13話 剣王の情報を集めろ
連中が話してる間にアンダースンを抱えて離れて介抱する。
致命傷ではないが、かなり深く斬られている。意識も戻らないし、早く戻って治療を受けさせないと。
さて、マリンはと見ると、上手くキリュウの気を引いている。
「ふーむ魔人王を倒した剣王か。たしかにそいつには会ってみたいものじゃな。で、そいつはどこにいる?」
「あー、ごめん。旅先で聞いたドルトラル向こうの国のウワサ話だから、詳しいことは知らないのよ。なにしろドルトラル帝国のあった場所の大半が魔物地帯になって分断されちゃったでしょ。向こう側の詳しい状況がわからないのよ」
「なんじゃ。なら、その話は与太の可能性もあるわけじゃな」
「でもでも! ドルトラルを滅ぼした魔人王がいたことや、そいつが倒されたことは確実なのよ。だから剣王だって確実にいる………と思う。いたらいいな!」
「マリンジェゼータ。オヌシの腹は透けて見えとる。ワシが剣王なんてオイシイ相手がいると聞けば、それに向かってすっ飛んでいく。そう考えておるんじゃろう」
「ううっ(汗)」
「まぁ、わかった上で、その話に乗ってやらんでもない」
「え?」
「ただし、そんなウワサ話では足りん。ワシを舐めすぎじゃ。剣王が確実に居るという話を持ってこい。居場所もな。そしたら思惑通りワシはそこへ行ってやる。この坊も返してやる」
キリュウは若の髪を掴んでグイッと立たせる。
チッ、乱暴すんなよ。
その若になにかあったら、ウチの領は次期領主の座をめぐって政争で大荒れになっちまうんだよ。
「アタシ自身はその坊やとか、いらないんだけどね……」
「こっちは大いにいる! ステラに嫌われるぞ!」
思わずヤジを入れた。気をつけないと『いらないなら殺すか』みたいな流れになってしまうかもだ。
「ハァ、わかったわよ。この話は交易商人の街で話題になってた話なんだけど、詳しいことを知っている奴を探すわ」
「ウム。待っておるぞ」
キリュウは若の体をポイッと捨てる。
ったく、興味ない人間はどこまでも乱暴に扱う奴だな。
こうなりゃ、さっさとコイツの気に入る剣王の情報を持ってこないと。
「その剣王の情報集め、俺もやるぜ。そういった情報収集も冒険者の領分だからな」
「いいや、お前さんにはここに残ってもらう。坊といっしょにな」
「ハァ? なんで俺?」
「この坊と、ただ待っているのも退屈じゃ。お前さん、鍛えればワシの命に届く腕を持つかもしれん。修行をつけてやる」
「…………いいのかよ。その腕でアンタの命を狙うことになっても」
「そうしてくれたら大歓迎じゃ。こうも強うなってしまうと、世の中つまらなくてたまらん。いつでも寝首かきに来い」
バカバカしい。なんで俺がアンタの退屈埋めるために命かけきゃなんねぇんだ。
仕事もバトルも、生きるため家族のためにやるもんだ。
長生きしすぎて退屈しきった超人どもの相手するためじゃねぇんだよ。
とはいえ断れる状況でもないし。俺も若といっしょにここに残るしかないか。
「ステラ」
「な、なに、兄ちゃん?」
「聞いての通りだ。俺はここに残ることになった。ついては剣王の情報集め、お前に託したい」
「あ、あたしに!?」
マリンらは情報集めする体で逃げるかもしれん。
なので、それを防ぐためのひも付きの役だ。
「ああ。お前には荷が重いかもしれんが、若と俺の命運はお前に託すしかない。どうか引き受けて……」
「兄ちゃん」
「なんだ?」
「初めてだね。兄ちゃんがあたしを頼りにしたの」
「あん? メシの支度とか留守の守りとか、頼りにした事はかなりあったと思うぞ」
