表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

木剣の限界

 森沿いの街道は昼でも薄暗く、風が木々を揺らすたびに影がざわめいた。

 クロワンを押して歩く俺の耳に、低く湿った唸りが混じる。


「……来たな」


 灰色の影が木立からにじみ出る。

 ――灰狼。鋭い牙と爛々と光る目。

 一体、二体……やがて五体が弧を描くように俺を取り囲んだ。


 腰の剣に手をかけかけて、深呼吸する。

 カイルの言葉と、自分の誓いが胸に重なる。


(今日はまだ木剣でいく。刃を抜くのは、決めた時だけだ)


 俺は鞘ではなく、背に差した樫の木剣を引き抜いた。


【危険度:高/包囲率:62%】

→推奨行動:離脱


 一体目が飛びかかる。

 クロワンの横に身を寄せ、木剣を斜めに振り抜く。

 鋭い衝撃が腕に走り、灰狼が呻き声をあげて退く。


「……効く。だが浅い!」


 二体目が突っ込んできた。

 クロワンのエンジンを吹かすと「ブルルルッ!」と轟音が森を震わせ、狼が怯んで足を止める。

 その隙に脚を狙って叩きつけ、横に弾き飛ばした。


 だが残りが包囲を狭め、牙を剥いて迫る。

 木剣の一撃では押し切れない。


 恐怖に背筋が凍り、思わず腰の片手剣に手が伸びる。

(……抜けば、確実に斬れる。だが――)


 震える指を抑え込み、手を離した。

 クロワンの後輪が土を滑り、石を派手に弾き飛ばす。

 飛び散った砂利が灰狼の顔をかすめ、群れが一瞬怯む。


「今だ、退くぞ!」


 スロットルを開き、クロワンと共に群れを振り切った。

 縄張りの境界を越えると、狼たちは追ってこなかった。


 胸が上下し、手は汗に濡れていた。

 木剣では倒しきれない――その事実が骨身に沁みた。



 街へ戻り、ギルドで報告を済ませた帰り。

 ちょうど荷を下ろしていた鍛冶屋の親父が俺に目を留めた。


「おい、その木剣……叩き痕がひどいな」


「ああ。灰狼を何体か退けたが、仕留めきれなかった」


 俺の答えに、親父は鼻を鳴らした。


「そりゃそうだ。木剣はあくまで段階を踏むためのものだ。……今度工房に来い。刃を落とした短剣で、次の稽古をつけてやる」


 その声音は無骨だが、職人の責任感がにじんでいた。

 “使い手を見届ける”覚悟のように。


「わかった。世話になる、ガルド」


 クロワンのタンクを叩くと、「ブルル」と低い唸りが返る。

 木剣の限界を知り、次の段階を示された。

 少しずつ、この異世界での俺の戦い方が形になり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