怪しい奴らが多すぎる
開会式が終わると、参加者は四班に分かれてフィールドへ向かうことになった。
松平が班分けの紙を読み上げた。A班は北の沢沿い。B班は東の杉林。
C班は村の裏手にある竹やぶ周辺。D班は南の棚田から山道にかけて。それぞれ無線機を一台ずつ持ち、二時間後に境内に戻る。シンプルなルールだ。
シンプルなはずだった。
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B班??杉林担当??は、最初から構成員が妙だった。
工藤俊一、秋月小五郎、そして北村唯と遠藤成気の四人である。
北村唯は二十六歳。細身で、目が鋭く、動きに無駄がない。「地元の知人に会いに来た」と言っているが、工藤には最初からその説明が薄いと感じられた。
何かを探している目だ。ツチノコではなく。
遠藤成気は二十八歳、黒人と日本人のハーフで、百八十センチ以上の長身だった。陽気に見えるが、やはり目が笑っていない。
「いい天気ですね」と遠藤が言った。
「そうですね」と工藤が答えた。
沈黙。
杉の木立の中を、四人は一列で進んだ。鳥の声。風の音。足元の落ち葉を踏む音。
「……探偵、なんですよね」と北村が、前を向いたまま言った。
「ええ、まあ」
「休養中、と聞きました」
「聞いたんですか。誰から」
「村は狭いので」
工藤はそれ以上聞かなかった。
村が狭いせいで情報が広まるには、昨日今日着いたばかりの人間には早すぎる。
秋月は木の根元を棒でつつきながら、「ツチノコって、こういう暗いとこが好きなのかねえ」と能天気に言った。工藤は秋月に感謝した。
この人は天然なのか計算なのか、いつも場の空気を軽くする。
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同じ頃、C班??竹やぶ担当??では、別の問題が起きていた。
江戸川勉は二十五歳の私立探偵で、この村に越してきてまだ三週間だった。東京で少し……いろいろあって、田舎で仕切り直しているところだ。詳しくは本人も話したがらない。
その江戸川のC班に、東京からきた三人組がすっと混ざり込んでいた。
西野千紗都、二十三歳。古田麻尋、二十三歳。星野由紀子、四十歳。
三人とも愛想がよかった。笑顔も自然だった。
竹やぶの中を歩きながら、「ツチノコって本当にいるんですかね」などと普通のことを言っていた。普通すぎた。
江戸川は彼女たちと隣に越してきた日のことを思い出した。引っ越しのトラックが来て、三人が荷物を運んでいた。
荷物の量が異常に少なかった。家具らしい家具がなく、黒いケースがいくつかあった。釣り道具にしては形が違う。楽器にしては重さが均一すぎた。
「あの」と江戸川は星野由紀子??三人の中で一番落ち着いた雰囲気の年長者??に声をかけた。「東京のどちらからいらしたんですか」
「いろいろなところを転々としていて」と星野は柔らかく微笑んだ。「どこが地元とも言えないんです」
「お仕事は?」
「フリーランスです」
「……そうですか」
江戸川はスマートフォンをポケットに入れた。さりげなく、録音アプリを起動したまま。
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A班の沢沿いでは、スティーブ・ヘイブンスがいた。
五十七歳、アメリカ人。堂々とした体格に人のよさそうな顔。
しかし護衛が二人ついている??カルロスとホセ??という時点で、「ただの観光客」という線は完全に消えていた。
スティーブは日本語が堪能で、しかもなぜかこのイベントに参加していた。
理由を聞かれると、「昔から日本の未確認生物に興味があってね」と言った。それだけだった。
カルロスとホセはサングラスをかけ、無言で周囲を警戒していた。沢沿いのツチノコ探しイベントに、完全に場違いな緊張感をもたらしていた。
北村と遠藤がA班の様子を遠くから確認しているのを、工藤は見ていた。工藤が見ていることを、北村も気づいていた。
誰も、それについて何も言わなかった。
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D班??棚田エリア??は、比較的平和だった。
占い師のフェルナンド・村田がタロットカードを広げ、「ここや! ここにツチノコの気配がある!」と叫び、地元YouTuberの鳴海美佑がそれを配信し、牧師の西野薫がその隣で「神よ、この者たちをお導きください」と祈っており、動物病院院長の木下千恵が「ツチノコが見つかったら診察できるかしら」と真剣な顔で言っていた。
平和、というより、別の意味で濃かった。
フェルナンドのライブには、すでに三千人が視聴していた。
コメント欄は「ガチのやつや」「神主と牧師と占い師が同時にいる」「東白川村ってどこ」で埋まっていた。
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午前十一時。
沢沿いを歩いていた工藤は、ふと足を止めた。
B班と離れた位置に、温泉仲間と呼ばれている初老の男性が一人、岩の上に座っていた。イベントの参加者なのかどうかも判然としない。ただ、ぼんやりと山を見ていた。
工藤が近づくと、男は振り返りもせずに言った。
「今日、何か起きますよ」
「……何かって、何ですか」
「さあ」男は首を傾けた。「でも起きる。水の匂いがそう言っている」
工藤は川の音を聞いた。確かに水の匂いがした。ただ、川のそばにいるのだから当然だとも思った。
「温泉で当てたんですよ、昔。崖崩れを」と男は続けた。「誰も信じなかったけど、当たった。今日もそういう感じがする」
工藤はしばらく男の横顔を見ていた。
「参考にします」と、結局そう答えた。
男は微笑んだ。川は流れ続けていた。
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正午が近づいた頃、無線機がざわついた。
C班の江戸川からだった。声が少し硬かった。
「……工藤さん、いますか。ちょっと、話せますか」
工藤は無線機を握り直した。
「います。何かありましたか」
「竹やぶの奥に、小屋があって」
少し間があった。
「荷物が置いてあります。誰かの荷物。ツチノコ関係じゃないと思う」
杉林の木漏れ日の中で、工藤は北村と目が合った。北村の表情は変わらなかった。
ただ、一瞬だけ、何かを計算するような眼差しになった。
「わかりました」と工藤は言った。「今から向かいます」
秋月がのんきに言った。「昼飯はイエンガーのカレーか。楽しみだな」
工藤は返事をしなかった。




