待っててほしいねん
コウタの突然の異動の知らせを聞き、チヨは自らの想いを全て伝える。
コウタもそれに応えてくれた。
ただ、コウタはあと少しで、また奈良から離れてしまう。
◯登場人物
千代
22歳 エステティシャン
奈良県橿原市に住む。祖母、母親と三人暮らし。ある日の合コンで、三つ上の幼馴染、コウタと再会する。
由香里
22歳 エステティシャン
千代の同期。美人で計算高い。
陽菜
22歳 エステティシャン
千代の同期。おっとりしていて皆に優しい。
康太
25歳 家電量販店のメーカー販売員
瑛人とはバンドを組んでいた。10歳の頃、両親と大阪に引っ越したが、現在は奈良市内に喜平と共に住んでいる。
コウちゃんに色々なことを聞いたショックと、勢いもあったとはいえ、電話ごしだったけど、告白をしてしまった。
結局その日は、もう夜も遅いからということで、また会う日を決めることにして電話を切った。
◇ ◇ ◇
後日の職場の休憩時間のこと。
「チヨ! ほらほらほらほら、だから行ったでしょ〜! もっかいそのセリフ聞いてもいい?」
これはユカリ。私はコウちゃん風にビシッと決めて言う。
「大切な人やから、だからドライブも行くし。星空も見に行きたくなるんやでい。チヨ、お前のことが好きやでい」
「きゃーーー!! もうそれは絶対大丈夫でしょうよ! コウちゃんが言ったってことだよね?」
もしかしたら、私の脳内で色々と加工されているかもしれないけども。でも、同じような内容のことは言ってくれてるはず? 多少無理矢理言わせたところもあるような……気はするけど。
「うんっ、ホントはね。直接会った時に言いたかったんだけどね。だってもう少しでまた遠くに行っちゃう、て思ったら居ても立ってもいられなくなって……」
「もう知らない間にチヨったら、めちゃくちゃ急接近だよね〜。羨ましいな〜! もう私は、ユカリにまた合コンセッティングしてもらわないとだよ」
これはヒナ。今日は久しぶりに三人とも出勤が揃ったのだ。
「でも、メーカーの派遣の仕事? 半年に一度くらいの異動があるのって寂しいよね……チヨはついていったりはしないの?」
ユカリが言うように、コウちゃんについていくという案もないことはなかった。
でも、仕事のこと、と言うより。やはり婆ちゃんと母親を置いて奈良を離れることはできない。
でも……
「姫路なぁ〜! まぁまぁ遠いんだよね〜。もちろん行けないことはないくらいなんだよ。片道二時間半くらいかな……でも、しょっちゅうは大変だよね」
そうなの。大阪まで出てしまえばJRの新快速に乗ると、割と姫路までは早く行けるから、乗り継ぎが良ければ行けないことはない。プチ遠距離という感じなのかな。
「でもでも。一番はコウタくんの気持ちを確認できたんだから、良しとしないとだよね〜。あっ、コウタくんのお別れ会はするの?」
「う〜ん。たぶんお店での送別会とかはしてくれるみたいなんだけど……私達で、ってなるとなんか変だもんね」
ヒナの質問に答える私。
でも、コウちゃんはあと二週間後には姫路の方に行ってしまうのだ。
最後にゆっくり会いたい。会って話したい。
「チヨ、やっぱ最後は二人きりで会うのがいいと思うよ〜。バッチリいちゃついてくるんだよ〜!」
いちゃついて……想像したら恥ずかしくなってきた。
◇ ◇ ◇
コウちゃんは結局、姫路の方の住む場所を探したりだとか、引っ越しの段取りとかもあったりでバタバタしていたらしく、引っ越しの数日前に一日休みが取れて、会えることになった。
それまでも何度かメールや電話でやり取りをしたけど、なんだか私の方があれから恥ずかしくなってしまって、好きとかそういうことを言えなくなってしまったんだ。
