第十七話【雪の妄言】
やっほー! テレビの前のみんな、茜ちゃんだよ!
テレビじゃないよ(茜さんの笑顔……可愛い)
真君ノリ悪いよ! 久々の登場なんだから、もっとテンションあげてこー!
でも、僕はあっちの方で出てるから……あ、ごめん!
いいよねー真君は。『季原兄妹の日記』でレギュラーなんだから。登場回も台詞が多いもんね。
あ、茜さんも出てるじゃないか! 大丈夫だよ。
名前だけじゃん!
その内登場するよ! いや、登場しないと変な感じになると思うから。
……ホントに?
(な、泣き顔ッ!)うん、大丈夫だよ! 僕が絶対、茜さんを登場させるように作者に談判するよ!
ま、真君!
茜さん!
二人が二人だけの世界に入ってしまったため、強制終了します。by筆無秀
ホントッごめんな! by貝塚大誠
カフェ店『カレオ』。別名喫茶カレオ。まんまだな! というツッコミはおいといて貰いたい。
俺はここをかなり重宝している。近くに書店があることや学校から徒歩十分足らずで寄れるなど、何かと便利だからだ。
大事な話や勉強会、集合場所などによく使われるここの店長は親父の代からの付き合いらしく、子供の頃から店長とは知り合いでもある。
故に、委員長の込み入った話とやらを聴くにはちょうどいい場所だ。
店内に入るとコーヒー豆の香りが鼻を撫でた。
「委員長、時間は大丈夫なのか?」
窓際の四人席に向かって直進しつつ、そんな他愛のない常套句を口に出す。
それに対して、委員長は表情を変えずに無情で返答する。
「問題ありません」
神乃はそんな委員長を気にする様子もなく、何故か一人気落ちしていた。
「また、この店なのだな……」
「なんだ? お前この店知ってんのか?」
「つい先日、嫁と来たのだ」
「へー。ここ、結構穴場なんだよな。俺たちはよくここでたむろってから帰ってた」
「寄り道はいけませんよ、筆無君」
思い出語りを始めようとする俺を委員長は打ち止めにした。少しイラっときたが平生を装い、流すことにした。
「小学生じゃないんだから、別にいいだろ。それより、早いとこ注文済ませちまおう」
「そうですね。時間の浪費は金銭の浪費です」
「…………あの店長を呼ぶのか?」
「そんなに嫌がるな。あの人はあれでただの善良なオカマだ」
「ただのオカマがこの世に存在するのですか?」
「さあな。マスター!」
委員長のつまらん疑問を切り捨て、張りのある声で店長を呼ぶ。こうでもしないとあのオカマスターは地球にやってこない。普段はオカマ星の軍団長をやっているらしいし。
「やはり大声を出すのか」
「恒例なんだよ」
素っ気無く返すのと同時にオカマ星の権力者は地球にやってきた。気持ち悪い顔(笑顔)で。
「秀くん、久しぶりね。あ、この前のお嬢ちゃんもね。それとはじめましての子ね」
マスターが神乃と委員長に微笑みかけると氷と呼ばれる子が目を細めて、当然の疑念を出した。
「何ですか、この頭がピンク一色の大人は?」
「いや、この店のマスターだよ。さっき話してだろ。まぁ、気持ちは分からんでもないけど」
「私も一度目の時は口には出さなかったがそう思った。派手好きなのか、頭の中まで桃源郷なのではないかと危惧してしまう」
神乃の手痛い追い討ちにマスターは顔色を変えずに笑みを浮かべている。大丈夫そうだが一応フォローしておく。
「本人の目の前で言ってやるなよ……」
「いいよ、秀くん。事実、派手好きで頭の中ピンク一色だしね。それよりご注文ね」
「ああ、俺はこの前と同じやつ。委員長と神乃は?」
「私は紅茶を」
「私はミルクティーを頼む。請求は筆無にしてくれ」
