12話 剣王の伝説
まいったな、あのキリュウとかいう奴。
強ぇのは覚悟していたが、元々が真竜を倒すような奴が、こいつらと同じ進化をとげたとなると、どれほどのものか想像がつかない。
そんな奴とは敵対せず、交渉で良好な関係を築くのが理想なのだが。
――「ええい、復活しおったか大魔族! ならばわが領の安寧がため、このホロラドル伯爵領次期領主シオン・ホロラドルとホロラドル伯爵家騎士団。今ここで討ち果たしてくれよう!」
はぁ。さっそく敵対してくれてるよ、ウチの若様。
なんで俺の方が政治的なものの考え方してんだか。
マジ、この領の行く末が心配だが、そんな未来なんか考える余裕がないくらい状況はヤバイ。
「次期領主のシオン? チェコ・ホロラドル伯爵の息子はヤゴーエフとか言っておらんかったかのう」
「英雄がわが祖父チェコ様の名を気安く呼ぶでない! 私は彼の孫。誇り高き血統のシオン・ホロラドルだ、魔族よ!」
「ふぅん孫ねぇ。ま、ワシを歓迎してくれてるようだしの。今の騎士団がどれほどのものか、教えてもらおうやないか」
キリュウは手招きするように指をクイッと曲げる。それが合図かのように若は猛る。
「見るがいい、剣聖スキルの最大奥義【大切斬】!」
おそるべき刃の形をした破壊のエネルギーが若の剣から飛ぶ。
されどキリュウは瞬時にその場から消え、若の後ろに立っていた。
「ほほう、たしかにそれはチェコの必殺スキルじゃのう。しかしそんな大技が、崩しもせずに当たるか!」
バキィッ
キリュウは若に一撃を当てて昏倒させ、 倒れた若の剣を奪う。
そして倒れた若を足で踏みつける。
「ほれ、ここから抜け出してしてみぃ。お前のじいさんはやってみせたで」
「ぐっ………おごっ。いったい……貴様は、祖父といかなる関係が………」
「教えてやるわ。真竜を倒したのは、お前さんのじいさんじゃなくてワシじゃ。そのせいでこのナリになってもうた」
「ば、バカな! でたらめを…………」
「お前さんのじいさんはな、竜の力を手に入れることに狂っとった。が、自分ではかなわず、ワシにかすめ取られた。その後その力を手にしたワシを倒し奪おうといろいろ仕掛けてきた。あの執念は好きやった」
「な、なんだと!? わが祖父チェコの真竜討伐はいつわりだと申すか!」
「そや。だが奴にワシを倒せるだけの力はなかった。ゆえにここに封印した。いつかワシを倒し力を手にするためにな。もっとも最期までかなわずに死んだようやがな」
なーるほど。先代も領主の家なんかに生まれるべきでない気性だったらしいな。
さて、とりあえず問題は、アイツの昔馴染みのコイツらだが。
あのキリュウって奴の味方になるかどうかで、問題は変わる。
「それでアンタらはどうする。昔なじみのよしみで、アイツとクランでも結成するか?」
マリンはかぶりを振った。
「まさか。アイツの危険を求める性分のせいで、仲間になりたがる奴なんかいなかったって言ったでしょ。今でもアタシはごめんよ。おやつとウササはどうする? またアイツとパーティーでも組むかしら?」
「今のウササのリーダーはマリ姉ウサ。キリュウの元に居たときより長くなったし。マリ姉といっしょに居るウサ」
「ボクは……どうしようかな。キリュウの強さには今も憧れているし」
猫又は保留したものの、他二人はアイツの仲間になるつもりはなしか。
悪くない。
絶大な力を持ったコイツらが一つになって一大勢力になってしまえば手がつけられなくなるが、別勢力になっているなら、つけいる隙は出来るだろう。
この場をどうやっておさめるかを考えていると、マリンはポツリ言った。
「いちおうキリュウを退かせられる手札はあるんだけどね」
「なに? なら、そいつを使ってアイツを止めてくれ。若がヤバイ!」
「でもそれでアイツの気を引いたら、それはそれでリスクなのよね。どう転ぶかわからないし。若様や騎士団と遊んでいるうちに、アタシらが消えるのが正解よね」
