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試しの一撃

 新しい剣を腰に下げ、クロワンに跨って街を出た。

 刃渡り五十センチほど――前腕くらいの長さの片手剣は、鞘に収めても収まりが良く、走っても邪魔にならない。

 棒切れとは違う、本物の重み。

 だが、刃に触れるたびに胸の奥がざわつき、まだ抜く覚悟が固まりきっていなかった。


「……まずは木剣でいく」


 腰の反対側に差した樫の木剣を叩く。


【注意:致死の一撃 予測(回避推奨)】


「……わかってる。今は木で行く」



 空は澄み渡り、街道は穏やかに伸びていた。

 だが、森の影に入った瞬間、乾いた低い唸り声が響いた。


「……来たか」


 茂みから飛び出したのは、牙を剥いた巨大な犬――〈灰狼〉。

 灰色の毛並みと鋭い眼光、牙ウサギとは比べものにならない迫力に背筋が粟立つ。


 クロワンを停め、木剣を抜いた。

 樫の質感が掌にずしりと馴染み、呼吸を整える。


 灰狼が地を蹴った。

 速い――牙ウサギの比ではない。


「……ッ!」


 牙が迫る瞬間、クロワンのエンジンが「ブルルッ!」と吠えるように響いた。

 その轟きに灰狼がわずかに怯み、動きが鈍る。


「今だ!」


 横に飛び込みざま、木剣を叩きつけた。


 ――ゴンッ!


 硬い毛皮に弾かれたが、灰狼の体がよろめき、唸り声を上げて距離を取る。



 息が荒く、手が震えていた。

 思わず、腰の片手剣に手がかかる。

 鞘から半ばまで引き抜いた刃が夕陽を反射し、冷たい光を放つ。

 頼もしさと同時に、鋭い重みが心を刺した。


 ――これを振れば、命を奪うことになる。


(……まだだ。抜くのは、決めた時だけ)


 歯を食いしばり、刃を鞘へ戻す。

 クロワンが「ブルル」と短く唸り、迷いを肯定するように響いた。



 灰狼はまだ唸っていたが、深手を恐れたのか森の影へ退いていった。

 辺りに静寂が戻る。


「……はぁ、はぁ……っ」


 肩で息をしながらも、胸の奥に奇妙な高揚感が広がっていく。

木剣でも、追い払えた。

 戦える――相棒となら。


「……やれる。これなら、やれる」


 クロワンのタンクを軽く叩くと、低い唸りが返ってきた。

 頼れる相棒と、二本の武器。

 冒険者としての一歩を、確かに踏み出せた気がした。

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