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街で出会った男

 翌日。

 街の広場に面した石畳の通りで、俺は腰の片手剣をゆっくり抜いた。

 刃渡り五十センチほどの短い剣。

 灰狼を退けたのは木剣だったが、そのときの衝撃と恐怖がまだ腕に焼き付いている。


「……そろそろ、こっちにも慣れておかないとな」


 人気の少ない一角で素振りを繰り返す。

 木剣よりも重い刃が空を裂くたび、心がざわついた。

 本物の刃を振るうという現実が、ずっしりと胸に圧し掛かる。



「おいおい、剣を振り回すなら場所を選べよ」


 不意に声が飛び、振り返る。

 革鎧をまとった青年が立っていた。

 背には槍、腰には短剣。茶色の髪を無造作に束ね、軽い笑みを浮かべている。

 年は俺より数歳上だろうか。落ち着きのある目つきが印象的だった。


「……悪い、気をつける」


「気にすんな。俺も昔はやったさ」


 青年は歩み寄り、俺の片手剣をじっと眺めた。


「いい剣だな。あの頑固な鍛冶屋の親父に作ってもらったか?」


「ああ」


「なるほどな。……で、灰狼を退けたって噂、本当か?」


 一瞬ためらったが、俺は頷いた。

 青年はにやりと笑い、手を差し出す。


「そうか。俺はカイル。よろしくな、新人」


「遼だ」


「覚えとくよ」


 握手はしなかったが、言葉だけで妙に力強い。



 カイルは軽く剣を抜き、構えを示した。


「灰狼に挑むなら覚えとけ。あいつらが突っ込んできたら恐れるな。剣は真正面じゃなく、斜めに払え。牙を受け止めたら、腕ごと持ってかれるぞ。

 狼の牙は受け止めると絡む。斜めに払えば、進路を逸らせる」


「……助かる」


「礼はいらねえ。俺も先輩に叩き込まれただけだ」


 そう言いつつも、カイルの視線は俺の背後――クロワンへ移っていた。

 鉄の塊を見つめる目には、興味と、どこか競争心のような色が宿っている。


 彼は耳を澄ませ、ぽつりと呟く。


「……回転の上がりが自然だな。魔石直噴か?」


「さあな」


 専門っぽいことを言っているが、核心からは微妙に外れている。

 世界の知見――だが、俺の相棒はそのどれにも当てはまらない。


「……面白え相棒を連れてるじゃねえか。遼、今後が楽しみだ」


 軽く手を挙げ、カイルは通りの人混みに紛れていった。



 残された俺は片手剣を握り直し、深く息を吸った。


「……真正面じゃなく、斜めに、か」


 クロワンのタンクを軽く叩くと、低い唸りが返ってくる。

 新しい武器、そして初めて受けた他人の助言。

 俺の戦い方は、少しずつだが形を成し始めていた。

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