鍛冶屋の店先で
翌朝、ギルドの通りを抜け、街角の一角にある鍛冶屋へ向かった。
瓦屋根の下からは絶え間なく鉄槌の音が響き、火花の赤が覗いている。
入り口には剣や槍、斧が無造作に並べられ、油と鉄の匂いが鼻を刺した。
「……本格的だな」
扉を押し開けると、熱気と共に低い声が飛んできた。
「いらっしゃい。……見ねえ顔だな」
カウンター越しに現れたのは、髭をたくわえた大柄の男。
腕は丸太のように太く、煤にまみれた顔に鋭い目が光っている。
威圧感に身が固まったが、口調は意外と穏やかだった。
「武器を探してるのか?」
「ああ。……できれば、扱いやすいものを」
男はじろりと俺を見て、手元の作業を止めた。
「冒険者か。それにしては手が綺麗だな。まだ血は少ししか浴びちゃいねえか」
図星。言葉が喉につかえる。
そんな俺を見て、男は鼻を鳴らした。
「まあいい。最初の一本ってやつだな。なら、軽くて丈夫なもんがいいだろう」
棚からいくつかの武器を取り出し、カウンターに並べていく。
「片手剣、槍、短剣、それから棍棒。お前の体格ならどれも持てる。だが、使いこなせるかは別だ」
◆
俺は一本ずつ手に取ってみた。
片手剣は扱いやすいが、鞘を背負うとクロワンに跨がるとき邪魔になりそうだ。
槍は間合いが広くて頼もしいが、全長が長すぎて収納に難がある。
短剣は軽くて便利だが、牙ウサギ以上の相手には力不足を感じる。
棍棒は威力はあるが、ただの棒に毛が生えたようなもので、先が見えない。
「……悩んでるな」
鍛冶屋の男が苦笑する。
「お前の顔には『ただの武器じゃ合わねえ』って書いてある。……相棒がいるんだろう?」
俺は思わず振り返り、店先に停めたクロワンを見た。
太陽を反射するタンクが光り、静かにそこに佇んでいる。
「……そうだな。俺は、こいつと一緒に戦う」
片手で操作でき、騎乗のまま振れること。
収納にすっきり収まること。
相棒との連携に噛み合う武器が欲しかった。
「だったらこれだ」
鍛冶屋は短めの片手剣を差し出した。
刃渡りは五十センチほど、前腕くらいの長さ。
腰にも背中にもつけられ、抜きやすい。
手にした瞬間、しっくりと馴染んだ。
棒切れとは違う、本物の重み。
だが、刃の冷たい輝きを見た途端、胸の奥がざわめいた。
――これで、本当に命を斬るのか。
◆
俺の表情を見たのだろう。鍛冶屋はふっと笑い、工房の隅からもう一本持ってきた。
樫の木を削り出した木剣。柄には鉄の輪が巻かれ、意外にずっしりと重い。
「やっぱりな。お前、刃を抜く顔じゃねえ。これは練習用の木剣だ。本物と重さを揃えてある。まずは“刃筋”を体に叩き込め」
「……段階を踏めってことか」
「ああ。まずは相手に“当てる”練習だ。鉄はその先だ。刃は、決めた時まで寝かせとけ」
その言葉は厳しくも、不思議と温かかった。
◆
片手剣と木剣、二本を受け取る。
木剣を握ると、手の中にしっくりと収まった。
これなら、まだ命を奪うことに慣れていない俺でも戦える。
「ありがとう。助かるよ」
「礼は要らん。そういえば名乗ってなかったな。俺はガルドだ」
「……遼だ」
「その鉄の馬を見りゃ、並みの旅じゃねえのはわかる。……遼、生きて帰ってこい」
工房を出ると、クロワンが低く「ブルル」と唸った。
まるで「よかったな」と言っているように聞こえる。
「――ああ。まずは木剣でいく。刃を抜くのは、決めた時だけだ」
自分に言い聞かせるように呟き、腰に二本の武器を差した。




