可児川呪術殺人事件 「可児川の不浄」
『可児川の不浄』
「はい、皆さんこんにちは!地元密着系YouTuberのミユです!……って、ちょっと待って、これマジなやつじゃん……」
スマホを固定したジンバルを掲げながら、鳴海美佑(24)は可児市役所の脇を流れる可児川の河川敷へと、スニーカーの泥を気にすることもなく駆け下りていた。
初夏の生ぬるい風が、遮るもののない橋梁の下へと吹き抜けていく。いつもは穏やかな水音しか響かないその場所に、今は何台ものパトカーの赤色灯がせわしなく回転し、コンクリートの壁を赤く染めていた。
「今、市役所裏の橋の下に警察がめちゃくちゃ集まってます。ブルーシートが張られてるってことは、これ、ガチの『ホシ(遺体)』が出たっぽいです……」
美佑は声を潜め、カメラのレンズをズームした。
規制線の向こう側では、可児署の山本彩織巡査長が鋭い眼光で周囲を警戒している。
その後ろでは、まだあどけなさの残る平圭巡査長が、青ざめた顔でメモ帳を握りしめていた。
「(ちょっと、そこの君!下がって!)」
山本巡査長の鋭い声が飛ぶ。美佑はすかさず身を隠すように、橋脚の影へと回り込んだ。画面の向こうの視聴者たちが、ライブ配信のコメント欄で「またナルミが危ないことしてる」「これ本物?」「ヤバくない?」と急速に盛り上がっていく。
同接数は一気に大台を超えようとしていた。
その時、美佑の視線が、ブルーシートの隙間からわずかに覗く「それ」に釘付けになった。
「……嘘でしょ」
遺体は、奇妙なほど綺麗に整えられた格好をしていた。しかし、その胸元には、地元の誰もが知る「あるマーク」が血に染まって残されているのが見えた。
さらに美佑の背筋を凍らせたのは、その凄惨な現場から、一歩も動かずにこちらをじっと見つめている「黒い影」の存在だった。
橋梁の暗がりに佇んでいたのは、一匹の黒猫。
老獪な風貌をしたその猫――『黒猫ヤマト』は、まるで事件のすべてを目撃していたかのような深い眼差しで、美佑のカメラのレンズを静かに見返していた。
「……ねえ、みんな、見えた? 今、死体のそばに、あの猫が――」
美佑がカメラをさらに近づけようとしたその瞬間、画面の端に、東京から最近引っ越してきたばかりの「あの三人組」のうちのひとり、西野千紗都の姿が、野次馬に紛れて冷たい笑みを浮かべているのが映り込んだ――。




