依頼の準備
翌朝、ギルドの扉を押し開けると、ざわめきと革と鉄の匂いが胸に流れ込んできた。
剣や槍を背負った冒険者たちが笑い合い、依頼掲示板の前では数人が真剣な顔で紙を睨んでいる。
鉄の鎧がぶつかる音、焚き火の煙の匂い――酒場の喧騒とは違う、朝の緊張感が漂っていた。
俺とクロワンに向けられる視線は、昨日より幾分か柔らかい。
警戒よりも珍しがる色が強い。
それでも、この街では目立つ存在であることに変わりはない。
「おはようございます、遼様」
カウンターの奥で、エリナが笑顔を見せる。
羊皮紙を数枚並べ、その中から一枚を慎重に選び出した。
「今日おすすめの依頼はこちらです。街道の北側で灰狼の足跡が多く見つかっているそうです。
依頼内容は“街道を一定区間巡回し、群れの有無を確認すること”。
危険を感じたら即座に撤退して報告してください、という任務です」
「偵察か。……無理はしなくていいやつだな」
「はい。遼様の状況を考えて選びました。力試しではなく、経験を積む依頼です」
依頼書を受け取った瞬間、UIが走る。
【巡回偵察 受諾】
・対象区間:北門〜石橋(往復)
・支援:携帯ホイッスル ×1
・備考:カイル隊 同行区域重複
そのとき、背後から声。
「へえ……お前もその依頼か」
振り返れば、カイルが立っていた。
昨日と同じ槍を背負い、仲間二人を連れている。
軽い調子に見える視線の奥に、競うような鋭さが光っていた。
「俺たちも同じ依頼だ。現場で顔を合わせるかもしれないな」
「……そうか」
俺が短く返すと、カイルはにやりと笑った。
「心配すんな。俺たちが先に仕留めても文句は言うなよ」
挑発とも冗談ともつかない言葉。
胸の奥がざわつく。だが俺は深呼吸し、クロワンのタンクを軽く叩いた。
「ブルル」と低い唸りが響き、落ち着きを取り戻す。
「……そっちこそ、噛まれて泣くなよ」
俺の言葉に、カイルは一瞬だけ目を細め、それから豪快に笑った。
「いいな。次が楽しみだ」
そう言い残し、仲間を連れて去っていく。
その背中を見送りながら、俺は剣の柄を無意識に握っていた。
ただの会話なのに、胸の鼓動が速い。
「獲物の取り合いはしてない。ただ俺たちの道を進むだけだ」
「行くぞ、相棒。街道だ」
クロワンのエンジンが「ブルル」と低く唸り、胸の奥に響いた。
二度目の街道任務が、始まろうとしていた。




