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可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
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可児川呪術殺人事件 『開かれた門』

根古親司の家は、可児市の喧騒から少し離れた鬱蒼とした木々に囲まれている。

前に到着した瞬間、勉の足が止まった。


「……扉が開いている。あの神経質な根古さんが、こんな夕方に戸締まりを忘れるなんてあり得ない」


不穏な空気が漂う中、勉の腕の中でヤマトが「ナー」と低く短く鳴き、地面に飛び降りた。猫は迷うことなく、開いた扉の奥へと音もなく駆けていく。


「おい勉、行くぞ。嫌な予感がする」

安藤が上着の内側に手をやりながら(現役時代の癖で、無意識に銃を探す動きだった)、鋭い足取りで敷地内へ進む。勉もそれに続いた。

そして、その二人の影に隠れるようにして、スマホの録画ボタンを押した鳴海美佑が、息を殺して敷居をまたいだ。


手入れされた庭を抜け、関口にたどり着いた時、ヤマトが板張りの廊下の奥で立ち止まり、じっと一点を見つめていた。


「根古さん……!?」


勉が声を上げた。

廊下の突き当たり、薄暗い和室の手前で、る根古親司が、うつ伏せの状態で床に倒れ伏していたのだ。

「触るな! 俺が診る」

安藤が素早く駆け寄り、根古の首筋に指先を当てた。数秒の沈黙の後、安藤が深く息を吐き出す。

「……生きてる。脈はしっかりしてる。気を失っているだけだ」


「う、うう……」

安藤が体を起こそうとした瞬間、根古が苦痛に満ちた呻き声をあげ、ゆっくりと頭を動かした。その後頭部には、鈍器で殴られたような赤黒い腫れができていたが、出血はさほどひどくない。


「根古さん、大丈夫ですか!? 僕です、江戸川です。何があったんですか」

勉が駆け寄り、根古の身体を支える。根古は焦焦じりじりとした手つきで、自分の近くにすり寄ってきた愛猫ヤマトの頭を撫でながら、かすれた声で言った。


「江戸川、くん……。……後ろから、やられた。調べ物をしていたら、突然背後に気配がして……振り返る間もなく、頭をひっぱたかれた」


「犯人の顔は? 声は聞き覚えがありませんでしたか?」

安藤の問いに、根古は苦渋の表情で首を振った。


「分からん。だが……香水の匂いがした。ツンとするような、だがどこか甘ったるい……海外の、高級な香水のような匂いだ。それと、そいつが逃げていく時、服が擦れる音がした。あれは……上質な革ジャンの音だ」


「革ジャン、そして海外の香水……

勉の脳裏に、つい先ほど対峙した、あの東京から来た三人組の姿が鮮烈に蘇った。リーダー格の星野由紀子がまとっていた、あの隙のない雰囲気。そして、西野千紗都や古田麻尋たちの、どこか冷ややかな視線。


「根古さん、あなたあの三人組に何を貸したんですか!? マスターの太田さんが言ってましたよ。『東京から厄介な借り物が届く』って」


安藤の鋭い追及に、根古はヤマトを抱きしめたまま、観念したように視線を落とした。


「……彼女たちは、関東の裏社会の『掃除屋』だ。だが、今回は仕事で来たんじゃない。30年前……住職の古田、牧師の西野たちがこの街で犯した『ある罪』の、復讐にやってきたんだ……。殺されたルシアは、その秘密に気づいてしまったから消されたんだよ……」


根古の口から語られる、街の有力者たちの恐るべき過去。

その時、玄関のほうでパシャリと、カメラのフラッシュのような音が響いた。勉がハッと振り返ると、そこには顔を真っ青にした鳴海美佑が、スマホを握りしめたまま立ち尽くしていた――。





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