「おい……まあ、いいけど」
どうせ、一文無しの神様だろ。奢ってやる。
「はいはい。それじゃあ、ちょっと待ってね」
「マスター、そう言えば今日バイトいねぇの?」
カウンター裏でコーヒーをいれ直しているマスターに尋ねる。
マスターは逡巡の後、気まずそうに話してくれる。
「今日、エルちゃんが急に来れなくなったの。それでね、他の子に頼もうとしたんだけど皆都合が悪くてね。今日は特に大きなイベントもないから大丈夫だしね」
「ふーん」
思いの他、つまらんことだった。
「エルちゃんとは誰のことだ?」
「知らん」
「あの、先程の話の続きをしてもよろしいですか?」
「おっと、そうだったな」
「では。率直に言います」
「ああ」
「うむ」
まあ、大凡の見当は付いてるけどさ。
「実は、私、部活を作ろうと思っておりまして……ですが、部員数が規定に満たず困っていたところです。そこで、あなた方に名前だけでも良いのです。入って頂けませんか?」
淡々と彼女はつまらない妄言を吐く。顔も変えず、感情を出さず、ただ淡々と。
「私は構わんぞ? 部活動とやらに興味はある」
「安請け合いするんじゃねぇよ。詐欺に遭うぞ」
「それで、貴方の答えは?」
「そんな睨むなよ。キャラじゃないぞ、委員長」
「はぐらかさないでください」
「ツッ……名前だけだぞ? で、何をする部活なんだ?」
「はい。漫画研究会です」
「マンケンかよ!」
なんか、盛大で突拍子もない部活だと勝手に妄想しててすみませんね!
結構前から、引っ張っておいてこういう落ちって、落胆もいいとこだよ!
読者の皆さん、ホントスンマセン。
「秀くん? なんで、机に突っ伏してるのね?」
「……いえ、ちょっと……反省を……」
「あらま、珍しい。あの鬼秀くんが反省なんてね」
「それより、マスター。気分転換したいんで、早くください」
「はいはい。ご注文の特性ブラックコーヒー。それと紅茶、ミルクティーね」
目の前にホイップクリームがたっぷり乗ったブラックコーヒーがくると、程よい苦味と甘味の香りが混ざり合って、ちょうどいい感じだ。
「ブラック? ホワイトの間違いではないのか?」
「恐らく、上辺はクリームで下がブラックコーヒーなのでしょう。筆無君の本性を表しているようですね」
「馬鹿言え、委員長。俺は上辺も下部も真っ黒だ」
「相変わらず、秀君って嘘つきね」
「マスター? 俺の胸部と股を交互に見ないでくれます。通報しますよ?」
「それはご勘弁ね。捕まっちゃったら、秀君や大誠君や真君に会えなくなっちゃう」
「悔やむ方向性がおかしいのでは?」
「うむ。やはり、脳内が桃源郷なのだ」
「散々だな、女性陣」
意気投合している二人を呆れ混じりの細目で一瞥して、隣の神乃を肘で小突いた。
「慣れてるからいいよ。でも、なんか、お嬢ちゃんに嫌われるのは避けたいかな」
マスターは神乃を横目で捉えながらそう言った。
まあ、神だし、嫌われたら幸運が遠ざかりそうだもんな。
紅茶を飲み終えた委員長はカップを置く。そして時計をチラリと盗み見ると、席を立った。
「では、私はこれで」
「委員長、なんで、部活作りたいんだ?」
鞄を肩に下げ、帰ろうとする委員長をすぐさま呼び止める。
眉をピクリとも動かさず、委員長は俺を見下す。(愚問ですね)と顔がそう言っているような気がする。勿論、鉄面皮の彼女から感情を読み取れるほど、俺に観察眼はない。だが、不思議とこの時だけ、解る。
「……貴方は大切な人の夢を、応援しないのですか?」
「……」
双方共、視線を逸らすわけでも、瞳の奥底の気持ちを読み取るわけでもなく、ただ、じっと、目を合わせている。
