天川の満天の星空の下で
天川村に向かう途中の道中も、
コウタとの会話を楽しむチヨ。
天川の星空は無事に見れるかな?
◯登場人物
千代
22歳 エステティシャン
奈良県橿原市に住む。祖母、母親と三人暮らし。ある日の合コンで、三つ上の幼馴染、コウタと再会する。
康太
25歳 家電量販店のメーカー販売員
瑛人とはバンドを組んでいた。10歳の頃、両親と大阪に引っ越したが、現在は奈良市内に喜平と共に住んでいる。
嫌なことをしない、だけじゃなくて。喜んでくれるようなこと、嬉しいと思うことをできるようになれたらいいな。
私はコウちゃんの温もりを感じながら、そう思った。大好きな人なら、大切な人なら、もっと喜んでほしいと思うに違いない。
もっと楽しんでほしいと思うに違いない。
「私……これからもコウちゃんと色んなところに行ったりしたいな〜、コウちゃんはここに行ってみたい、とかあったりするん?」
「ん〜、そう言われると意外とそういうのないんよな〜。つまんない性格かもやけど、たとえば近所の公園とかでぼーっとしたり、道端を散歩して花を眺めてたりとか、そういうなんでもないような生活が良かったりはするかも」
あ、もしかしたらコウちゃんは、観光スポットとか、そういうのもホントは苦手だったりしたのかな……それなら悪かったな。
「ごめん、コウちゃん。私、自分が星空見に行きたいから、無理強いしちゃって……」
「あっ! ちゃうちゃう。星空とか綺麗な景色は好きやで。それに……もし、俺だけなら行くことがなかったところに、行けるチャンスをくれたんやから、逆にチヨには感謝やわ」
そう言って、握った手を更にギュッとしてくれた。コウちゃんは、やっぱり優しい。
「もぉ〜、そんなこと言ってくれたら嬉しいけど、あまり無理しないでね。私……コウちゃんにも色々喜んで欲しいんやから」
「へ? 俺に喜んでほしいってどういうこと?」
「もうそれはいいの〜。あっ! だいぶ星がたくさん見えるようになってきたよ〜! このあたりが天川村なのかな?」
コウちゃんにツッコまれそうだったので、私は話を変えた。
「ん〜、どうなんやろ? ナビではあと十分くらいって書いてるから、そろそろかもやな。駐車場停めて少し歩くと思うで」
話してたのは、天川村でも洞川というキャンプ場があるとこあたりが、周りが木に囲まれており、街の明かりも届かない場所なので、凄く綺麗に星が見えるとのこと。
駐車場に着く前に、もう一つのオニギリを、今度は半分こして食べた。恥ずかしいけどちょこっとお腹空いてたから。
「よしっ、ここからは少し歩きやで〜。エンジン停めたら一切明かりがなくなるから、携帯のライトで照らしながら行こか〜」
車を降りると、ホントに周りは真っ暗だった。きっと月明かりがあるとまた違うんだろうけど、新月を狙って来たからね。
木々の隙間から、もうすでに綺麗な星空が見えてきていた。もう少し歩くと、ひらけた所に出てくるらしい。
コウちゃんは私の手をしっかり握って、先導してくれた。
「よし、到着やで〜! おぉっ、めちゃくちゃ綺麗やんか〜!!」
満天の星空……という言葉を聞いたことがあるけど、ホントにそんな感じ……橿原も空は綺麗なんだけど、見えている星の数が違う。
「コウちゃん、あの川みたいな星のカタマリが天の川なんかな〜! めちゃくちゃ綺麗……」
「なぁ、凄いな〜! あ、向こうの原っぱに寝転んで見上げたほうが、全体見れるんちゃう?」
ゆっくり、ゆっくりと歩いて、寝転べそうな平たい場所に行き、そして、寝転んでから携帯のライトを消した。
わ。
わっ!
「わ〜〜〜!! なんかプラネタリウムみたいやぁ〜!」
我ながら単純な例えなのかもしれない。
でも、ホントにそんな感じ。
地面に寝転んでるんだけど、自分が宙に浮いているような。
今、コウちゃんの手を離してしまうと、飛んでいってしまうような、そんな感覚になった。
「コウ……ちゃん??」
「あぁ、ごめんな、チヨ。綺麗過ぎて無言になってしもた。綺麗やなぁ〜!」
良かった……コウちゃんが喜んでくれて。こんな綺麗な星空を二人で見れるなんて、幸せだ。
「あっ! 見て! 流れ星!! コウちゃん見えた?」
「おぉ、見えたで! てか、すっごい流れとるで」
何秒かに一回くらい、星が流れてるような。
「もうこれだけ流れてたらお願いたくさんできそうやね」
「あはは、あまり欲張ると良くないで〜」
私とコウちゃんは、星空と一体になってる。もう横を見ても何も見えないくらいの暗闇で。
星空だけが見えている感じ。今は、手だけがコウちゃんと繋がっている。
「コウちゃん、星見てる〜?」
「うんうん、どうしたん、チヨ?」
私は少しだけ、勇気を出してみた。
「夜やから少しだけ冷えてきたみたい……」
「あ、どうしよ、車戻ろっか?」
ううん、そうじゃないの。
「少しだけくっつきたいな……」
断られたらどうしよう……コウちゃんが私のこと、妹みたいにしか思ってなかったとしたら。
「わかったで、もうちょいこっちきてみ」
相変わらず軽い感じのコウちゃん。
でも、私はそれに乗って、両手をコウちゃんの方に絡ませて、身体全体でくっつくように寄り添った。
「ありがとぉ……コウちゃんあったかいわ」
「そかそか。それは良かったわ。チヨは相変わらず甘えたやなぁ〜」
そうだよ。私は甘えん坊だよ。ずっとコウちゃんに甘えていたいよ。
明るい所では、きっと恥ずかしくてこんなにくっつけなかったと思う。
でも、今は何も見えないのもあって、私自身が少し大胆になれてる気もする。
「コウちゃん、こうしてたら嫌?」
「ん〜、素直に言うと少し照れるで。だってお互いもう大人やからなぁ〜」
照れる、っていう言葉が、もしかしたら私を女性として、意識してくれてる、ってことなのかも。
私はそう都合よく解釈した。
コウちゃんの声が私の近くで響く。
ずっとずっとこうしてたいな。
「コウちゃん、私の方見て……」
「ん、見てるで? どうしたん」
私はコウちゃんの声が出ている所へ、私の顔を近づけた……その時。
「ん? 携帯震えてるわ」
めちゃくちゃ空気読めない携帯だよ〜!!
「あれ、お母さんだ。ごめん、コウちゃん。出てもいい?」
きっと、何時に帰ってくるとかそんな電話に違いない。
「どうしたんお母さん……」
『チヨ! 婆ちゃんが……』
え。




