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灰狼の報告

 夕暮れの街道を戻り、クロワンをギルド前に停める。

 まだ胸の奥にざわつきが残っていた。

 棒切れを握って灰狼と対峙したときの感触――あれではとても太刀打ちできない。


「……報告だけはきちんとしないとな」


 タンクを叩くと、低く「ブルル」と返事があった。

 その声に背中を押され、俺はギルドの扉を開いた。



「お帰りなさい、遼様!」


 カウンターで待っていたエリナが顔を上げる。

 俺は灰狼を確認した場所や数、群れの気配があったことを簡潔に伝えた。


「……二体ですか。群れている可能性も高いですね。

 街道を通る商人や旅人にとっては大きな脅威になります。

 貴重な情報です、ありがとうございます」


 彼女は真剣に記録を取り、やがて小さな革袋を差し出した。


「こちらが報酬の銅貨十枚です。それと――」


【偵察報告 受理】

・評価:有用(群れの兆候)

・追加支給:携帯ホイッスル(群れ牽制)


「護身用の携帯ホイッスル。狼は高音を嫌います。いざという時に」


「助かる」


 硬貨の重みは軽い。

 だが、情報を持ち帰ることも冒険者の大事な仕事だと改めて実感する。



 そのとき、背後から声が飛んだ。


「灰狼に近づいて戻ってきた? それで終わりかよ」

「やっぱり鉄の馬に守られてるだけなんだろ」


 昨日の連中だ。

 だがエリナがすぐに顔を上げた。


「違います。確認して戻るのが今回の任務です。

 無謀に戦って命を落とすことより、正確な情報を持ち帰るほうがよほど価値があるんですよ」


 彼女の強い声に、広間の空気が変わる。

 嘲笑は消え、代わりに静かな視線が集まった。

 敵意よりも、興味と評価の混じった眼差しだった。


「……ありがとな」


 俺は小声で礼を言い、クロワンのいる外へ出た。



 タンクを撫でると、低い唸りが返る。

 あの灰狼の鋭い牙を思い出す。


「……棒切れじゃ、さすがに無理だ」


 次に挑むためには、まともな武器が要る。

 そうでなければ、いつか命を落とす。


「武器や整備はガルドさんの工房が評判ですよ。修理も早いです」


 エリナの言葉を背に受け、胸の奥に決意が芽生え始めていた。

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