「見上げる者、見守る者」
石組みの発見から一月が過ぎた。詳細な調査には、まだ長い時間がかかるとされ、三柱鳥居の完全な謎解きは、専門家たちの今後の研究に委ねられることになった。
山本彩織は、可児署の屋上で、一人、ドローンの点検をしていた。
「山本さん、また飛ばすんですか」
平圭が声をかける。
「いや、今日は点検だけ。……でも、こうしてこの機材を眺めてると、思うんですよね。わたしたちが見つけられるものって、結局、ほんの一部でしかないんだなって」
「一部、ですか」
「石組みの正体も、まだはっきりしない。あの鳥居が、本当は何のために、誰が建てたのかも、結局分からずじまい。ドローンで空から見ても、答えの全部は見えてこない」
平は、少し考えてから答えた。
「でも、山田さんや佐藤さんが可児で見てきたものも、結局そうだったんじゃないですか。証拠が全部揃うことなんて、なくて。それでも、大事なものは、ちゃんと残ってきた」
「……平さんも、成長しましたね」
「山本さんの受け売りですよ」
二人は笑い合った。
その夕方、山本は、根古親司の家を訪れた。縁側では、いつも通り、黒猫のヤマトが陽だまりの中で丸くなっている。
「根古さん、結局、まだ何も、完全には分かりませんでした」
「それでいいんだよ、山本くん」
根古は、湯呑みを差し出しながら、穏やかに言った。
「あんたが見つけた石組みも、名もなき祠も、全部、この土地の記憶の一部だ。すべてを解き明かすことが、目的なんじゃない。そういう記憶があるということを、ちゃんと見つけて、大切に扱う。それだけで、十分な仕事をしたと、わしは思うよ」
「根古さんに、そう言ってもらえると、安心します」
「あんたのその、空から俯瞰する目は、これからも大事にするといい。地上を歩いているだけの人間には、見えないものを、見せてくれるんだからな」
山本は、深く頭を下げた。縁側から見える山々の稜線が、夕日に染まり始めていた。三柱鳥居も、位山も、名もなき祠も、みな、あの稜線のどこかに、静かに抱かれている。
完全な答えは、まだ出ていない。だが、それでいいのだと、山本は思った。この土地を、これからも見守り続けること――それこそが、自分に託された役割なのだと。
黒猫のヤマトが、山本の足元に、そっとすり寄ってきた。
「あら、珍しい」
「あの猫は、気に入った相手にしか、寄っていかないんだよ」
根古が、少し嬉しそうに笑った。
可児の空の下、また一つの季節が、静かに終わろうとしていた。




