街で出会った男
翌日。
街の広場に面した石畳の通りで、俺は腰の片手剣をゆっくり抜いた。
刃渡り五十センチほどの短い剣。
灰狼を退けたのは木剣だったが、そのときの衝撃と恐怖がまだ腕に焼き付いている。
「……そろそろ、こっちにも慣れておかないとな」
人気の少ない一角で素振りを繰り返す。
木剣よりも重い刃が空を裂くたび、心がざわついた。
本物の刃を振るうという現実が、ずっしりと胸に圧し掛かる。
◆
「おいおい、剣を振り回すなら場所を選べよ」
不意に声が飛び、振り返る。
革鎧をまとった青年が立っていた。
背には槍、腰には短剣。茶色の髪を無造作に束ね、軽い笑みを浮かべている。
年は俺より数歳上だろうか。落ち着きのある目つきが印象的だった。
「……悪い、気をつける」
「気にすんな。俺も昔はやったさ」
青年は歩み寄り、俺の片手剣をじっと眺めた。
「いい剣だな。あの頑固な鍛冶屋の親父に作ってもらったか?」
「ああ」
「なるほどな。……で、灰狼を退けたって噂、本当か?」
一瞬ためらったが、俺は頷いた。
青年はにやりと笑い、手を差し出す。
「そうか。俺はカイル。よろしくな、新人」
「遼だ」
「覚えとくよ」
握手はしなかったが、言葉だけで妙に力強い。
◆
カイルは軽く剣を抜き、構えを示した。
「灰狼に挑むなら覚えとけ。あいつらが突っ込んできたら恐れるな。剣は真正面じゃなく、斜めに払え。牙を受け止めたら、腕ごと持ってかれるぞ。
狼の牙は受け止めると絡む。斜めに払えば、進路を逸らせる」
「……助かる」
「礼はいらねえ。俺も先輩に叩き込まれただけだ」
そう言いつつも、カイルの視線は俺の背後――クロワンへ移っていた。
鉄の塊を見つめる目には、興味と、どこか競争心のような色が宿っている。
彼は耳を澄ませ、ぽつりと呟く。
「……回転の上がりが自然だな。魔石直噴か?」
「さあな」
専門っぽいことを言っているが、核心からは微妙に外れている。
世界の知見――だが、俺の相棒はそのどれにも当てはまらない。
「……面白え相棒を連れてるじゃねえか。遼、今後が楽しみだ」
軽く手を挙げ、カイルは通りの人混みに紛れていった。
◆
残された俺は片手剣を握り直し、深く息を吸った。
「……真正面じゃなく、斜めに、か」
クロワンのタンクを軽く叩くと、低い唸りが返ってくる。
新しい武器、そして初めて受けた他人の助言。
俺の戦い方は、少しずつだが形を成し始めていた。




