チヨのお婆ちゃん
天川で星空を観ていたコウタとチヨ。
その時、急に母親から電話が。
婆ちゃんが…??
◯登場人物
千代
22歳 エステティシャン
奈良県橿原市に住む。祖母、母親と三人暮らし。ある日の合コンで、三つ上の幼馴染、コウタと再会する。
康太
25歳 家電量販店のメーカー販売員
瑛人とはバンドを組んでいた。10歳の頃、両親と大阪に引っ越したが、現在は奈良市内に喜平と共に住んでいる。
千代の母
52歳 スーパーのレジのパート
千代の祖母
78歳
心臓の持病がある。
「あれ、お母さんだ。ごめん、コウちゃん。出てもいい?」
きっと、何時に帰ってくるとかそんな電話に違いない。
「どうしたんお母さん……」
『チヨ! 婆ちゃんが……』
え。お母さんの様子が、明らかにおかしかった。
「婆ちゃんがどうしたの? 何かあったの?」
『ついさっきなんやけどね。婆ちゃんが苦しいって言うて倒れて……救急車呼んで……今、病院なんよ……』
私は頭が真っ白になった。
私の様子を見て、コウちゃんが心配している。
「チヨ、何かあったん!?」
私はコウちゃんに頷きながら、自分の中でも整理する。
「今、天川なんやけども、コウちゃんに頼んで病院まですぐにいくわ! どこの病院?」
母親に病院の場所を聞いて、ひとまず電話を切った。
たぶん母親自身が、冷静に話せる状況じゃない気がしたからだ。
私もだけど……。
「コウちゃんごめん。婆ちゃんが倒れてしもて……婆ちゃん心臓が元々悪いんよ。ごめんなんやけど、病院まで送ってもらってもいい? ごめんね」
コウちゃんは暗闇の中だけど、驚いた様子で起き上がった。そして、すぐに携帯のライトを付ける。
「わかった! そんな謝ることちゃうで。それよりも早く行くで!」
早く行ったからと、どうなるものでもないかもしれない。
でも、居ても立ってもいられなかったのだ。コウちゃんはライトの明かりを頼りに、行きと同じく手を繋いでくれて、私を引っ張ってくれた。
しばらくして、車に着き、すぐに発車させる。
「大和八木駅の近くのあのデカい病院やんね。ちょっと飛ばすで!」
普段のコウちゃんとは違う早口で言い、駅までの道のりを急いで車で走っていく。
婆ちゃん。
婆ちゃん。
母親の状況はわからないが、コウちゃんの車に乗せてもらい、病院に向かっていることを簡単にメールで送っておいた。
電話だと余計に焦らせてしまうと思ったからだ。
私が小さい頃からずっと可愛がってくれた婆ちゃん。
コウちゃんが引っ越して、離れ離れになってしまった時、私が悲しくて泣いてた時も、優しく慰めてくれた婆ちゃん。
時代劇大好きで、たまに機嫌のいい時は、私にそのストーリーを延々と話してくれる婆ちゃん。
「あと十分ちょいくらいで着くで! もう少し待っててや」
「うん。うん、ありがとう」
病院に着き、深夜だったので救急の入り口の方に行って、婆ちゃんの家族であることを伝える。
案内された所に行くと、母親が手術室の前のベンチに座っていた。
「お母さん!」
母親はさっきよりも少し落ち着いていたみたいで、私とコウちゃんの方を向いて、表情は硬かったが、自分に言い聞かせるように頷きながら話してくれた。
聞くと、心筋梗塞で緊急手術になったようだった。私が小さい頃覚えていないくらいの時にも、一度入院してたことがあったらしい。私が知る限りでは婆ちゃんが入院していたことは聞いたことなかったから、もしかしたら婆ちゃんも母親も心配かけないように言わなかっただけなのかもしれない。
私達が向かっている間にも、看護師さんからも説明があったようだが、カテーテルという全身麻酔をしなくてもいい手術でいけるらしくて、時間は一時間〜二時間くらいで終わるみたい。
「婆ちゃん、大丈夫なの??」
私は、念のために母親に確認した。
「まだ病院に連れて行ったのが早かったからよかったみたいで。母さんも動転してしもて、チヨに電話かけちゃったんよ、ごめんなぁ……」
「お母さん謝らんで〜、私もコウちゃんも心配なんやから。でも……よかったよ……」
コウちゃんは側で黙って聞いてくれていた。
「コウちゃん、ほんとごめんね。婆ちゃん、大丈夫みたい」
コウちゃんは、ほっとした顔で頷いた。
「よかったわ……手術、まだもう少しかかるんかな? おばちゃんなんかいるものとかある?」
「コウちゃんありがとうね、一緒に来てくれて。あ、着替えとか、身の回りの物とかはまた取りに行かないとあかんのやけども、ひとまず手術が終わって無事を確認してからかな」
そうだよね、そうだよね。
「あぁ、でもホントによかったよ〜! 病院来るまで、私泣きそうやったよ〜」
つい、横にいたコウちゃんの腕を掴んでしまった。
コウちゃんは嫌がりもせず、私の頭を優しく撫でてくれた。
「昔からチヨは泣き虫やったもんな〜。泣かれたら俺が困るとこやったわ」
コウちゃんはそう言って撫でた私の頭をぽんぽんとしてくれた。
よかった。ホントによかった。
私と母親とコウちゃんは、婆ちゃんの手術が終わるまで、ひとまずそこで座って待っていた。
急に倒れて運ばれたチヨの祖母だったが、
緊急手術で命は取り留めたようだ。
ほっとする母親とチヨ。
そして、一緒に居てくれるコウタのことを頼もしく思うチヨだった。




