可児川呪術殺人事件 『神殺しの歴史、異国の呪詛』
「き、祈祷……? 怪しい宗教って、どういうことですか!」
美佑のスマホのレンズが激しく揺れる。しかし、今の根古にはそれを咎める気力さえ残っていなかった。後頭部を押さえ、歪んだ顔で途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「30年前、この街はひどい不況と連続不審死に怯えていた。そこへ現れたのが、若き日の古田と西野だ。
二人は『祈祷で呪いを祓う』と言って、儀式を始めた。
……不思議なことに、二人が祈祷をすると、本当に不審死は収まり、街の経済は持ち直した。
地元の人間は彼らを救世主と崇め、古田は寺の住職に、西野は教会の牧師に祭り上げられたのさ」
勉は腕の中のヤマトを抱き直しながら、鋭い声をあげた。
「バカな。祈祷で人が死ななくなるわけがない。マッチポンプだ。二人が裏で糸を引いていたんでしょう」
「……その通りだよ、江戸川くん」
根古は自嘲気味に笑った。
「すべては仕組まれた呪術詐欺だった。そして、その『呪い』の演出やサクラ、洗脳のノウハウを裏で提供していた本尊の怪しい宗教団体が……今、フィリピンのセブ島を拠点に巨大化している。名前を変え、世界中から金を巻き上げる凶悪な組織としてな」
「それが……ルシア・マルチネスとどう繋がるんだ」
安藤が低い声で割り込む。
「ルシアは、そのフィリピンの組織の幹部が、日本の『古田と西野』宛てに送った極秘の連絡文書を、偶然手に入れてしまったんだ。出稼ぎ先のカレー店で知り合ったムハンマドに翻訳を頼もうとするほど、彼女は追い詰められていた。古田と西野が今も組織に莫大な『上納金』を送り続けているという、決定的な証拠をな……」
根古がそこまで言った時、美佑が息を呑んだ。
「じゃあ、ルシアさんを殺したのは、過去の秘密を守りたい住職の古田か、牧師の西野ってこと!?」
「いや、違う」勉が冷徹に否定した。「もし二人が犯人なら、根古さんを後ろから襲う理由がない」
「じゃあ、誰が……」
「決まっているだろう。その情報を奪い返し、口封じをするために、フィリピンの組織から雇われた『プロ』だ」
安藤が玄関のほうを睨みつける。
「根古さん、さっき『東京から届いた厄介な借り物』って言いましたね。あの三人組……星野由紀子、西野千紗都、古田麻尋。彼女たちは元々、関東の殺し屋だ。でも、苗字を見てみろ。西野に、古田だ。彼女たちは、牧師や住職がかつて東京に囲っていた女の子供……あるいは、組織から送り込まれた『本物の西野と古田の血を引く執行人』なんじゃないか?」
勉の推理が響き渡る中、屋敷の庭の草むらが、サササッ、と不自然に揺れた。
ヤマトがウウッと喉を鳴らし、毛を逆立てて庭の暗闇を睨みつける。
薄暗い月明かりの中、開け放たれた門の近くに、黒い革ジャンを着た影が静かに佇んでいた。手には、ずっしりと重そうな金属製の工具――大工が使うような重いバールが握られている。
「……香水の匂いだ」
根古が怯えたように、ガタガタと震え出した。




