第十八話【郷御前と神】
今回、前書きを担当するのは私だ。
・・・
誰かは後書きで明かすとして、前書きといこう。
今回の話は、スケ番共の負け犬っぷりが記されている。
これを読んで、あざ笑うも良し、同情するも良し!
読者しゃくん……諸君の気持ちに任せるとしよう。
では、ボロ秀第十八話
【郷御前と紙】
おっと、間違えてしまった。すまないな。
一六時、那岐道場。
日が沈む時間帯にも関わらず、大勢の女子――――いや、素行不良の女子たちが群がっている。
彼女達の中には、ちらほらと武装している者がいる。木刀、薙刀、警棒、モデルガン等。
「いい皆? 明日の敵は、今までの中で二番目の強者よ。でも、二番目。私達の敵じゃないわ」
北方絆騎現総長、郷見火憐が道場の神殿を背に、何十人という仲間に語りかける。
そして、一番前の真ん中に正座していた麗斗が疑問を投げる。
「姐さん、一ついいですか?」
「なに、麗斗」
「武器の使用は?」
「いいわよ。寧ろ、こっちも全力でかからないと返り討ちかもね」
皮肉を込めて、心にもないことを言った火憐に今度は、無言で挙手する真田。
「……」
「はい、稲」
「標的名を」
機械のような気丈のない声は火憐にある人物の敬称を言わせた。
「そうね……皆もよく聴いておいて。相手はあの伝説の黒夜叉並びに黄金熊よ」
『っ!?』
道場内に居た全ての女子の背筋に汗を浸らせる。
その中でも余裕を忘れない二人がいた。
「本当ですか! 姐さん!」
興奮顔で立ち上がる麗斗を火憐は手で制した。
「ええ。と言っても、所詮は鈍り切った鬼と野生の勘を失った熊。でも警戒しないといけないのは、その周りにいる小さな女の子。男二人を平然と倒すらしいわ」
「……全然。大した事ない」
「その通りですよ、姐さん」
そんな忠臣二人を眺めて、微笑む火憐は気を緩める。
「心強いわ、二人共」
だがしかし、それが次の来場者の待っていた瞬間であった。
「油断しないほうがいいぜ、郷御前。なんてったって、天下の黒夜叉だ。女だけで勝てるもんかよ」
道場の出入り口に体重を預けて腕を組むその男は、嘲笑していた。
その顔を視野に入れた刹那、火憐は嫌悪感と敵愾心に駆られる。
軽蔑の声色と侮蔑の顔色で総長は睨む。忌々しい蛇を。
「……アンタを呼んだ覚えはないわよ? アオダイショウ」
飄々としている蛇は青い髪をつねって軽口を叩く。
「そんな釣れねぇこと言うなって。一つ、アドバイスしにきただけだ」
「余計なお世話よ」
「帰りな、薄汚い蛇が」
「不快」
主従三騎とその他の北方絆騎勢たちも全員が蛇を駆逐しようと躍起だ。
「お、おぉ……随分と嫌われてんな。でも、アドバイスは俺からじゃない」
アオダイショウはみかけに寄らず、臆病な生き物だ。一人で敵陣に乗り込むなどという威勢はない。
蛇の背後から小さな影が現れる。
幼い顔立ち、くりくりとした碧眼。
奇妙なほど艶々な赤髪、身に纏う常人ではない雰囲気。
「その『小さな女の子』。侮ってよい相手じゃありんせん」
発せられた婀娜っぽくも天啓のような強制力のある声。
何も知らない彼女達の反応は決まっていた。
『誰?』
小さな影から微かに漏れたソレに、鈍い彼女達の危機察知能力が働く前に一人だけ鋭敏に動く。
「皆! 下がって!」
総長郷見だ。
「おやおや、勘がよろしいようで」
謎の少女は口元に手を当て、不敵な笑みを浮かべている。それだけではない。
「……うっ!?」
火憐の身体を重力――――否、神の権限が襲う。
臓器、骨、筋肉、身体のいたる部位が悲鳴を上げ、内側から押し潰されるような感覚に声帯が動かない。
「おい、止めとけ。パラス」
「ふふっ、冗談でありんす」
冗談でも止める気配がない。郷見にかかる権限が更に強まり、心の臓をも潰す勢いだ。
「……ぐはっ……」
「だから、やめろって。郷見に手ぇ出すと、狼に噛み付かれる」
