灰狼との遭遇
街を抜け、街道沿いをクロワンで進む。
陽光に照らされた草原が広がり、遠くには森の影が横たわっていた。
空は高く澄み、風は乾いて心地いい。
「……いい道だな。ツーリング日和だ」
思わず独り言が漏れる。
タンクを叩けば、軽快なアイドリングが返ってくる。
【燃料残量:87%/チェーン潤滑:推奨(−5%効率)】
「……市場で火蜥蜴の脂をチェーンオイル代わりに買っておくか」
だが今日は観光ではない。灰狼の偵察――牙ウサギより一段上の相手だ。
◆
しばらく進むと、風に混じって低い唸り声が聞こえた。
クロワンのエンジンが一瞬、不安げに揺れる。
街道脇の林から灰色の影が姿を現した。
「……灰狼」
牙ウサギの倍はある体格、鋭い眼光。
灰色の毛並みが逆立ち、地を蹴る足取りはしなやかで力強い。
一体……いや、二体。林の奥からもう一体。
噂通り、群れる習性か。
「ブルルッ……!」
クロワンが低く唸り、前照灯が一瞬強く輝いた。
狼たちがそれを見て足を止める。互いに牽制しているようだ。
腰の棒に手を当てる。だが、心のどこかで分かっていた。
――この相手に棒切れ一本で勝負を挑んだら、命はない。
狼の一体が低く身をかがめ、地を蹴る。
突進の気配に俺はハンドルを握り、クロワンを操った。
「相棒、頼む!」
「ブルオオオッ!」
轟音が林を震わせ、クロワンが急加速する。
灰狼の突進を紙一重でかわし、砂煙を巻き上げながら街道を走り抜けた。
振り返ると、狼たちは林の縁に立ち、追っては来ない。
クロワンの咆哮に怯んだのか、それとも群れから離れない習性か。
胸を撫で下ろし、速度を落とす。
心臓の鼓動が耳に響いて仕方がなかった。
「……確認はできた。十分だな」
クロワンのエンジンが低く落ち着いた音を返す。
「……棒きれじゃ、いずれ通用しなくなるな」
自分の弱さを噛みしめるように呟き、街へ戻る決意を固めた。




