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『側室様の超絶異能で人工塩湖を造ったら、帝国一の極上塩が爆誕しました! ~侍女と職人のほのぼの製塩ライフ~』

アルストラーナ帝国の東南部に位置する、セレスティア親王領。 その北東部に広がる『ソルトラグーン』は、帝国内で最大の塩の生産量を誇る塩田集落の街だ。見渡す限りの塩の大地と、太陽を反射して眩く輝く水面が広がっている。

雲ひとつない蒼穹のもと、鏡のように空を映し出す巨大な水たまりがあった。 セレスティア親王イリアードの側室であり、絶大な異能を持つセシリア様が、その『念創』と『念力』の力を振るって大地を削り出し、穿ち造り上げた広大な『人工塩湖』である。

その塩湖のほとりで、塩焼き職人の青年・ニコは今日も作業の準備を進めていた。

「ニコ、本日の作業の進捗はいかがですか?」

涼やかな声とともに姿を現したのは、セシリア様の侍女を務める十八歳の少女、エミーナだった。 彼女自身も念動や念力、念創といった異能を秘めているが、今日は職人の作業を見守り、支援するためにここへ来ている。

「エミーナ様! 準備は万全ですよ。セシリア様が造られたこの人工塩湖の水は、普通の海水よりもはるかに塩分濃度が高いですからね。今日も最高の塩を焼き上げてみせますよ」

ニコは自信たっぷりに胸を張る。 セレスティア特産の塩造りは、一筋縄ではいかない丁寧な行程を経て完成するのだ。

第一の行程は『採水と濃縮(かん水づくり)』。 セシリアの人工塩湖からは、網の目のように巡らされた細い浅溝(塩田)へと水が引き込まれている。ニコたちは、太陽の熱とソルトラグーンに吹き抜ける風の力だけで、じっくりと水を蒸発させていく。 日が経つにつれて水深は浅くなり、無色透明だった水は、塩分が極限まで高まった濃い塩水――『かん水』へと姿を変える。

「普通の海水をそのまま煮詰めるには、膨大な燃料と時間がかかります。でも、セシリア様が計算し尽くして創られたこの塩湖と自然の風光のおかげで、あらかじめ限界まで濃縮された極上のかん水が得られるんです」

ニコは木製の杓(ひしゃく)で濃縮されたかん水をすくい、桶へと手際よく満たしていった。

続いて、第二の行程である『燃料の準備(泥炭の運搬)』に入る。 塩を煎り上げるためには、数日間にわたって高温を維持し続ける膨大な熱源が必要不可欠だ。そこで活躍するのが、セレスティア親王領北部の湿地帯から掘り出された『泥炭(デイトン)』である。

太古の植物が完全に分解されずに蓄積したこの黒々とした泥炭は、乾燥させると火持ちが良く、じわじわと強い熱を放ち続ける極めて優秀な燃料となる。 北部の湿原から大運河や水路を経由して船で運ばれてきた泥炭の塊が、工房の釜場に山のように積み上げられていた。

「この北部の泥炭があってこそ、セレスティアの製塩は成り立ちます。薪よりも火力が安定していて、長時間じっくりと釜を温め続けることができるんですから」

ニコの説明を聞きながら、エミーナは『念動』の力を密かに応用し、ずっしりと重い泥炭の乾燥塊をひょいと浮かせて、軽やかに釜の口へと放り込んでいった。こういう時、異能というのは本当に便利である。

そして、いよいよ第三の行程『煎塩(せんえん/煮詰め)』が始まる。 工房の中央に据えられたのは、幅数メートルにも及ぶ巨大な浅い鉄釜(平釜)だ。ニコはその平釜に、人工塩湖から汲み上げた透明なかん水をたっぷりと注ぎ入れた。

下部の焚き口に並べられた泥炭に火が投じられる。やがて泥炭が赤々と熱を帯び、特有の芳しい煙とともに猛烈な熱気を放ち始めた。

「さあ、ここからが時間との勝負です!」

炎が釜の底を焼き、かん水が沸騰を始める。 激しい水蒸気が工房の天井へ向かって立ち上り、あたり一面が真っ白な湯気と潮の香りに包まれた。

ニコは巨大な木製の朳(えぶり/かき混ぜ棒)を手に取り、絶えず釜の底を擦るようにかき混ぜ続けた。加熱されて焦げ付くのを防ぎ、全体に均一に熱を行き渡らせるためだ。 数時間が経過し、水分が飛ぶにつれて、透明だった液体の中に白い結晶がプツプツと浮かび上がり始めた。

『塩の華』が咲き始めたのだ。 泥炭の安定した熱力により、結晶は小さく均一に、そして美しく育っていく。

「素晴らしい……まるで雪が降っているようです」

エミーナが湯気の向こう側で白い結晶が沈殿していく様子を、感嘆の思いで見つめた。

結晶が釜の底に濃密に溜まったところで、第四の行程『採塩(さいえん)と苦汁(にがり)切り』へと移る。 ニコは網目の細かい竹ザルを使い、釜の底から煮詰まった真っ白な塩の結晶をすくい上げていった。すくい取られた生塩(なまじお)は、木製の水切り桶(漏斗状の容器)へと移される。

「釜から上げたばかりの塩には、まだ苦味の強い苦汁(マグネシウムなどの成分)が多く含まれています。これを数日間静置して、重力で自然に苦汁を滴り落ちさせるんです。この『苦汁切り』を怠ると、角のある塩になってしまいますからね」

ぽたり、ぽたりと桶の底から透明な苦汁が垂れ落ちる。 苦汁が抜けるにつれて、塩は刺さるような塩味から、ほのかな甘みと深みを持つまろやかな味わいへと変化していく。

数日後。 苦汁が十分に抜けた塩は、最後の第五の行程『焼成(しょうせい)と仕上げ』を迎えた。 このままでも十分に上質な塩だが、セレスティア特産の塩として完成させるため、平鍋に移して泥炭の弱火でじっくりと煎り上げる『焼き塩』の作業を行う。残った微量な水分を完全に飛ばし、サラサラとした指通りの良い質感に仕上げるのだ。

出来上がった塩を、ニコは指先で少しだけすくい、口に含んだ。

「……完璧です。セシリア様の塩湖が生んだ豊かなミネラルと、北部の泥炭がくれた温かな熱。そのふたつが溶け合って、至高の塩になりました」

完成したセレスティア特産の塩は、まるで磨かれた純白の砂のように細かく、眩いばかりの輝きを放っていた。 口に含めば、直後に柔らかな塩味が広がり、続いてまろやかな深い旨味が舌の上に残る。まさに絶品だ。

ニコはその塩を丁寧に木箱に詰め、親王府の紋章が刻まれた布で包んだ。

「これなら、ソルトラグーンの名産として自信を持って献上できます。イリアード様やリゼリア様、そしてこの人工塩湖をお創りになったセシリア様も、きっとお喜びになるでしょう」

エミーナは完成した塩箱を愛おしそうに抱え、爽やかに微笑んだ。

人の知恵と異能の力、そして泥炭という大地の恵みが織りなすセレスティアの塩。 輝く白き結晶は、これからも水の都と親王領の人々の暮らしを、豊かに支え続けていくのだった。

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