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可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
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42/45

コラボ、そして本物

【 数日後 昼 茶店ラクカ 】

千歳楼の調査から三日が経っていた。


鳴海と ロドリゲス斎藤が撮影した映像を江戸川が確認した結果、タイヤ跡は二種類のサイズが混在していた。

小型トラックと、ワンボックス系。出入りは夜間に限られているらしく、昼間の張り込みでは人の動きは確認できなかった。


村田が地元の顔なじみから追加情報を仕入れてきた。


「水落観音も怪しいらしいで。お参りに行ったおばあさんが、裏の山道に見慣れない荷物が置いてあったって言うてた」


「水落観音は可児市外ですよね」と鳴海が地図を見ながら言った。


「御嵩町や。可児のすぐ隣。山道で繋がっとる」


「繋がっている、というのは文字通りですか」と江戸川が手帳に書きながら言った。


「昔からある山の古道や。今は整備されてへんから、地元の古い人しか知らん」


根古は右手を見た。熱い。


??千歳楼、水落観音、そして??十三号トンネル。点が線になろうとしている。


「十三号トンネルは確認しましたか」と根古が言った。


「まだです」と江戸川が答えた。「ただ??あそこは心霊スポットとして有名すぎて、夜に複数人で行くと目立ちます」


「逆に使えますよ」と鳴海が言った。全員が鳴海を見た。


「心霊コラボ動画です。YouTuberが複数人で深夜に心霊スポット訪問、なんて珍しくもない。

ロドさんと村田さんと私で行けば、完全にコンテンツとして自然です」


「なるほど」とロドリゲス斎藤が腕を組んだ。

「俺の登録者数と美佑ちゃんの地元フォロワーを合わせたら、かなりの数が見る。コンテンツとしても本物やし、調査としても本物や」


「一石二鳥や」と村田が嬉しそうに言った。「俺の占い師キャラが一番自然に活かせる場所でもあるし」


「江戸川さんと私は」と根古が言った。


「離れた場所で待機します」と江戸川が答えた。「何かあればすぐ動ける距離で。根古さんは??」


「体調次第です」と根古は言った。「今日は悪くない」


鳴海がスマートフォンを取り出した。


「告知します。今夜、三チャンネル合同で十三号トンネル心霊コラボ、って。

三人のフォロワーが来るかもしれませんが??それも囮になりますかね」


「むしろ人が多い方が、怪しい人間が動きにくくなる」と江戸川が言った。「逆に、こちらが自然に動けます」


根古はコーヒーを飲みながら、窓の外を見た。


??今夜、何かが動く気がする。守護霊たちが、静かに緊張している。


【 同日 深夜 十三号トンネル付近 】

?? 十三号トンネル

十二月の深夜のトンネルは、冷えていた。


コンクリートの口が闇の中に開いている。内部は街灯がなく、懐中電灯の光だけが頼りだ。

壁には落書きが重なり、床には枯れ葉が吹き込んでいた。



鳴海が配信を回していた。スマートフォンのコメント欄がにぎやかに流れている。

ロドリゲス斎藤が大型カメラで全体を撮り、村田が祈祷師めいた仕草でトンネルの入口を確認していた。


「皆さん、今夜は十三号トンネルです??」と鳴海が実況した。

「地元では昔から心霊スポットとして有名で??村田さん、何か感じますか」


「うーん……」村田は目を閉じて、額に手を当てた。

「何かおるな。でも怒ってへん。むしろ??困っとる。何かを訴えたいんかもしれん」


演技ではなかった。村田の顔が、珍しく真剣だった。


「村田さん」と鳴海が小声で言った。カメラに映らない角度で。「本当に何か感じてますか」


「……ある。トンネルの中やない。横の斜面の方や」


ロドリゲス斎藤が自然な動きでカメラをトンネル脇の斜面に向けた。


斜面は雑木林になっていた。冬枯れの木々の間に、懐中電灯の光が届かない暗がりがあった。


そのとき、鳴海のスマートフォンのコメント欄に、奇妙なコメントが流れた。


??「斜面に白いものが見える」


視聴者が、画面越しに気づいていた。


「ロドさん」と鳴海が言った。声が少し固くなった。


「見えとる」とロドリゲス斎藤は静かに言った。カメラを持つ手が止まっていた。


斜面の暗がりに、白いものがあった。


形が、人の形だった。


