会場入り
会談当日。
また薄暗い時間から街を囲む塀の中でも一番外側の塀に登り、その上に立って地平線を睨む。
ナイトレスシティは大きく分けて二つの塀に囲まれていて、外の塀は外敵から街を守るため。
外塀と内塀の間は駐車場になっていて、外から街を訪れた人間は車で街へ入ることは許されない。
街の中では公共交通機関を使う。
塀を分けている大きな理由としては、内塀が街を守る為にあるのと同時に、外へと出さない檻でもある。街で起きた事件や不祥事、そういったものは街の中で内々に片付けてしまわなくてはいけないから。
外へ逃げられるなんて一家の、そして街の恥でしかない。
日が昇り始めた早朝。荒野に二つの砂煙が見えてきた。こめかみを押さえ、埋め込まれている端末の機能を使いズームすると巨大な装甲車と何台もの車。もちろん神楽と神威のものだろう。
それぞれが力を誇示するかの様に無駄に大きな車体で、多数の車を引き連れて来てる…。
戦車やミサイルトラックを引き連れて来なかっただけマシなんでしょうけど、間違いなく車内に色々と隠し持って来てはいるだろうなぁ。
やれやれ…。どうせ街には会談に参加する本人の乗る車一台しか入れない決まりなのに。他は内塀の外に待機させる。
見栄を張りたいんでしょうね。つまらない…。本当につまらない見栄の張り方。
“見栄を張るなら覚悟でもって魅せろ”…とは麗華姉さんのセリフ。私もそれがカッコいいと思う。
会談か…。果たして本気で話し合いをする気なんてあるのだろうか。
そもそもこの二国が争っているのは、どちらが神の降り立った地か、というお伽話みたいな物が発端となっている。
神楽の主張は、神が降り立ち音楽や娯楽に溢れた国を作ろうとしたというもの。
一方神威は、神が降り立ちその権威で持って周辺全てを統治したという。
神なんていない、なんて愚かな事は言わないけれど、私からしたら何人もいたのでは?と思ってしまう。
娯楽が好きだった神様が神楽をつくり、統治する力に長けていた神様が神威を…ってね。
誰が神様は一人なんて決めたの?どちらも神として崇めている相手の名前も違うのに。
他の国にだって成り立ちの歴史の中には多かれ少なかれ神様の存在は出てくるのだから。
唯一国規模の勢力を誇っているのにそういった歴史がないのがナイトレスシティだ。せいぜい歴史も百年そこそこしかない上に、立ち上げたのは斑鳩の人間だとハッキリしているから当然だけど。
と、まあそういう理由もあって二国は不毛な戦いを続けているわけだ。他の力のない小国はどちらかにつく形で、世界そのものが二分されていると言ってもいい。
「”こちらカリン。 うるあ、みんな配置についたよ! 今のところ不審者も不審物もなし!“」
「ありがとう。主役共が街に入ったから私も準備しなきゃ」
「”ドレス着るんだっけ?”」
「うん。絶対似合わないのにね」
「”似合うから大丈夫…”」
この声、ナオ!?
「”旦那様はそう言ってるけど? よかったね!”」
カリンから誂うようなセリフが飛びだしたから無視して、外塀から内塀へとワイヤーフックを使い、更には街のビルへと移動、ビルからビルへと飛び越えて本家へと着替えに戻る。
流石にドレスだといつもの装備が何もつけられないな…。ちょっと心細い。
私にとってパルクールをするための装備は手足の一部みたいなものなのに。
本家の門をくぐるとすぐに家の者に捕まった。
「お嬢様、お戻りですか! あまり時間がありません、さぁこちらへ」
「遅くなってごめんね」
メイドに連れられて家の奥へ。
装備類も全部取り上げられて、着ていた服どころか下着まで…。
ドレスだから仕方がないのはわかるよ?でも全部ひん剥かなくても。まだナオにも見せてないのに…。
着せられたのは濃い青色の艷やかなオフショルドレス。夜会みたいだけどこれで合ってます?
