試しの一撃
新しい剣を腰に下げ、クロワンに跨って街を出た。
刃渡り五十センチほど――前腕くらいの長さの片手剣は、鞘に収めても収まりが良く、走っても邪魔にならない。
棒切れとは違う、本物の重み。
だが、刃に触れるたびに胸の奥がざわつき、まだ抜く覚悟が固まりきっていなかった。
「……まずは木剣でいく」
腰の反対側に差した樫の木剣を叩く。
【注意:致死の一撃 予測(回避推奨)】
「……わかってる。今は木で行く」
◆
空は澄み渡り、街道は穏やかに伸びていた。
だが、森の影に入った瞬間、乾いた低い唸り声が響いた。
「……来たか」
茂みから飛び出したのは、牙を剥いた巨大な犬――〈灰狼〉。
灰色の毛並みと鋭い眼光、牙ウサギとは比べものにならない迫力に背筋が粟立つ。
クロワンを停め、木剣を抜いた。
樫の質感が掌にずしりと馴染み、呼吸を整える。
灰狼が地を蹴った。
速い――牙ウサギの比ではない。
「……ッ!」
牙が迫る瞬間、クロワンのエンジンが「ブルルッ!」と吠えるように響いた。
その轟きに灰狼がわずかに怯み、動きが鈍る。
「今だ!」
横に飛び込みざま、木剣を叩きつけた。
――ゴンッ!
硬い毛皮に弾かれたが、灰狼の体がよろめき、唸り声を上げて距離を取る。
◆
息が荒く、手が震えていた。
思わず、腰の片手剣に手がかかる。
鞘から半ばまで引き抜いた刃が夕陽を反射し、冷たい光を放つ。
頼もしさと同時に、鋭い重みが心を刺した。
――これを振れば、命を奪うことになる。
(……まだだ。抜くのは、決めた時だけ)
歯を食いしばり、刃を鞘へ戻す。
クロワンが「ブルル」と短く唸り、迷いを肯定するように響いた。
◆
灰狼はまだ唸っていたが、深手を恐れたのか森の影へ退いていった。
辺りに静寂が戻る。
「……はぁ、はぁ……っ」
肩で息をしながらも、胸の奥に奇妙な高揚感が広がっていく。
木剣でも、追い払えた。
戦える――相棒となら。
「……やれる。これなら、やれる」
クロワンのタンクを軽く叩くと、低い唸りが返ってきた。
頼れる相棒と、二本の武器。
冒険者としての一歩を、確かに踏み出せた気がした。




