灰狼の報告
夕暮れの街道を戻り、クロワンをギルド前に停める。
まだ胸の奥にざわつきが残っていた。
棒切れを握って灰狼と対峙したときの感触――あれではとても太刀打ちできない。
「……報告だけはきちんとしないとな」
タンクを叩くと、低く「ブルル」と返事があった。
その声に背中を押され、俺はギルドの扉を開いた。
◆
「お帰りなさい、遼様!」
カウンターで待っていたエリナが顔を上げる。
俺は灰狼を確認した場所や数、群れの気配があったことを簡潔に伝えた。
「……二体ですか。群れている可能性も高いですね。
街道を通る商人や旅人にとっては大きな脅威になります。
貴重な情報です、ありがとうございます」
彼女は真剣に記録を取り、やがて小さな革袋を差し出した。
「こちらが報酬の銅貨十枚です。それと――」
【偵察報告 受理】
・評価:有用(群れの兆候)
・追加支給:携帯ホイッスル(群れ牽制)
「護身用の携帯ホイッスル。狼は高音を嫌います。いざという時に」
「助かる」
硬貨の重みは軽い。
だが、情報を持ち帰ることも冒険者の大事な仕事だと改めて実感する。
◆
そのとき、背後から声が飛んだ。
「灰狼に近づいて戻ってきた? それで終わりかよ」
「やっぱり鉄の馬に守られてるだけなんだろ」
昨日の連中だ。
だがエリナがすぐに顔を上げた。
「違います。確認して戻るのが今回の任務です。
無謀に戦って命を落とすことより、正確な情報を持ち帰るほうがよほど価値があるんですよ」
彼女の強い声に、広間の空気が変わる。
嘲笑は消え、代わりに静かな視線が集まった。
敵意よりも、興味と評価の混じった眼差しだった。
「……ありがとな」
俺は小声で礼を言い、クロワンのいる外へ出た。
◆
タンクを撫でると、低い唸りが返る。
あの灰狼の鋭い牙を思い出す。
「……棒切れじゃ、さすがに無理だ」
次に挑むためには、まともな武器が要る。
そうでなければ、いつか命を落とす。
「武器や整備はガルドさんの工房が評判ですよ。修理も早いです」
エリナの言葉を背に受け、胸の奥に決意が芽生え始めていた。