ちなみに会う場所は、これはユカリが調べてくれたんだけど、コウちゃんの職場がある大和郡山市の大きな国道沿いに、完全個室のオシャレな海鮮料理屋があって、そこを予約した。
今回はそれぞれ車で行くことにした。運転は不慣れだけど、真っ直ぐの道で行けるとこだったので、大丈夫だった。
直接会うのはお祭りの時以来かな。
「コウちゃん、久しぶり〜!」
「久しぶりやな。電話とメールはしてたけど」
「ホント、あっという間に日にちが経ってしまうよね。コウちゃん、お店の中入ろ〜」
店は外から見るとそこまで大きくないような建物だったが、中はそれなりに広く。店内の通路の途中に中庭みたいなのがあったりと、和風な感じだった。
今回は二人で食べる用の海鮮ディナーコースというものにしてみた。
初めに、前菜や茶わん蒸し、海鮮サラダなど、色とりどりの品が出てきた。あとで刺し身と、煮魚と、鯛釜めしと、最後にデザートが出てくるはず。
「普段来んようなオシャレなとこやから、少し緊張するなあ」
そうそう。普段ベビフェのようなカジュアルレストランがほとんどで、あまり和の装飾の多いお店に来ること自体がないから、新鮮だった。
「私もこういうとこ、来ることってあまりないから、緊張するよ〜。でも、コウちゃんとの……特別なご飯だから、たまにはいいよね」
お別れのご飯、って言ってしまうと、泣いてしまいそうだったから。私は言い換えた。
「うんうん。ありがとうな、チヨ」
出てきたお食事を少しずついただきながら、私達はお話をした。
小さい頃、よく遊びに行ったこと。私が泣き虫でよく慰めてくれていたこと。コウちゃんの行くところにはいつもくっついて行ってたこと。
「そう言えば、コウちゃん。大阪に行ってからのことって、あまり話したがらないけど……なんかあったの?」
コウちゃんはちょっぴり苦笑いをして。それから口を開いた。
「チヨは痛いとこ突くよな〜。アツシも高校の時のこと、前のご飯行った時に話してたけど。俺って、あまりみんなと仲良くとかがちょっと苦手なんよね。中学とか高校もやけど、どっちかというと一人が多かったしな」
そうなんだ。再会した時のコウちゃんの様子だと全然そうは見えなかった。
「初めの合コンの時のエイトおったやろ。アイツがほんま誰とでも仲良く出来るような奴やから、エイトに助けられたな。就職してからも、初めの頃は少し大変やってな。転々と色んな所に移ってるのって実は俺がそうしたいからもあるんやわ」
え。わざと転々としてるの……? なんでだろう。
「どう言ったらいいか難しいけども……長く働いてる職場って、どうしてもなぁなぁと言うか慣れが出てきて、仲良くなるということは良いのかもやけど、人間関係が複雑になってしまう場合もあるんよね。必要のないしがらみが出来てしまったりとか」
それはわかるような気もした。私の職場のエステサロンは、まだノルマとかもないからマシなのかもしれないけど、数字とかを厳しく言われる職場なら競争があったり、妬みがあったりするかもしれないよね。
「コウちゃんも……色々大変やったんやね。でもね、前にお母さんと洗濯機買いに行った時、すっごくカッコよかったよ。物知りで、頼もしくて、やっぱコウちゃんはカッコいいな、って思った」
コウちゃんは笑って答える。
「ありがとうな、チヨ。でも……最近は転々とするのもそろそろやめれたらいいなぁとも考えるようになったで」
「え……それって」
「まだ、ちょっとわからんねんけど。こんな俺のことでも、好きになってくれる人がおるから、ていう感じやな」
「コウちゃん……」
「少し先のことになるかもしれんけども、それまで待っててほしいねん」
コウタが姫路に行ってしまう数日前。
チヨはコウタと二人でご飯に行くことに。
そこでコウタが大阪で引っ越してからも、色々と苦労した話を聞いた。
そして、コウタの決意を聞く。




