帰る場所
三柱鳥居の一件が「収まった」ことになってから、ひと月が過ぎた。可児署の雨月雅之は、正式な捜査記録には「地質調査に伴う埋設物発見、関係者への返還処理済み」としか書かなかった。それ以上のことを書けば、上からまた電話が来ることが分かっていたからだ。
その頃、東京から一台の車が可児に入ってきた。ジャーナリストの山田貴明である。
「木下さん、突然お邪魔してすみません。動物病院の院長さんですよね」
木下千恵は、診察の合間に応対に出た顔に、少し疲れが見えた。
「もう記者の方が来るとは思っていませんでした。誰から聞いたんです?」
「実は……ロドリゲス斎藤さんのチャンネルで、視聴者から“可児で歴史的な発見があったらしい”という投稿があって」
千恵の表情が固まる。ネットの情報はどこから漏れるか分からない。バイヤー兼YouTuberのロドリゲス斎藤は悪意なく面白い話題を追いかけるだけの男だが、悪意のなさが一番厄介だということも、この一件で誰もが学んでいた。
同じ日、根古親司の家には、また来客があった。今度はアメリカ人ではなく、スーツ姿の日本人――CIAのロバート・スタークに同行してきたという、聞いたことのない部署の男だった。
「ヘイブンス氏の独断行動について、こちらでも把握しております。今回の件、記録はすべて破棄されたと聞いていますが」
「破棄というより、返還だ」根古は静かに言った。「あれは誰かの持ち物であって、誰の資料でもない」
スタークの部下は、笑うでもなく頷くでもなく、ただメモを取ってから帰っていった。
夜、根古の元にヘイブンスから短いメールが届いた。
『山田という記者が動いている。悪い男じゃないが、慎重に。もう一つ――イエンガーが、また“何かの匂いがする”と言っていたぞ』
根古はヤマトを膝に乗せながら、画面を見つめた。
「今度は何の匂いだろうな、お前は分かるか」
ヤマトは答える代わりに、大きく欠伸をした。外では、遠くから祭囃子の練習の音が聞こえていた。可児の夏はまだ、何も終わっていなかった。




