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冒険者としての一歩

 灰狼との小競り合いを終え、俺はクロワンのエンジンを抑えて街へ戻った。

 腰の片手剣はまだ鞘の中に眠ったまま。

 代わりに、木剣の表面には狼の毛と土がこびりつき、叩きつけた痕が残っている。

 その跡が「初めて本物の獣を退けた」という証であり、同時に「まだ倒し切れなかった」という現実を突きつけていた。


「……棒切れとは違う。確かに、戦える」


 だがすぐに、森で感じた複数の気配を思い出す。

 もし二体、三体と襲いかかってきていたら――この木剣ひとつで渡り合えたかどうか。

 背筋に冷たい汗が伝い、胸が重くなる。



 ギルドに戻ると、エリナがすぐに駆け寄ってきた。


「遼様! お帰りなさい。お怪我はありませんか?」


「かすり傷程度だ。……灰狼を一体確認した。群れの気配もあった」


 報告を聞いた瞬間、エリナの表情が引き締まる。


「やはり……。ここ数日、商人の護衛依頼も増えています。灰狼の群れが本格的に街道を荒らし始めているのかもしれません」


 彼女の声に、広間の冒険者たちがざわついた。


「灰狼だと? 一体でも厄介だ」

「群れなら、隊商ごと食い荒らされるぞ」


 重苦しい声が飛び交う中、ひとりの中堅冒険者が俺の腰の木剣をちらりと見て言った。


「……その木剣で灰狼を追い払ったのか?」


「ああ。浅い打撃だったが、確かに効いた」


「ほう……新人にしちゃ悪くねえ」


 その一言に、周囲の視線が変わるのを感じた。

 冷やかしや警戒ではなく、わずかながらも認める色――仲間として扱い始めた視線。

 カウンターの奥で、討伐・偵察の小札に俺の名が追記されるのが見えた。

 胸の奥に、少しだけ誇らしさが芽生えた。



 宿に戻り、窓から夜の街を眺める。

 石畳を照らすランタンの光が揺れ、露店からはまだ人々の笑い声や笛の音が聞こえる。

 昼間のざわめきとは違う、異国の夜の賑わい。


「……次は群れとの戦いになる」


 剣の柄を握り、深く息を吐いた。

 恐怖は消えてはいない。だが、それ以上に確かめたい気持ち――相棒と、自分の力がどこまで通じるのか。


「行こうぜ、相棒」


 馬小屋のクロワンに声をかけると、低いエンジン音が静かに返ってきた気がした。

 その響きに勇気をもらいながら、俺はゆっくりと目を閉じた。

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