電話ごしの告白
お祭りの途中ショックなことがあって、ユカリに慰めてもらう。
おにへーが言っていた、コウタのチヨへの思いは本当なのか?
◯登場人物
千代
22歳 エステティシャン
奈良県橿原市に住む。祖母、母親と三人暮らし。ある日の合コンで、三つ上の幼馴染、コウタと再会する。
康太
25歳 家電量販店のメーカー販売員
瑛人とはバンドを組んでいた。10歳の頃、両親と大阪に引っ越したが、現在は奈良市内に喜平と共に住んでいる。
結局あのあと、ユカリとリンゴ飴を食べて。そして、家に帰る前にコンビニで買ったコーヒーを二人で飲み、少し落ち着いてから帰った。
ユカリはたくさん話を聞いてくれた。こういう時に、時間を割いて話を聞いてくれるのってすごくありがたい。
「ただいまー」
帰ってすぐにお風呂に入ろうと思ったんだけど……母親には気づかれてしまった。
「おかえりチヨ。ん? なんか元気ないけど……なんかあったん?」
母親はいつも鋭い。
「あ……んーん、何もないよ〜。あ、たぶんあれ。お祭りで人多かったから疲れちゃったのかも。お風呂入ってくるね」
私も少し、気持ちの整理がついてなかったから、早く一人になりたかったんだ。
『チヨ、急に帰ってしもてごめんな。あの場はおにへーをとりあえず連れて帰らんと、と思って。話したいこともあるし、また連絡するわな』
コウちゃんから、一通だけメールが来ていた。
私は返す気力もなく、とりあえずお風呂に入ることにした。
頭と身体と顔を手早く洗って、湯船に浸かる。こういう時はゆっくり浸かりたい気分だ。
「大人になっても、妹みたい……か」
これはおにへーくんの言葉だけどね。
ユカリにいっぱい話を聞いてもらって落ち着いてはいたけど、まだちょっぴり嫌な感じは残っていた。おにへーくんの強引な行動もそうだけど。
後はやっぱり、コウちゃんのことだ。
ユカリも言ってたように、こういう時は直接話すのが一番だって。それはわかってるんだけどね……
私って、こういう時。すごーくウジウジ考えてしまうのだ。あることないことウジウジ考えてしまって、実際はなんでもないようなことでも、ダメな風に考えてしまったり。
でも、ユカリは言ってくれた。あの時、おにへーくんに怒ったのは、私のことを好きだからだって。なんとも思っていないなら、あんなに怒らないって。
そういえばユカリもあのあと、おにへーくんの事で文句言ってたな。私に合わせてくれたのかもだけど、二人で話してて、遊び人の感じがした、って。コウちゃんと二人でルームシェアしてるのも、自分に都合がいいからじゃないかって。
コウちゃん、優しいからそういうのしてあげそうだもんな〜。あ、料理とか洗濯とかね。
なんていうか、お人好し過ぎるんだよ。アツシくん達にイジられても全然怒んないし。
あぁ、でも……
「コウちゃんに直接聞けるわけないよ〜!!」
そんなホイホイ思ったことを聞けたら、苦労してないよ〜。でも……これはコウちゃん本人に聞かないとわからないもんね。
あれ? そういえば話したいことがある、ってメールで言ってたような。
なんだろ?
◇ ◇
お風呂から上がって、ユカリにお礼のメールと、コウちゃんにさっきの返事をする。
「コウちゃんは悪くないし、大丈夫だよ。それより、話したいことってなーに?」
お水を飲んで、私はひと息ついた。二階の自分の部屋に入ってベッドに転ぶ。
まさか……大阪で付き合ってた、って言ってた彼女とヨリを戻すとか!! それはショック過ぎる……
てか、元カノのこと、結局詳しくは聞けなかったよね。まぁ聞いても仕方ないことなんだけど。
『直接話したほうがいいと思うから、来週九月初めになってまうけど、仕事上がりにでもそっちに行くわ』
直接話したほうがいいこと。
なんだろう。めちゃくちゃ気になる。
こういう時って、気になりだすと他のことが手につかなくなってしまうんだ。これも私の悪いところ。
「コウちゃん、今電話してもいい?」
確認を取ってから、電話をかけた。
「もしもし、ごめんね遅くに」
『あぁ、大丈夫やで。今日は悪かったな……おにへーにはかなり強めに怒っておいたわ』
私の事で怒ってくれたんだ。
「そうなんだ……ううん、コウちゃんも気まずくなりそうなのにごめんね。一緒に住んでるのにね」
数秒、コウちゃんは黙っていた。
『それなんやけどな、おにへーの家から出ることになるわ』
え。どういうこと? もしかして今日のことのせい?
「コウちゃん……」
『来月の九月の二十日で今の店舗から職場が変わるんよ、次は姫路になった』
姫路!!
「え、姫路って兵庫県の?? コウちゃん、来年の春くらいには変わるかもって、言ってなかったっけ?」
『去年の冬はこっちで仕事あったんやけどなぁ、やっぱ毎年状況は変わるみたいで。まぁいつどうなるかわからん仕事やからな……』
あと一ヶ月くらいでコウちゃんが、また奈良から出ていってしまう。
「嫌や……せっかく再会できたのに、また離れてしまうなんて。私、コウちゃんと行きたいとこ、まだまだいっぱいあるのに……」
私もそのうち異動はあるかもしれない。できるだけ異動はないようにお願いはするつもりだけど。
でも、こんな急にだなんて……
『あ、そう言えば、おにへーと二人の時、なんか変なこと言ってへんかったかな? アイツ、口からでまかせばっかり言うからな〜』
でまかせ……だったのかな。
「ん……コウちゃんが、私の事。小さい頃から妹みたいにしか思ってないって事とか。私のこと、なんとも思ってないって事とか。それは聞いたよ」
自分で言うのも辛かったけど。でも、それを否定してほしかったから、あえて勇気を出して言った。
『そんなん言うてたんかいな。小さい頃はそりゃそうやろ。てか、なんとも思ってなかったらドライブしたり、星空見に行ったりせーへんやんな』
「うん、せーへん。コウちゃん、私。コウちゃんが離れてしまうから凄く悲しいんやけど。これだけは伝えたい」
電話だからむしろ言えそうな気がしたんだ。直接だと顔から火が出てしまう。
『どうしたん?』
「私、コウちゃんのことが好き。大好き」
『チヨ……』
「小さい頃からも好きやったけど、今はもっと好き。再会できたキッカケは合コンやったけども、それでも私は凄く嬉しかったよ。これからまたやり取りできるんや、って」
私は言葉が止まらなくなった。
「コウちゃんが大阪に行ってる間、色んなことあったと思うけど。でも、これからのほうがきっと長いから、たくさんのコウちゃんを知りたいよ。それに私のこともたくさん知ってほしいよ」
何故か……涙が出てきた。
「コウちゃん。大好きだよ」
『ありがとう。俺も好きやで』
あぁ、電話ってなんでこんなに近くに声が聞こえるのに。
近くにコウちゃんはいないんだろう。
手を伸ばせばすぐ近くにいるくらいに声は聞こえるのに。
実際はいないんだろう。
でも今は。せめて想いを伝えよう。
「コウちゃん大好き。大好きだよ。コウちゃんも好きって言うて」
『あぁ……好きやで』




