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可児奇譚  作者: 賀茂丈晴
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第二章 第二話「公開捜査」

### 視点:安藤 修


---


 鳴海美佑が消えた朝、俺は三回電話をかけた。


 一回目、呼び出し音。繋がらない。

 二回目、呼び出し音。繋がらない。

 三回目、電源が切れていた。


 鳴海が電源を切ることは、ない。


 あいつは常に電源を入れている。寝ているときも、風呂に入っているときも。「見逃しが怖い」と一度言っていた。情報を見逃すことが、鳴海美佑にとっての死だ。


 だから、電源が切れているということは??。


 江戸川に連絡した。


「鳴海のアパートに行ってくれ」


「今すぐですか」


「今すぐだ」


---


 江戸川から折り返しが来たのは、三十分後だった。


「ドア、施錠されてます。新聞が昨日のまま残ってます。鳴海さんの自転車も駐輪場にあります」


 俺は立ち上がった。


「わかった。戻ってくるな。そのまま待ってろ」


 事務所を出ながら、スマホをもう一本の手で操作した。


 根古さんに電話した。


「鳴海が消えた」


 一秒の間があった。


「いつから」


「昨夜から。電源が切れてる」


「……ラクカに来い」


 それだけだった。根古さんはいつもそれだけだ。


---


 ラクカに着くと、根古さんはすでにカウンターにいた。太田さんがコーヒーを出した。俺は座らなかった。


「昨夜、鳴海から連絡はあったか」


「ない。でも??」根古さんがスマホを出した。「三日前に、少し話した」


「何を」


「アダム・ハイマンという男のことを聞いてきた。杉原ビザの子孫だ。日本に来ている」


 俺は根古さんを見た。


「鳴海はそれを取材していたのか」


「そう思う。でも俺には詳しく話さなかった。まだ早いと思っていたんだろう」


 根古さんがコーヒーを一口飲んだ。


「……あいつらしい」


「ああ」


 俺は少し考えた。


「根古さん、俺たちで動いていいですか」


「動くな、とは言わない」


「やり方があります」


 根古さんが俺を見た。


「YouTube、ですか」


「はい」


 根古さんは少し間を置いた。


「……やってみろ」


---


 江戸川に電話した。アパートから戻ってこい、と言った。


 次にロドリゲス斎藤さんに電話した。


 ロドリゲス斎藤さんは俺たちより一回り上の五十二歳で、バイヤーとYouTuberを兼業している。チャンネル登録者数は百五十万。顔が広い。情報網も広い。国内外を飛び回っているので、どこにいるかわからないのが欠点だが、今日は名古屋にいると昨日聞いていた。


「鳴海ちゃんが消えた?」


「はい。昨夜から」


「……わかった。俺、今から行く」


 次にフェルナンド村田さんに連絡した。


 フェルナンドさんはブラジル系日本人のYouTuberで、登録者数は八十万。普段は料理と旅行の動画を上げているが、以前に一度、行方不明の犬を視聴者と一緒に探したことがある。その経験が、今日役に立つかもしれない。


「鳴海さん、消えたんですか。やばいっすね。何したらいいですか」


「一緒に配信してほしい」


「わかりました。すぐ行きます」


---


 正午過ぎ、俺たちは可児探偵ファイルのスタジオ代わりの事務所に集まった。


 安藤修。江戸川勉。ロドリゲス斎藤。フェルナンド村田。


 四人、カメラの前に並んだ。


 江戸川が「本当にやるんですか」と小声で言った。


「やる」


「警察に任せた方が」


「警察には雨月さんがいる。俺たちにはYouTubeがある。別のルートで動く」


 江戸川は少し考えてから、カメラのスイッチを入れた。


 配信開始。


---


 俺は画面を見た。


 視聴者数が見る見る増えていく。


 鳴海美佑のチャンネル登録者は三百万いる。俺たちが配信を始めた瞬間、そちらにも通知が飛んだはずだ。鳴海のコミュニティが、今動いている。


「皆さん、可児探偵ファイルの安藤です。今日は非常に重要なお知らせがあって配信しています」


 俺は話した。


 鳴海美佑が昨夜から連絡が取れないこと。アパートに帰った形跡がないこと。最後に確認された場所が可児市内であること。


「俺たちは今日から、鳴海美佑を探します。皆さんの目を貸してください」


 ロドリゲスさんが続けた。


「私は名古屋と可児を中心に、情報を集めます。海外のネットワークにも当たります。何か知っている方は、概要欄のフォームから連絡してください」


 フェルナンドさんが続けた。


「僕は可児市内を実際に回ります。視聴者の皆さんで目撃情報がある方、一緒に探しましょう」


 江戸川が最後に言った。


「映像や写真がある方は、こちらのアドレスに送ってください。全部確認します」


---


 配信を始めて三十分で、視聴者数が五万を超えた。


 一時間で十万を超えた。


 コメント欄が流れ始めた。


 その中に、一つだけ止まるものがあった。


「昨夜、可児市内の古い公民館の駐車場で、女性が男性二人に連れられているのを見ました。女性は抵抗していた気がしましたが、確認できませんでした」


 俺はスクリーンショットを撮った。


 江戸川に転送した。


 江戸川が無言でうなずいた。


 根古さんに送った。


 三秒後に返信が来た。


「わかった」


---


 配信は続いた。


 俺は話し続けた。


 鳴海は「見る側」の人間だ。いつも観察して、記録して、届ける。


 今日は俺たちが、鳴海を探す側に回る番だった。


 カメラを見ながら、俺は思った。


 鳴海、お前のカメラはどこにある。


 録画ボタン、押せたか。


 お前のことだから、押したはずだ。


---


*── 第二話 了 ──*



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