表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
PR
23/44

可児川呪術殺人事件 『羊の皮を被る狼、そしてキャットタワーの怪』

「……ロドリゲスはシロ、ですか?」

カレー店の床にへたり込んだままのムハンマドを安藤が介抱する傍らで、勉がスマホの画面を睨みながら言った。


「ああ。知り合いに確認を取らせたが、ロドリゲス斎藤は事件のあった時間、大阪の通天閣近くの串カツ屋にいた。関西の高名な占い師、フェルナンド・村田のYouTubeライブに生出演中だ。アリバイは完璧、手出しはできねえ」


安藤が忌々しそうに首を振る。有力な容疑者が消え、捜査が暗礁に乗り上げたかと思われたその時、美佑が意を決したように勉の袖を強く引いた。


「勉さん、安藤さん……これ、見てください」

差し出されたスマホの画面には、さきほど届いた『C』からの冷酷なDMが映っていた。

『いい動画だったよ、ミユちゃん。でも、あまり深追いしないことだね』


「C……西野千紗都か!」

勉の目が鋭く光る。

「彼女たち、今どこにいる?」

「勉さんの事務所のすぐ近く、あの古い家です。最近引っ越してきたばかりの……」

「よし、行くぞ」


数分後。勉、安藤、そして生唾を飲み込む美佑の三人は、勉の事務所の向かいにある家へ、『星野』の表札が出たドアの前に立っていた。


ピンポーン、と勉がチャイムを鳴らす。

ガチャリと扉が開くと、エプロン姿の西野千紗都が、いかにも「普通の若いお嬢さん」といった愛くるしい笑顔で顔を出した。奥からは、同じく古田麻尋がのんびりとジャガイモの皮を剥いている姿が見える。


「あら、お向かいの探偵さん? それに警察の方も……どうされたんですか? 奇遇ですね、私たち今、肉じゃがを作っていたところで」


「西野さん、とぼけないでください」

美佑がスマホを突きつける。

「これ、あなたが送ってきたんでしょう! 河川敷で私を見ていたはずです!」


千紗都は小首を傾げ、心底不思議そうな顔で画面を覗き込んだ。

「C……? すみません、私、SNSは見る専門で、DMなんて送ったことないです。可児川で事件があったのは、さっき鳴海さんの配信で知って驚いていたところで……。ねえ、麻尋?」

「うん。私たち、ずっと部屋の片付けしてたよね」

奥から麻尋が、全く動じない平坦な声で同意する。


(……チッ、完璧なポーカーフェイスだ)

安藤は内心で歯噛みした。

部屋の隅に置かれた段ボールの配置、彼女たちの重心の置き方、そして一切の動揺を見せない視線。噂通り、関東の裏社会で慣らした「元プロ」の佇まいだ。

突撃したところで、そう簡単にシッポを出すようなタマではない。


その時、部屋の奥から、ワイングラスを片手にした年長の星野由紀子が、妖艶な笑みを浮かべて現れた。


「あらあら、若い女の子たちをそんなに虐めないで頂戴、探偵さん。……そんなにルシアっていうフィリピンの女の子の事件が気になるなら、私たちを疑うより、もっと適任の人がいるわよ」


由紀子の言葉に、勉の眉が跳ね上がる。

「適任、とは?」


「この街の裏も表も知り尽くしている。……『根古親司』さん。

あの人に話を聞きに行ったらどうかしら? ちょうど今、あの人の飼い猫の『ヤマト』が、うちのベランダに迷い込んできていてね。今からお返しに伺おうと思ってたの」


由紀子が指差したリビングの窓辺には、あの河川敷の死体の傍らにいた黒猫ヤマトが、まるで最初から彼女たちの身内であるかのように、静かに毛づくろいをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