「そんなんじゃなくってさ。冒険者としてあたしに役目を与えて頼りにするって事がだよ」
「………まぁ、そうだな」
お前は冒険者としちゃ、端下仕事しか出来ないし。
できるなら冒険者なんて命の切り売りするような稼業はやめて、嫁にでも行ってほしいんだが。
「あたし、がんばるよ。兄ちゃんから託されたこのクエスト。ぜったい剣王の情報を集めて、兄ちゃんと若様を助けるからね」
「あ、ああ。しっかりやれ」
だけどコイツはコイツなりに一人前になりたかったのかもな。
ならば今だけは家族じゃない、冒険者の仲間として送り出してやるべきだろう。
「ステラ、頼んだぞ。このクエストには俺と若の命だけじゃない。俺たちの領の命運がかかっている。必ずやりとげてくれ」
そういって手を差し出すと、ステラは強く握り返してくる。
「うん、まかせて。あたし、ぜったいにやってくるよ!」
ステラの目はやる気に満ちてキラキラしている。
その生真面目な顔を見て少しだけ笑った。
ああ、やっぱりお前は可愛いな。
俺もずっとそう思いながら、家族をやってきたのかもしれないな。
「そうだ、最後に若に挨拶していけ。『必ず助けます』って決意を示すんだ」
「うん!」
ステラは元気よく返事をすると、若の前に立って膝をつく。
まるで騎士みたいだな。
「若、心苦しいでしょうが、どうかお待ちください。あたしが必ずや情報を集めて若を解放してさしあげますので」
「ふっ……ふざけるなぁ!!!!」
「わぁっ!?」
なんだ、ステラのせっかくの門出だってのに。
次期領主として、領民の献身に応えてもやれんのかよ。
「祖父の真竜退治の英雄譚は偽りだと? この魔族のやった功績を奪っただけだと? そんな話を信じろというのか!」
マズイな。たしかにその孫である若にはとうてい受け入れがたい話だったか。
「若、真相がどうあれ今は生きて帰ることが優先です。今は耐えて情報収集を待ちましょう」
「こやつの要求などに従う必要はない! 今この場で、この賊徒どもを全滅させてくれるわ。わがホロラルド家の切り札でな!」
若は懐から奇妙な形のアミュレットを取り出した。
おそらくは魔道具。まぁ何らかの魔法のこめられたお守りくらいは持たされて出陣してきたんだろうが。しかしそれを使う時期はとっくに過ぎている。
「若、つけ焼き刃の策など事態を悪化させるだけです。どうか辛抱して……」
若を説得しようとしたが、キリュウに肩をグイッと引っ張られて止められた。
「いや面白い。やらせてみぃ。ワシは坊の悪あがきを邪魔したりせん。ワシを黙らせる手があるというなら、受けてとめてやろうやないか。この大胸筋でな」
男のオッパイ自慢なんか聞きたくねーんだよ。
悪い形で若と気が合いやがって。
「祖父チェコよ、お力を。わが家に伝わる守護精霊よ! 出でよ【ゴクモン】!」
バキャァッ
アミュレットが砕けると、小柄で銀色の甲冑を纏っているような精霊が現れた。
なんだ? パワーがあるようには見えないし、スピードも大して速くない。
キリュウどころか、俺にすら勝てなさそうなんだけど?
「これがお前さんの切り札か? あんま強そうには見えんのう」
「そう思うなら戦ってみるがいい。このゴクモンの強さを思い知れ!」
「そうじゃのう、やってみるか」
キリュウはブラリ散歩でもするようにゴクモンとやらに向かって歩む。
ガシッ
「あ、あれ? なんで?」
「なにっ!?」
なんとキリュウは、真横にいたステラを無造作につかんだのだ。
そのままステラをぶら下げてゴクモンに向かってゆく。
「おいっ? どういうつもりだ!」
糞ッ! とてつもなく嫌な予感がしやがるぜ。




