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鍛冶屋の店先で

 翌朝、ギルドの通りを抜け、街角の一角にある鍛冶屋へ向かった。

 瓦屋根の下からは絶え間なく鉄槌の音が響き、火花の赤が覗いている。

 入り口には剣や槍、斧が無造作に並べられ、油と鉄の匂いが鼻を刺した。


「……本格的だな」


 扉を押し開けると、熱気と共に低い声が飛んできた。


「いらっしゃい。……見ねえ顔だな」


 カウンター越しに現れたのは、髭をたくわえた大柄の男。

 腕は丸太のように太く、煤にまみれた顔に鋭い目が光っている。

 威圧感に身が固まったが、口調は意外と穏やかだった。


「武器を探してるのか?」


「ああ。……できれば、扱いやすいものを」


 男はじろりと俺を見て、手元の作業を止めた。


「冒険者か。それにしては手が綺麗だな。まだ血は少ししか浴びちゃいねえか」


 図星。言葉が喉につかえる。

 そんな俺を見て、男は鼻を鳴らした。


「まあいい。最初の一本ってやつだな。なら、軽くて丈夫なもんがいいだろう」


 棚からいくつかの武器を取り出し、カウンターに並べていく。


「片手剣、槍、短剣、それから棍棒。お前の体格ならどれも持てる。だが、使いこなせるかは別だ」



 俺は一本ずつ手に取ってみた。

 片手剣は扱いやすいが、鞘を背負うとクロワンに跨がるとき邪魔になりそうだ。

 槍は間合いが広くて頼もしいが、全長が長すぎて収納に難がある。

 短剣は軽くて便利だが、牙ウサギ以上の相手には力不足を感じる。

 棍棒は威力はあるが、ただの棒に毛が生えたようなもので、先が見えない。


「……悩んでるな」


 鍛冶屋の男が苦笑する。


「お前の顔には『ただの武器じゃ合わねえ』って書いてある。……相棒がいるんだろう?」


 俺は思わず振り返り、店先に停めたクロワンを見た。

 太陽を反射するタンクが光り、静かにそこに佇んでいる。


「……そうだな。俺は、こいつと一緒に戦う」


 片手で操作でき、騎乗のまま振れること。

 収納にすっきり収まること。

 相棒との連携に噛み合う武器が欲しかった。


「だったらこれだ」


 鍛冶屋は短めの片手剣を差し出した。

 刃渡りは五十センチほど、前腕くらいの長さ。

 腰にも背中にもつけられ、抜きやすい。

 手にした瞬間、しっくりと馴染んだ。

 棒切れとは違う、本物の重み。


 だが、刃の冷たい輝きを見た途端、胸の奥がざわめいた。

 ――これで、本当に命を斬るのか。



 俺の表情を見たのだろう。鍛冶屋はふっと笑い、工房の隅からもう一本持ってきた。

 樫の木を削り出した木剣。柄には鉄の輪が巻かれ、意外にずっしりと重い。


「やっぱりな。お前、刃を抜く顔じゃねえ。これは練習用の木剣だ。本物と重さを揃えてある。まずは“刃筋”を体に叩き込め」


「……段階を踏めってことか」


「ああ。まずは相手に“当てる”練習だ。鉄はその先だ。刃は、決めた時まで寝かせとけ」


 その言葉は厳しくも、不思議と温かかった。



 片手剣と木剣、二本を受け取る。

 木剣を握ると、手の中にしっくりと収まった。

 これなら、まだ命を奪うことに慣れていない俺でも戦える。


「ありがとう。助かるよ」


「礼は要らん。そういえば名乗ってなかったな。俺はガルドだ」


「……遼だ」


「その鉄の馬を見りゃ、並みの旅じゃねえのはわかる。……遼、生きて帰ってこい」


 工房を出ると、クロワンが低く「ブルル」と唸った。

 まるで「よかったな」と言っているように聞こえる。


「――ああ。まずは木剣でいく。刃を抜くのは、決めた時だけだ」


 自分に言い聞かせるように呟き、腰に二本の武器を差した。

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