ま、それが正常で普通な考えだよな。
しかし、今それは求めていない。
正常でも普通でもない考えをしてくれ。
「ステラ、お前からも頼んでくれ」
「あ、はーい」
俺が呼ぶと、ステラはマリンの前に立って頭を下げる。
「マリンさん、お願いします。どうか若を助けてください!」
「アッフォオオオオオイ!!! いいわ、アタシがキリュウの好きなエサをくれてやるわ!」
「よしっ。これで、アイツをどうにか……なにっ!?」
ふたたびキリュウに目をやると、とんでもないことになっていた。
若を助けようと騎士団が立ち向かっていってるのだが、キリュウは軽く攻撃をいなして、逆に切り伏せていた。
ズビシャアッ バシュッ ズギャッ ザシャアアッ
「ぐわああっ」
「ぎゃあああっ」
「若、力及ばず………」
スルドイ斬撃とは裏腹に、キリュウは寂しそうな顔をしている。
「伯爵家騎士団も質が下がったのう。ま、チェコの時代は真竜を倒すためにえらい過酷な訓練を課しておったからな。なんとも寂しいことじゃ」
糞、本当になんて奴だ。
片手で大して力も入れずに、人を鎧ごと斬ってやがる。
力だけじゃ、あれは出来ない。
人間を超えたパワーだけじゃなく、とんでもない技量を持っているんだ!
「まずい! さがれアンダーソン!」
無謀にもアンダーソンまでが、若を助けるために斬りかかってゆく。
そして見えた。
彼女が無残にも両断される未来の光景が。
その瞬間、俺の体は勝手に動いていた。
ガキィィンンッ
「お?」
「やった?」
勝手に体が動いた末の不意打ち。
それは見事にキリュウの額に当たり、そこから血を流させた。
されどヤツの体はそうとう硬く、それはカスリ傷にすぎなかった。
そのカスリ傷も、たちまちに治ってゆく。
もっとも奴の注意が俺に向いたおかげで、アンダースンは助かったのだが。
「フム、人間だった頃なら手ひどくやられていたのう。お前さん、面白いわ。ちっとワシと遊んでくれ」
ガキィィン ガガッ ドシュウッ ブゥオン
剣を持つ手がムチのようにしなる。
それがとんでもない剣のスピードとパワーを生み出している!
受けるだけで腕の力は痺れてそがれ、命の綱は細ってゆく!
「くはっ……あが………」
ピタリ
キリュウはふいに剣を止めた。
その瞬間、ガクリと膝が落ちた。
されど腕だけは剣の構えを崩さない。
無駄だとしても、身に付いた防衛本能がそうさせる。
「ふーむ、あと三手で詰みやな。まぁ、なかなか楽しめた。お前さんは殺すのはやめておこう」
「ハァ……ハァ………ハァ………」
助かった………のか?
しかしキリュウはその剣を、足元の若の上で高々と振り上げた。
まさか!?
「待て………ヤメロ!」
「悪いのう、ワシは退屈しておるんじゃ。伯爵の坊を殺したら、どんな報復をしてくるか。そのくらいのささやかな楽しみしか期待出来ん。不器用ですまんの」
糞っ、本当にしょうもない理由で大事を起こしやがるな。
だけど体の動かない俺にはどうすることも…………
――「待ちなさい、キリュウ」
ふいに呼び止める声。
そこにはマリンがいた。その後ろに猫又、ウササ、ステラもいる。
「おおっ? お前さん、マリンジェゼータか。それにおやつとウササ。昔のままじゃのう。そうか、お前さんらも竜の血を浴びておったな」
「ええ、久しぶりね。あなたを退屈させない話ならあるわ。大陸の覇権国家ドルトラル帝国ってあったでしょう? 滅ぼされたわ。魔人王ザルバドネグザルって奴にね」
「ほほう、たしかに面白そうな話じゃの。ドルトラル帝国を滅ぼした魔人王か。そいつが今のトップかの」
「いいえ、そいつは倒されたわ。人間の英雄にね」
「なんじゃと?」
「名は剣王サクヤ。剣術スキルのみで数多の伝説的な偉業を成し遂げた英雄よ」