やがて、この沈黙を神乃が破った。衝撃的な一言によって。
「貴様の大切な人とは、襟沢という団子娘のことか?」
団子娘っておい。確かに、あの人の髪型はお団子だけどよ。てか、そんな重大情報なんでお前が知ってんだよ。色々な思いを乗せて、一言だけ返そう。
「そうなのか?」
委員長にも神乃にも投げた問いのつもりだ。
「……それこそ、正しく愚問ですね。彼女は私にとって、大切な――――いえ、ただの友人です。友人は大切ですから……」
「今、何か言いかけただろう?」
「ここにきて、知らばっくれるのは無しだぜ? アンタの要求をこっちは呑んだんだ。こっちの質問には全て答えて貰いたいな」
俺のあくどい笑みと神乃の追究を委員長は持ち前の仏頂面で無効にする。
「紅茶、ごちそうさまでした」
棒立ちしていたマスターに一礼して『襟沢の友人』は店を出た。
「ったく……無視しやがって」
「うむ……まずい事を訊いてしまったか」
俺はコーヒーを神乃はミルクティーを飲み干し、立ち上がった。
「あ、秀君ね。お代、三品で五百円ね」
「なにッ! まさか、あの委員長……!」
「貴様の奢りだな。ハッハッハ」
神の高笑いとか悪人風だからな! 名前書いたら死ぬ例のアレの主人公のあの台詞のあんな感じになっちゃうからさ!
腰に手を当てて天井を見上げているこのヒモ神に言ってやりたい。
「笑うな! 神乃てめぇ、金稼ぎやがれ!」
「断る!」
「即答すんな!」
つーか、なんで今ドヤ顔? メッチャ腹立つわー。
「秀君、怖い顔してないで、お・だ・い・ね」
「……はい」
流れでこの場から去ろうとしたが、無理でした。まあ、そうだよね。マスター、キレルとおっかないし、元ヤンキーって言ってたし。現在進行形で顔面凶器なのも頷けるよね。
「はぁ……最近、よく溜め息が…………」
「幸せが遠のくね」
「安心しろ、溜め息は人体に良いと聞いた事がある」
「安心できるカァァァァ!!!!」
てか、誰のせいだと思ってやがる?
てめぇのせいで、大誠と喧嘩したことも忘れるくらい疲れたじゃねぇか。
「友人は大事にしろ」
「けっ……天啓かよ。らしいことしても、お前今女子高生だからな」
「だが、それ以前に神だ。神は貴様等人と違って積んできた知識が違うのだ」
「なんだ? 経験談かよ。人のこと言えねぇな」
「……そうだ」
窓の外にあるなにを見つめているのか俺には分からない。分かろうともしたくない。
だが、少し言い過ぎたと後悔もある。
「悪い。言い過ぎた」
「……構わん。それより、マスターとやらに銭を渡したらどうだ?」
笑顔なのに怖い顔。器用デスネーマスター。俺がマスターに謝罪しながらなけなしの野口を手渡す。
それにしても、女神のあの表情が頭から離れない。
胸の中に空いた埋めようのない空白を抱えた奴の顔が。
小銭を貰って帰ろうと踵を返すといつもの豪そうな面構えをした小生意気な神がそこにいた。
友達って大事だね、真君。
そうだね。でも、皮肉を言い合える友達や自分の素を出せる友達はそうそう会えないよ。
でも、私も真君ももう出会えてるもんね!
う、うん。
ん? どうしたの顔真っ赤だよ?
な、なんでもないよ。それより、茜さん後書き。
あ、そうだった。次回は三月二〇日の二三時です!
取って付けたような後書きですみません!
次回のメインは……敵の紅一点、郷見火憐っていう人だって。
なんで敵がメインなんだろう? でも、あの人もいるみたいだし……。
そんなことより、兄々のカッコいいとこみたい!
そ、そうだね。




