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可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
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「三光地所開発」

 翌朝、由紀子が「三光地所開発」について調べた結果を持って、根古の事務所を訪れた。

「登記上は、五年前に設立された不動産会社です」由紀子はファイルを広げた。

「岐阜市内に小さな事務所を構えていますが、実態はほとんどありません。従業員も、登記上は二名だけです」 「ペーパーカンパニーか」 「その可能性が高いです」由紀子は言った。

「代表取締役の名前が、気になります」


 根古は書類を覗き込んだ。  代表取締役の欄に、「安藤浩一」とあった。


「安藤……」根古は呟いた。「節子さんの、実家の姓だ」 「調べたところ、安藤浩一という人物は、節子さんの又甥にあたるようです」由紀子は言った。

「安藤家の傍系の人間で、義雄さんのネットワークとは、直接の関係はないと思われていましたが」


「なぜ、その人物が、木下家の旧地を調べている」 「それが分かりません」由紀子は言った。

「ただ、ドローンの操縦者の証言では、複数の土地を調べているとのことでした。岩瀬さんの畑以外にも、対象地があるはずです」


 根古は、地図を広げた。 「木下邸の焼け跡周辺の土地を、洗い出そう」根古は言った。「三光地所開発が、他にどこを調べているか、分かれば、何を探しているかのヒントになる」


   *


 雨月の協力で、市の都市計画課から、最近の土地取引や測量申請の記録を取り寄せた。

 三光地所開発の名前で、過去半年の間に、五件の土地に関する調査申請が出されていた。

いずれも、木曽川沿いの、木下家や安藤家に縁のある土地だった。


「共通点がある」根古は地図に印をつけながら言った。

「全部、昭和二十年代から三十年代にかけて、木下家か安藤家が所有していた土地だ」 「何を探しているんでしょうか」由紀子が言った。

「清一さんに、聞いてみる価値がある」根古は言った。

「あの時代の、木下家の土地のことなら、清一さんが一番詳しいはずだ」


   *


 施設を訪れると、清一は今日も、比較的落ち着いた様子だった。

「安藤浩一?」清一は、根古の説明を聞いて、眉をひそめた。

「聞いたことのない名前だ。節子の実家は、儂が知る限り、もう跡取りが絶えているはずだが」 「浩一さんは、傍系の親戚のようです」根古は言った。

「三光地所開発という会社を使って、木下家の旧地を調べています」 「何のために」 「それが分からないんです」根古は言った。

「清一さん、当時の木下家の土地に、何か特別なものが埋まっているという話を、聞いたことはありませんか」


 清一は、しばらく考え込んだ。 「一つだけ、思い出すことがある」清一は言った。

「戦時中、木下家は、当主の指示で、いくつかの場所に、財産を隠していた」 「財産?」 「金塊や、美術品の類だ」清一は言った。

「終戦の混乱期に、財産を守るために、複数の場所に分散して埋めた、と聞いたことがある。儂が生きていた頃、父から聞かされた話だ」 「その場所を、覚えていますか」 「正確な場所までは分からない」清一は言った。

「ただ、地図を見れば、思い出せることがあるかもしれない」


 根古は、都市計画課から取り寄せた地図を、清一に見せた。

 清一は、老眼鏡をかけ、じっと地図を見つめた。


「ここだ」清一は、地図の一点を指さした。

「この、木曽川沿いの土地。ここに、蔵があった。父が、大事なものを保管していた蔵だ」  根古は、地図を確認した。

 三光地所開発が調査申請を出した五件の土地のうち、一件と、ほぼ一致していた。


「もう一箇所」清一は続けた。「木下邸の裏山にも、隠し場所があったはずだ。子供の頃、父に連れられて、一度だけ見たことがある」


 根古と由紀子は、顔を見合わせた。


「もし、本当に財産が埋まっているなら」由紀子は言った。

「安藤浩一は、それを狙って動いているのかもしれません」 「木下家の財産を、なぜ安藤家の人間が知っている」根古は言った。

「義雄さんの代のネットワークを通じて、情報が伝わっていた可能性があります」由紀子は言った。

「あるいは、節子さんか、清一さんの周辺から、情報が漏れたのかもしれません」


 清一が、静かに口を開いた。 「儂は、誰にも話していない」清一は言った。

「だが……義雄には、昔、一度だけ、この話をしたことがある」 「いつですか」 「昭和五十年代、儂がまだ木村誠一として生きる前、義雄と一度だけ接触したことがあった」清一は言った。

「儂は、生きていることを知られたくなくて、義雄に取引を持ちかけた。『黙っていてくれるなら、木下家の隠し財産の場所を教える』と」


 根古は、驚いた。 「義雄は、それを?」 「知っている」清一は頷いた。「儂が話した」


 根古は、地図をもう一度見つめた。  

義雄のネットワークを通じて、その情報が、安藤家の傍系にまで伝わった可能性がある。


「これは、単なる好奇心の問題じゃない」根古は言った。「木下家の財産を巡る、新しい欲が動いている」


 由紀子が、真剣な表情で言った。 「安藤浩一が、その財産を狙っているとしたら」由紀子は言った。「私たちより先に、何かを見つけてしまうかもしれません」


 根古は立ち上がった。 「裏山の隠し場所を、確認しに行こう」根古は言った。「先を越される前に」



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