「鳥居の礎石」
名もなき祠の一件から、しばらく落ち着いた日々が続いていたが、山本彩織は、独自に三柱鳥居そのものの再調査を続けていた。
「平さん、ドローンで撮った鳥居の真上からの画像、もう一度見てもらえますか」
「はい……あれ、山本さん、これ、鳥居の柱の根元、地面から少し盛り上がってません?」
「わたしもそう思って、気になってたんです」
二人は、県の文化財担当者の許可を得て、三柱鳥居の柱の根元を、慎重に調査することにした。表土をわずかに取り除くと、鳥居の礎石の下に、さらに古い、別の石組みの跡が現れた。
「山本さん、これ……鳥居が建てられる、もっと前からある構造物じゃないですか」
「文化財担当の方にも、すぐ連絡しましょう」
調査の結果、判明したのは、驚くべき事実だった。この三柱鳥居は、平成六年に建立されたとされていたが、その真下には、明らかにそれよりずっと古い時代の石組みの痕跡が眠っていたのだ。
「つまり……この場所には、鳥居が建てられるよりずっと前から、何らかの祭祀の跡があった、ということですか」
山本の問いに、駆けつけた考古学の専門家は、慎重に答えた。
「断定はできませんが、可能性は高いですね。恐らく、平成の時代に鳥居を建てた人々も、この場所に古くから伝わる何らかの伝承を知っていて、それを踏まえて、ここに鳥居を建てたのではないでしょうか」
「由来不詳、と言われていたのは……」
「新しく建てられた鳥居自体の由来が不詳だった、というだけで、この場所そのものの信仰の起源は、もっとずっと古かった、ということかもしれません」
この発見は、可児署だけでなく、県の文化財関連部署にも大きな驚きをもって迎えられた。工藤俊一と秋月小五郎も、この報告を聞いて、すぐに現地へ駆けつけた。
「山本さん、これは……大発見じゃないですか」
「まだ何が眠っているか、はっきりとは分かりませんが」
根古親司のもとにも、この知らせは届けられた。
「ほう。あの秘境の鳥居の下に、もっと古いものが眠っていたか」
「根古さん、驚かないんですか」
「驚いてはいるよ。ただ、わしは前から思っていたんだ。あの鳥居は、何もない場所に、唐突に建てられたわけじゃないだろう、とね」
根古は、湯呑みを傾けながら、静かに続けた。
「土地の記憶というのは、時々、こうやって、何十年、何百年という時を超えて、姿を変えながらも、ちゃんと受け継がれていくものなんだよ。あんたのドローンが見つけたのは、単なる石の跡じゃない。この土地が、ずっと大切にし続けてきた、何かの続きなんだと思うね」
山本は、その言葉を、静かに噛み締めた。三柱鳥居の謎は、まだ完全には解けていない。だが、確かに一歩、その核心に近づいた実感があった。
空からの視点と、地に刻まれた記憶。その両方が重なった時、初めて見えてくるものがある――山本彩織は、そのことを、身をもって学びつつあった。