「……村田さん」と鳴海が言った。


「配信、止めろ」と村田が低い声で言った。「今すぐ」


鳴海はためらわずに配信を切った。


三人は動かなかった。


白いものは動かなかった。


ロドリゲス斎藤がゆっくりカメラのライトを最大にして、斜面を照らした。


人だった。


倒れている。仰向けで、腕が変な方向に曲がっている。

白いのはシャツだった。冬の深夜に、薄いシャツ一枚。動いていない。


「……救急車」と鳴海が言った。手が震えていた。


「俺が呼ぶ」とロドリゲス斎藤がすでにスマートフォンを耳に当てていた。

「江戸川くんにも連絡してくれ」


村田は斜面を見たまま、動かなかった。


鳴海は江戸川に電話した。


「江戸川さん。十三号トンネルの横の斜面に??人が倒れています。動いていない」


一拍の間。


「今すぐ行きます。触らないで、その場にいてください」


電話が切れた。


鳴海はスマートフォンを握ったまま、倒れている人を見た。


??心霊コラボで、本物を見つけてしまった。


村田がぽつりと言った。


「困っとる、言うたやろ。訴えたかったんや……この人が」


十二月の夜風が、トンネルの中を吹き抜けた。


【 同日 深夜 十三号トンネル付近 続き 】

江戸川と根古が着いたのは、救急車より五分早かった。


江戸川が斜面を上り、倒れている人物に近づいた。

男だった。四十代くらい、スーツの上着だけない。呼吸はあった。浅いが、あった。


「生きています」と江戸川が叫んだ。


鳴海が息を吐いた。ロドリゲス斎藤が目を閉じた。村田が手を合わせた。


根古はトンネルの入口に立ったまま、右手を見ていた。


熱い。強い反応だった。


??この男から、何かが出ている。恐怖。そして??後悔。強い後悔だ。


根古は斜面を上った。倒れている男の顔を見た。


??見たことがある顔だ。どこで??


江戸川が根古の隣で言った。声が低かった。


「根古さん。この人??名古屋で見ました。

エスメディカルの前で、ビルを出たり入ったりしていた男です」


根古は江戸川を見た。


??エスメディカル。持田勇二。榊原。そして今度は十三号トンネル。


遠くで救急車のサイレンが聞こえてきた。


根古は男の右手に、自分の右手をかざした。触れない。ただ、近づけるだけ。


映像が来た。


??暗い部屋。コンテナが並んでいる。男が何かを見ている。顔が青ざめている。

逃げ出した。夜道。誰かに追われた。転んだ。斜面を転がった??


映像が切れた。


根古は立ち上がった。


「千歳楼です」と根古は言った。「この男は千歳楼から逃げてきた」


「千歳楼で何が」と江戸川が言った。


「コンテナの中に??何かある。この男が見て、逃げ出した。それだけしか見えなかった」


救急車が来た。隊員が斜面を上ってきた。


江戸川はすでにスマートフォンを耳に当てていた。


「雨月さん。今すぐ千歳楼に令状を取ってください。理由は後で説明します。急いでください」


鳴海はカメラを持ったまま、今夜の出来事を頭の中で整理しようとした。だが整理できなかった。


ただ一つだけ、はっきりわかったことがあった。


??これは、コンテンツじゃない。


村田が鳴海の隣に来た。


「美佑ちゃん、大丈夫か」


「……大丈夫です」


「震えとるで」


「大丈夫です」


村田は何も言わずに、鳴海の肩に手を置いた。


ロドリゲス斎藤がカメラを降ろして、静かに言った。


「今夜の映像、どうする」


鳴海は少し考えてから言った。


「……上げません。これは動画じゃない」


ロドリゲス斎藤は頷いた。


「ええ判断や」


救急車がサイレンを鳴らして走り去った。


十三号トンネルの前に、五人が残った。


根古が言った。


「千歳楼に何があるか、明日わかります。今夜はラクカへ行きましょう。太田さんに連絡します」


「何時だと思ってるんですか、今」と江戸川が言った。


「太田さんは起きています。こういうときは、いつも起きています」


根古はスマートフォンを取り出して、電話した。


二コールで出た。


「太田です」


「根古です。今から全員でラクカへ行きます。五人です」


「……わかりました。コーヒー、用意しておきます」


根古は電話を切った。


「言った通りでしょう」


五人は暗いトンネルの前から、可児へ夜道を移動し始めた。

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