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可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
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「ドローンの見た鳥居」

 恵那山での一件から、季節はすでに二巡りしていた。可児署の山本彩織は、巡査部長へと昇進し、地域課から刑事課へと異動になっていた。


「山本、例の三柱鳥居の件、正式に洗い直すことになった」


 雨月雅之からの指示に、山本は思わず身を乗り出した。


「あの、郡上の秘境にある?」


「ああ。あの一件以来、うちの署でも、未解決のまま棚上げしていた案件だ。だが最近、あの周辺で、また不審な人の出入りがあるという通報が入っていてな」


「由来不詳、神社もない、山道すら不明瞭……。あの現場、もう一度歩いて調査するのは、正直かなり骨が折れます」


「だからこそ、お前に頼みたい。最近、うちにも導入されただろう、あの機材」


 雨月が指したのは、署の倉庫に眠っていた、捜索用ドローンだった。山本は、地域課時代に操縦講習を受けて以来、署内でも数少ないドローン操縦の有資格者だった。


「山本、お前のドローン操縦技術、ここで活かす時が来たな」


「……望むところです」



 翌朝、山本は同僚の平圭とともに、郡上市大和町の山中へと向かった。三柱鳥居へと続く道は、相変わらず地図にも載らない、藪に覆われた獣道同然の悪路だった。


「山本さん、去年もここ、遭難者が出かけてましたよね」


「だから、無理に歩いて登る必要はない。まずは上から見る」


 山本は、開けた場所にドローンを着陸させ、慣れた手つきでコントローラーを操作した。プロペラの音とともに、機体が静かに上昇していく。


「モニター、こちらに出します」


 平が差し出したタブレットに、上空からの映像が映し出された。鬱蒼とした木々の隙間から、ぽつんと現れる、あの奇妙な三本柱の鳥居。


「相変わらず、異様な光景ですね。神社もないのに、鳥居だけがぽつんと」


「高度を上げて、周辺一帯を広く見てみる」


 山本がドローンをさらに上昇させると、モニターの中に、これまで気づかれていなかった痕跡が浮かび上がった。


「平さん、これ……」


「鳥居を中心にして、木々の生え方が、うっすらと同心円状になってません?」


「ああ。地上を歩いているだけじゃ、絶対に気づけない配置だ」


 山本は、ドローンをさらに旋回させながら、慎重に撮影を続けた。空撮画像を解析ソフトに取り込むと、鳥居を中心とした、緩やかな環状の地形の起伏が、はっきりと確認できた。


「これ、自然にできた地形なんでしょうか」


「分からない。ただ、少なくとも、地上からの調査だけでは、絶対に見つけられなかった発見だ」



 署に戻った山本は、この発見を雨月に報告した。


「同心円状の地形、か。……山本、これは県警の文化財関連部署とも、情報共有する必要があるな」


「はい。それと、もう一つ気になることが」


 山本は、ドローンが撮影した別の映像を再生した。三柱鳥居から少し離れた斜面に、明らかに人為的に踏み固められた小さな道の跡が、上空からでなければ分からない角度で写り込んでいた。


「この道、地上からの調査では見落とされていた可能性があります。方角は……北東、位山の方向に向かっているように見えます」


 雨月は、しばらく無言で画面を見つめた後、静かに言った。


「山本。お前のその視点――地上の常識だけでは見えないものを、上から俯瞰して見つける、というやり方は、今後の捜査でも大きな武器になる」


「ありがとうございます」


「念のため、根古さんにも、この件、報告しておいた方がいいかもしれんな」


「あの、飄々とした……」


「ああ。あの人は、時々、こちらが思いもよらない角度から、物事を見せてくれる」


 山本は、自分がドローンで得た「上からの視点」と、根古が持つという「土地の記憶を読み解く視点」が、どこか似ているような気がして、少し可笑しくなった。


 三柱鳥居の謎は、まだ終わっていなかった。だが今度は、地上を這うようにして進むだけでなく、空からもこの土地を見つめる目が、新たに加わったのだった。



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