二人きりのドライブデート
母親にコーディネートを相談しながら、デートの準備をすすめるチヨ。
ユカリとの誤解もとけて、ドライブを楽しみにするチヨだったが……
◯登場人物
千代
22歳 エステティシャン
奈良県橿原市に住む。祖母、母親と三人暮らし。ごくまれに幼馴染のお兄ちゃんの夢を見るらしい。
由香里
22歳 エステティシャン
千代の同期。美人で計算高い。
陽菜
22歳 エステティシャン
千代の同期。おっとりしていて皆に優しい。
康太
25歳 家電量販店のメーカー販売員
瑛人とはバンドを組んでいた。10歳の頃、両親と大阪に引っ越したが、現在は奈良市内に住んでいるようだ。
篤史
25歳 家電メーカー勤務
康太の高校の時の同級生
竜次
25歳 システムエンジニア
康太の高校の時の同級生
デート当日は夜景を見るという目的だったので、夕方に待ち合わせて、先に晩ごはんを食べてから、それからドライブに出発することにした。
五月の終わりにもなると、日没の時間も遅くなるもんね。
私とユカリとヒナの三人は前と同じ大和西大寺の駅に電車で行き、アツシくんとリュウジくんは大阪から車でこっちへ、コウ兄ちゃんは自分の車でやってきた。
奈良奥山ドライブウェイに行く途中の牛丼屋さんで軽くご飯を食べる。
アツシくんの車は大きくて、牛丼屋さんまではアツシくんとリュウジくん、そして私とユカリとヒナもアツシくんの車に乗せてもらった。
ドライブに行く時はコウ兄ちゃんの車はどこかに停めておいて、みんなで行くのかな? そう思って、ご飯食べてる時に私が何気なくそれを聞いてみたら、
「え? コウタだけ一人で運転していったらいいんちゃうの?」
と、アツシくん。
え、みんなで行くって言ってたのに話が違う。そういえば初めの合コンの時も、アツシくんとリュウジくんは、コウ兄ちゃんになんか冷たかったような気がしたよね。
「それって、コウ兄ちゃんだけ仲間はずれみたいじゃない?」
私はアツシくんに文句を言ったが、コウ兄ちゃんが止める。
「あ、全然俺は大丈夫やで。俺の車、軽自動車やし山道も乗り心地悪いと思うし、アツシの車でドライブ楽しんできいや」
「そうそう、コウタみたいにフラフラ遊び回ってると、車も中古の軽自動車しか買えないんやで。俺は就職してからも真面目に働いてきたから、ちゃんとした車が買えてるんや。オーディオもいいやつにしてるから音いいで〜」
そこまで言う?? 私はちょっとカチンと来てしまった。
「私は、コウ兄ちゃんの車に乗ります!」
「チヨ……」
ユカリもヒナも気まずそうにしているが、二人には悪かったけど、コウ兄ちゃんのことをバカにしたような言い方をするアツシくんの車には乗りたくなかった。
「コウ兄ちゃん、いこっ!」
アツシくんもリュウジくんも、考えを改める気もないらしく、そのままユカリとヒナを乗せてそそくさと行ってしまった。だいぶ感じ悪〜い!!
車に乗ってから、私はコウ兄ちゃんに直接聞いた。
「あんな言い方なくない? コウ兄ちゃん別にフラフラ遊び回ってたわけじゃないんでしょ?」
「ん〜、高校卒業して就職してからすぐに一人暮らししてるから、フラフラしてるって言えばそうなんかもやな〜。アツシは今も実家暮らしやから、それはそれで親とのストレスとかもあるやろし、そんな怒ることないで」
コウ兄ちゃんは人が良すぎる。なんだか私のほうが腹が立ってるんだけど。
「アツシくんやリュウジくんとは、卒業して就職してからはそんなに会ってなかったの?」
「まぁそうやなぁ〜、たまに飲みに行ったりはあったけど、お互いの仕事もあるし、そんなに頻繁には会ってなかったんちゃうかな。あっ、そうそう」
コウ兄ちゃんは、思い出したように笑う。
「ん?どうしたん、コウ兄ちゃん」
「あ、リュウジのことなんやけどな。高校卒業して就職するまでの間に、自動車免許取りに二人で合宿に行ったんよ。岡山県の方なんやけどな。リュウジが途中でホームシックになってしもて、慰めるの大変やったんやわ」
え、身体もガッシリしているリュウジくんが意外だった。
「あいつ母親と二人やから、小さい時から。まぁそれやから、ってわけじゃないかもやけどな。それにアツシもああいう言い方するけども、いいとこもあるんやで」
「ん〜、リュウジくんはともかく、アツシくんのいいとこがわからんのやけど〜」
「アツシは両親と妹と四人家族なんやけど、妹のことめちゃ可愛がってるわ。家族のこと大事にするやつに悪いやつはおらんで」
ん〜、そうなのかな。でも、コウ兄ちゃんがそう言うとそんな気がしてきた。
そんな話をしている間に山道の方に車が入って行く。
あ、さっきは勢いでコウ兄ちゃんの車に乗ってしまったから気づいてなかったんだけど。
そういえば、この状況って……
二人きり!!
私は急に緊張してきてしまった。
「へ、へぇ〜、そうなんやね〜、アツシくんも悪い人じゃないんやね〜。こ、こ、こ、コウ兄ちゃん?」
「どうしたん、ニワトリみたいな声出して?」
「コウ兄ちゃんは、私が乗ってきて。私と二人で嫌じゃなかった??」
そうなのだ。私の気持ちばかり押し付けてしまったらダメよね。
「うん……嫌ちゃうかったし。むしろ、嬉しかったで。ありがとうな」
ちょっと!! いきなりそんな事言わないで〜!
私はなんだかドキドキしてきた。
そんな私のドキドキした気持ちと比例してなのか、山道はぐねぐねして、急なカーブも出てきた。
「あ、道が結構険しくなってる感じやし、酔いそうやったらなんかに捕まっときや。体揺れると酔いやすくなるからな」
私はそこまでは車酔いするタイプじゃないんだけど、素直にドアの手すりに軽く捕まるようにした。
コウ兄ちゃんは、かなり運転はゆっくりしてくれているみたいだった。
「ドアの方捕まったら危ないやろ。ほら、右手出しや」
「え、右手……?」
私はモジモジしながら右手を出した。
その手をコウ兄ちゃんは、そっと自分の左手で握ってくれた。
「俺はハンドル持っとるから安定してるからな。これで少しは安心やろ」
長いこと会ってなかったから、忘れていたけど。
小さかった頃も、コウ兄ちゃんはこうやって手を繋いでくれたんだ。
そうやって、私のことを安心させてくれたんだ。
初めはアツシに怒っていたチヨだったが、コウタの優しさに触れ、すぐに怒りは収まった。
急に二人きりということに、緊張をしてしまうが……
コウタのさりげない優しさを、嬉しく思うチヨだった。




