第二章 第一話「消える前に」
### 視点:鳴海 美佑
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消える前に、少しだけ話しておく。
私は取材中だった。それだけは確かだ。
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シーズン1??などという言い方は私はしない??あの爆発から半年が経った。
安藤さんと江戸川さんのチャンネルは今や登録者数が二百万を超えた。私のチャンネルも三百万を超えた。人身売買組織の記録が公開されてから、私たちの名前は少し変わった意味を持つようになった。
良い意味でも、悪い意味でも。
根古さんはラクカで相変わらずコーヒーを飲んでいる。ヤマトは今年で十一歳になった。澪ちゃんは大学の卒業論文に追われている。雨月さんは昇進した。三枝さんは桐島さんと月に一度飯を食うようになったと聞いた。
世界は続いていた。
私も続いていた。
続きながら、ずっと気になっていることがあった。
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杉原千畝という人物のことは、もちろん知っていた。
第二次大戦中、リトアニアの日本領事館でユダヤ人難民にビザを発給し続けた外交官。命のビザ。その数、六千枚以上。本国の訓令に背いて発給を続けた。
樋口季一郎のことも知っていた。
満州国国境で、シベリア鉄道でヨーロッパから逃れてきたユダヤ人難民の通過を許可した陸軍中将。岐阜出身。
二人の行為が、何千人もの命を繋いだ。
私がそこに興味を持ったのは、ある投稿がきっかけだった。
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三ヶ月前、私のチャンネルのコメント欄に、一つのメッセージが届いた。
英語だった。
「私の祖父は杉原ビザで生き延びました。今、私は日本にいます。あなたの動画を見て、信頼できる人だと思いました。話を聞いてもらえますか」
名前はアダム・ハイマンとあった。
私は返信した。会うことにした。
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アダムは三十代の男性だった。穏やかな目をしていた。日本語が少しだけ話せた。
彼の祖父はポーランド出身のユダヤ人で、一九四〇年に杉原ビザを手にしてリトアニアから日本を経由してアメリカに渡った。アダムはその孫で、祖父の足跡を辿るために来日していた。
岐阜の樋口記念碑を訪ね、名古屋の杉原記念館を訪ねた。
そこで、おかしなことに気づいたと言った。
「自分が来ることを知っている人間がいるようでした。どこに行っても、少し前から誰かがいた形跡があった」
私は手帳にメモした。
「それは……いつ頃から気づきましたか」
「名古屋の記念館を訪ねた翌日からです」
私はメモを見た。
翌日。
「ホテルに、誰かが入った形跡もありました。物が動いていた。でも盗まれたものは何もない」
アダムは静かに言った。怖がっていたが、声は落ち着いていた。
「警察には?」
「行きました。でも証拠がないと言われました」
そうだろうと思った。
私は少し考えた。
根古さんに話すべきか。
まだ早い、と思った。もう少し自分で調べてからにしよう。
それが、間違いだった。
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失踪の夜のことを話す。
アダムから連絡が来たのは夜の九時過ぎだった。
「今夜、会いたい人がいると言っています。私に話したいことがあるそうです。一緒に来てもらえますか」
場所は可児市内の古い公民館だった。
私は少し迷った。
迷いながら、行った。
カメラを持って、一人で。
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公民館の駐車場に着いたのは、夜十時を少し過ぎていた。
アダムの姿はなかった。
スマホにメッセージが来た。アダムからではなかった。知らない番号だった。
「中に入ってください」
私は止まった。
引き返すべきだった。
でも、私は「見る人間」だ。見ずに帰ることが、できなかった。
それが、私の性分だ。
ドアを開けた。
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中は暗かった。
足を踏み入れた瞬間、後ろでドアが閉まった。
鍵がかかる音がした。
私はカメラを構えた。録画ボタンを押した。
暗闇の中で、声がした。
「鳴海美佑さん。あの映像を配信してくれましたね」
男の声だった。低くて、感情がなかった。
「……どなたですか」
「残ったものです」
私は動かなかった。
「アダム・ハイマンは?」
「安全です。今は」
今は、という言葉が引っかかった。
「何が目的ですか」
「あなたには、少し静かにしていてもらいたい」
私はカメラを握り締めた。録画は続いていた。
「静かに、というのは」
「消えてもらいたい、ということです。しばらくの間」
足音が近づいてきた。
私は叫ぼうとした。
でも、その前に??。
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カメラだけが、床に落ちた。
録画は、まだ続いていた。
暗い天井を映しながら。
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翌朝、安藤さんから私に電話がかかった。
繋がらなかった。
もう一度かけた。
繋がらなかった。
江戸川さんが私のアパートに行った。
ドアは施錠されていた。
郵便受けに、昨日の新聞が残っていた。
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*── 第一話 了 ──*




