窓越しにそれを見ると、それはどう見てもゴスロリ服を着た女性達だった。その女性達は同じ間隔で屋根の上に並んでいる。
その一人が、持っている剣を斜めに掲げた。
「魔王ルナリア様、ご出陣!」
かなり大きな声が周囲に響き渡る。その後、他のゴスロリ服の女性達が持っている武器を斜めに掲げてから唱和した。ゴスロリ服の女性達は、道の両サイドの建物の上にいるので、その間を通るような形だ。普通は城を出るときに言うのだろうが、ノリと勢いで言っているのだろう。
周囲にいたプレイヤーやNPC達が一瞬だけ動きを止め、屋根の方へ視線を送った後、すぐに馬車の方に視線を向ける。冥龍オニキス・ロッドも、びっくりした表情で馬車の方を見ていた。
直後にNPC達から歓声の声があがる。大歓声と言ってもいいだろう。このスタンピードで戦えるNPCなら所属国は魔国。いままでスタンピードに参加していなかった魔王が来たというならテンションは否応なしにあがる。
プレイヤー達もそれに便乗して歓声をあげた。大半のプレイヤーはイレギュラー的なことが好きなのだ。
(皆、ノリがいいなぁ)
ハヤトはそんなことを考えながら少しだけ冷めた目で周囲を見ていた。




