群れの気配
石壁の門を抜けると、どこまでも伸びる街道が朝日に照らされていた。
白く輝く石畳の両脇には濃い緑の森が広がり、葉の先に滴る露がきらめいている。
鳥のさえずりと、木々を揺らす風。湿った土の匂いが鼻をくすぐり、都市の喧噪とはまるで違う静けさを運んできた。
「……いい道だな」
クロワンのエンジンをかけると、低い唸りが返る。
スロットルを軽くひねれば、心地よい振動が体を揺らし、ただの任務だというのに胸の奥で高揚が膨らんでいった。
◆
街から半刻ほど進んだ頃。
街道脇の草地に、灰色の毛が絡まった枝が落ちていた。
拾い上げると、掌にざらりとした感触と重みが残る。
「……灰狼の痕跡か」
地面には深い爪痕。土がえぐれた跡は、ここを縄張りにしている証拠だった。
「気を抜くなよ、相棒」
タンクを叩くと、「ブルル」と低い唸りが返る。
緊張が背筋を走った、その時――。
◆
「……やっぱり来てたか」
背後から声。振り返ると、槍を担いだカイルが立っていた。
その後ろには二人の仲間。
小柄で短弓を背負った青年は目つきが鋭く、素早い動きを得意としそうだ。
大柄な戦士は大剣を肩に担ぎ、寡黙に睨むその姿だけで迫力がある。
どちらも場数を踏んできた者の気配をまとっていた。
「足跡の新しさからして、群れはすぐ近くにいるな。……お前も気づいてたか」
「ああ」
短い応答。しかし一瞬、視線がぶつかる。
敵でも味方でもない――だが互いを試すような緊張がそこにあった。
「心配すんな。こっちが先に仕留めても文句は言うなよ」
カイルがにやりと笑う。
俺はクロワンのハンドルを握り直し、低く返す。
「……獲物を横取りされないようにな」
カイルの口元がさらに吊り上がる。
挑発に応じながらも、互いの力を確かめ合っている――そんな空気が走った。
◆
その直後。森の奥から低い唸り声。
風が止み、ざわざわと木々が揺れる。
黄の光が闇に点る。ひとつ、ふたつ、三つ……瞬く間に四つ、五つ。
灰色の影が木立の奥で波のようにうごめき、空気が凍りついた。
「群れか……!」
カイルが槍を構え、仲間も武器を抜く。
俺はクロワンのシートに跨り、タンクを二度叩いた。
ライトが点滅し、狼の瞳が一瞬だけ細くなる――合図は通じた。
「行くぞ、相棒」
エンジンが吠えるように轟く。
【燃料残量:86%】
十分だ。問題は、腕と度胸。
森の影から、灰色の獣たちが飛び出してきた――。




