「招かれざる客」
根古親司が縁側で茶を啜っていると、黒猫のヤマトが珍しく庭の隅から動かず、じっと生垣の向こうを見つめていた。
「珍しいな、お前がそんなに警戒するのは」
そう呟いた矢先、門の前に見慣れぬ黒いSUVが二台停まった。
降りてきたのは、大学時代の後輩――スティーブ・ヘイブンスだった。
がっしりとした体格の護衛二人、カルロスとホセを引き連れている。
「シンジ、久しぶりだな」
「ステーブ……お前がわざわざ日本に来るとは、ただの同窓会じゃないな」
ヘイブンスは苦笑いを浮かべ、縁側に腰を下ろした。
「イエンガーの店に寄った。あの男、また“事故の匂いがする”と言っていた。お前たちが探っている三柱鳥居の件、少し危ういぞ」
根古の眉が動く。カレー店主イエンガー・ムハンマドが温泉で口にする予知の言葉は、これまで幾度も的中してきた。
同じ頃、可児署では雨月雅之警部補が一枚の報告書を睨んでいた。木嶋神社系の三柱鳥居の資料を借りに来たという二人の外国人――マーク・コーエンとベン・ダヴィドの来訪記録である。
「観光客が神社の由緒書きをそこまで熱心に読むか?」
平圭巡査長が横から覗き込む。
「しかも、大使館の車で来てるんですよ。イスラエル大使館の一石誠二という肩書きの名刺、置いていきました」
雨月は無言でそれを引き出しにしまった。
一方、歴史学者の土志田沙彩と考古学者の坂東直樹は、地質学者の小此木永周から連絡を受けていた。三柱鳥居の真下の地層に、人工的に掘られた空洞の反応があるという。
「秦氏の渡来伝承と、景教――ネストリウス派キリスト教との関連は、昔から囁かれてきました。でも、まさか“命のビザ”の話とつながるなんて」
土志田の声は、興奮と戸惑いが半分ずつだった。
杉原千畝が発給した通過ビザによって助けられたユダヤ人たちの一部が、戦後ひそかに日本に留まり、この山中に身を寄せていたという仮説――それが、三柱鳥居が示す「第三の地点」の正体ではないか、というのだ。
その夜、ドローンを操っていた私立探偵・江戸川勉と、助手の安藤修は、林道の奥で妙な人影を捉えた。
「安藤さん、あれ……戦闘訓練を受けた動きですよ」
モニターに映るのは、黒い装備の男女二人組――ジェイコブ・ラファエルとアンナ・レヴィだった。江戸川たちの車を尾行するように、距離を保ちながら林道を進んでくる。
「探偵ごっこにしちゃ、相手が大きすぎる気がしますね」
安藤がハンドルを握る手に、汗が滲んだ。
多治見署長の小倉裕司は、県警から出向中の警視正・安田達郎から一本の電話を受けていた。
「小倉、可児の件、これ以上大きくするなよ。外務省から“静かに処理してくれ”と言われている」
「静かに、と言われましても……大使館関係者と、正体不明の武装した人間が、うちの管内をうろついているんですがね」
電話の向こうで、安田が短く息を吐いた。
「だからこそだ。頼む」