「ふぅん、蒼太は怖がってるのじゃありんせんか?」
「はいはい、そうだよ。それより早く権限の圧力を止めろ。身体がもたねぇよ」
「おもしろうありんせん」
「ほっぺを膨らませるな。可愛いけど、人命優先だ」
「仕方ありんせん。言うとおりにしんす」
蒼太がパラスという名の少女のような神に説得し、渋々、権限の行使をやめた。
開放され、止まっていた呼吸を途絶え途絶えに再開する。目の色が未知への恐怖と変わりつつ。
「……プハッ……ハァ、ハァ」
「姐さん!」
「……」
駆け寄る麗斗、敵意を矢に携え、狙いを定める稲。
「やめ……なさい、稲」
瞼とやるせない気持ちと共に矢を下ろす。
その仕草に蛇は煽る。
「そうそう。逆らう相手を間違えんなって」
そうやって、人を食った喋り方をする蛇は続ける。
「おめぇらの相手は、鬼と神様だろ?」
「か、神? 一体なんの……」
「ぬし様たちが先程話していた少女のことでありんす。その少女はわっちの古くからの親友なんでありんす」
状況と自分を神とする少女のことが全く理解できていない。だが、郷見達の理解が追いつく前に来訪者二人組は姿を消そうとする。
「ま、待ちなさい! 長根、アンタなんのつもり?」
「ん? なんのって言われてもなぁ……ただ、俺はお前等の大将と伝説の鬼ついでに神を潰したいだけだ」
「その笑顔やめなんし。蒼太、ぬしの願いなどわっちは知りんせん。どうともなんし。わっちはアテナに会うのが目的でありんす。アテナに指一本でも触れようもんなら、ぬしの存在そのものを消しますへ?」
脅迫にも近くだがそれでいて静かな憤懣。
郷見の脚が震える。何故かを彼女は認知できない。それは、圧倒的恐れによるものだということにすら気がつかない。
他の脆弱な彼女たちには、その恐怖すらも感じ取れない。
「随分と長居しちまった。んじゃあな、北方絆騎勢」
「郷見とやら、がんばりなんし」
突然やってくる通り雨のような二人組みを火憐は黙って見送ることしか出来なかった。
「……姐さん」
「心配しないで。それより、皆は?」
己の身より、仲間を思いやる。彼女はその清い心と神の権限に耐えうる強靭な肉体によって総長の席に座しているのだ。
「依然。火憐のおかげ」
「そう。よかった……」
「なんだったんでしょうね? あの蛇と一緒にいた女」
「なんにもしてないのに姐さんが倒れた時は驚いちゃいましたよー」
「なんなら、今からあの野郎共捻り潰しにいかねぇ?」
臣下の者達から言葉が飛び交う中、郷見は一人考えていた。
「(あの娘ただ者じゃない。それに、神って……一体、なにが起こってるの?)」
「静然?」
「……ごめんね、稲。今考えなきゃいけないのは、明日のことね」
「姐さん、やっぱり黒夜叉が相手じゃ正々堂々やっても……」
「そうね……用心事が多すぎる現状なのも事実。ここは――」
今に思えば、どうかしていた。あの神による権限の咆哮を受けて平常でいられるわけがない。
あの圧力で郷見火憐の純白な心に雲がかかっていたのだ。
「総攻撃を主体、敵を囲んで逃がさないように。それでもまだ、立ち上がるなら、私が斬るわ」
果たし状を送った時と真逆の思考に摩り替わっていることにすら気付いていないのだから。
今回の前書き後書き担当は
・・・
この俺、貝塚たい――春日先生だ。
まったく……私の番が回ってきたと思い、来てみれば……貝塚、貴様、教員を差し置いて登場回数が多いクセにまだ、しゃしゃり出るか? 私のモノマネなどして。
……ちょっとタンマ! 先生、踏んでる! 俺の顔面踏んでるから!
ふっ……貴様のような若者には分かるまい。
なにが!?
上司に踏まれる部下の気持ちが。
あー……分かりたくもないっす。
だろうな。
納得してくれたんなら、早く足退けてください!
すまんが、ちょうどいい踏み台なのだ。もう少しこのままでいさせてもらう。
先生なのに理不尽だー!




