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灰狼との遭遇

 街を抜け、街道沿いをクロワンで進む。

 陽光に照らされた草原が広がり、遠くには森の影が横たわっていた。

 空は高く澄み、風は乾いて心地いい。


「……いい道だな。ツーリング日和だ」


 思わず独り言が漏れる。

 タンクを叩けば、軽快なアイドリングが返ってくる。


【燃料残量:87%/チェーン潤滑:推奨(−5%効率)】


「……市場で火蜥蜴の脂をチェーンオイル代わりに買っておくか」


 だが今日は観光ではない。灰狼の偵察――牙ウサギより一段上の相手だ。



 しばらく進むと、風に混じって低い唸り声が聞こえた。

 クロワンのエンジンが一瞬、不安げに揺れる。

 街道脇の林から灰色の影が姿を現した。


「……灰狼」


 牙ウサギの倍はある体格、鋭い眼光。

 灰色の毛並みが逆立ち、地を蹴る足取りはしなやかで力強い。


 一体……いや、二体。林の奥からもう一体。

 噂通り、群れる習性か。


「ブルルッ……!」


 クロワンが低く唸り、前照灯が一瞬強く輝いた。

 狼たちがそれを見て足を止める。互いに牽制しているようだ。


 腰の棒に手を当てる。だが、心のどこかで分かっていた。

 ――この相手に棒切れ一本で勝負を挑んだら、命はない。


 狼の一体が低く身をかがめ、地を蹴る。

 突進の気配に俺はハンドルを握り、クロワンを操った。


「相棒、頼む!」


「ブルオオオッ!」


 轟音が林を震わせ、クロワンが急加速する。

 灰狼の突進を紙一重でかわし、砂煙を巻き上げながら街道を走り抜けた。


 振り返ると、狼たちは林の縁に立ち、追っては来ない。

 クロワンの咆哮に怯んだのか、それとも群れから離れない習性か。


 胸を撫で下ろし、速度を落とす。

 心臓の鼓動が耳に響いて仕方がなかった。


「……確認はできた。十分だな」


 クロワンのエンジンが低く落ち着いた音を返す。


「……棒きれじゃ、いずれ通用しなくなるな」


 自分の弱さを噛みしめるように呟き、街へ戻る決意を固めた。

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