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群れの気配

 石壁の門を抜けると、どこまでも伸びる街道が朝日に照らされていた。

 白く輝く石畳の両脇には濃い緑の森が広がり、葉の先に滴る露がきらめいている。

 鳥のさえずりと、木々を揺らす風。湿った土の匂いが鼻をくすぐり、都市の喧噪とはまるで違う静けさを運んできた。


「……いい道だな」


 クロワンのエンジンをかけると、低い唸りが返る。

 スロットルを軽くひねれば、心地よい振動が体を揺らし、ただの任務だというのに胸の奥で高揚が膨らんでいった。



 街から半刻ほど進んだ頃。

 街道脇の草地に、灰色の毛が絡まった枝が落ちていた。

 拾い上げると、掌にざらりとした感触と重みが残る。


「……灰狼の痕跡か」


 地面には深い爪痕。土がえぐれた跡は、ここを縄張りにしている証拠だった。


「気を抜くなよ、相棒」


 タンクを叩くと、「ブルル」と低い唸りが返る。

 緊張が背筋を走った、その時――。



「……やっぱり来てたか」


 背後から声。振り返ると、槍を担いだカイルが立っていた。

 その後ろには二人の仲間。

 小柄で短弓を背負った青年は目つきが鋭く、素早い動きを得意としそうだ。

 大柄な戦士は大剣を肩に担ぎ、寡黙に睨むその姿だけで迫力がある。

 どちらも場数を踏んできた者の気配をまとっていた。


「足跡の新しさからして、群れはすぐ近くにいるな。……お前も気づいてたか」


「ああ」


 短い応答。しかし一瞬、視線がぶつかる。

 敵でも味方でもない――だが互いを試すような緊張がそこにあった。


「心配すんな。こっちが先に仕留めても文句は言うなよ」


 カイルがにやりと笑う。

 俺はクロワンのハンドルを握り直し、低く返す。


「……獲物を横取りされないようにな」


 カイルの口元がさらに吊り上がる。

 挑発に応じながらも、互いの力を確かめ合っている――そんな空気が走った。



 その直後。森の奥から低い唸り声。

 風が止み、ざわざわと木々が揺れる。

 黄の光が闇に点る。ひとつ、ふたつ、三つ……瞬く間に四つ、五つ。

 灰色の影が木立の奥で波のようにうごめき、空気が凍りついた。


「群れか……!」


 カイルが槍を構え、仲間も武器を抜く。

 俺はクロワンのシートに跨り、タンクを二度叩いた。

 ライトが点滅し、狼の瞳が一瞬だけ細くなる――合図は通じた。


「行くぞ、相棒」


 エンジンが吠えるように轟く。


【燃料残量:86%】


 十分だ。問題は、腕と度胸。

 森の影から、灰色の獣たちが飛び出してきた――。

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