「私まで着飾る必要あるのかな?」
「麗亜様が何を仰るのですか。麗奈様も麗華様も楽しみにしておいでですよ」
姉さん達が?あの二人に比べて私なんて貧相なものなのに。本当になんの意味があるのかわからない。斑鳩を取り仕切っているのもあの二人なのだから。
でも…役目は果たさなくてはね。この家に生まれた以上、私はそういう立場にいるのだから。
家の者が運転する防弾車で姉達と会談会場へ。
「たまにはドレスもいいでしょう?」
「可愛い〜! 普段は絶対に着てくれないから頑張って選んだんだよ〜」
これ、麗華姉さんの趣味でしたか…。
そういうお二人もすごいドレスですからね。とっても似合ってて羨ましい。
私との格差が…。姉妹なのに。でもいいんです。ナオは私のこのスタイルが好きだとそう言ってくれたから。同じパルクーラーとして身軽に動けるスタイルこそが理想的でキレイだと。
会談会場の側には神楽、神威のVIP車が一台ずつ停められ、それぞれの国の兵らしき人達が数人、この街の警備兵と打ち合わせをしてる姿が見えた。
「行くわよ」
「面倒くさいけど仕方ないか〜」
「はい…」
車から降りて会場へと移動し、周りを見渡す。
ここは普段屋外ライブ会場として使うから広さはあるし、見晴らしもいい。つまり狙いやすいという意味でもあるけど、だったらそれはそれで守りようはある。
周囲は家の者やドローンで固めているし、高いところからは周囲百八十度ぐるりとうちのチームが目を光らせている。
マスコミのいる観客席の一部エリアも離れた位置で隔離状態になっているし、厳重なボディチェックから持ち物に至るまで厳しく調べ上げてある。文句を言うような奴は即街から叩き出した。
こういうことができるのがこの街の強みでもあるから、ここを選んだのはある意味間違ってはないんだよね。斑鳩からしたら迷惑以外の何ものでもないけど。
「”ここからでも見えるけど、似合ってるじゃん! キレイだようるあ!”」
「”ちょっと露出多い…”」
「”と旦那様がすねてますけど。うるあ、今の気持ちは?”」
「私が選んだわけじゃないの! みんな余裕があるのはいいけど油断はしないでね」
「”もちろん! ちゃんと守るから。不審者も不審物も今のところ確認してないよ”」
頼もしいよ本当に。
「麗奈姉さん、現状周囲に不審者、不審物なし」
「ありがとう。ドローンの警戒網を抜くのはスナイパーでも無理よ。安心しなさい」
古いタイプの銃声がするような物なら、サイレンサーを着けていたとしても僅かでも銃声がすれば音の場所から弾道を読んでいくつものドローンが盾になる。
最新のレールガンやレーザーみたいなものならもっと単純。大きな電力が動けば即座に反応して無力化してしまう。
一番怖いのは至近距離で音もなく射出されるナイフとかだ。ただ、その場合確実に取り押さえられるからバカでもなければやろうとは思わないだろう。
会談の相手を襲ってなんの意味がある?しかも自分が犯人だとわかる場所で。
現在、この街の表のトップでもある彩織さんと一緒に会談会場へと入ってきたのは四十代くらいのおじさんと、まだ若い女の人だった。
どちらも顔は知ってる。おじさんの方は神威の現国王の弟。女性は神楽の姫だったはず。二番目か三番目の…。
司会進行は麗奈姉さんが務め、私達と彩織さんは立会人という形になる。
代々、表の顔役も斑鳩の親類筋から選ばれるのはお約束。本家以外は一応堅気という扱いだし。
彩織さんもうちの父の従兄妹だったかに当たる人。
分家とはいえ、どこもカジノや色街などで儲けているから実質この街が斑鳩だけで回っていると言っても過言ではないのだけど、表向きは斑鳩とは無関係ということになっている。
別に一般市民が新たに店を出す事に制限をかけているわけでもないからね。
自由都市なんだから店を出すのも畳むのも自由。悪行を働けば潰される。それだけ…。
まっとうに商売しているのなら何も咎められたりもしない。それがナイトレスシティという街。
全員が席に付き、いよいよ会談が始まる。
カリン達からも異常無しとの報告がきているから、このまま無事に終わってくれたら…なんて甘いのかな。




