花束の祈り、白と薄紫の願い-2
その時、背後からリリスの声が飛ぶ。
「へえー」
振り返ると、リリスがいかにも面白そうな顔をしてこちらを見ていた。目が笑っている。完全に“何か見つけた”という顔だ。
「レオン、そういうのもらうんだ」
「茶化すな」
「茶化してないよ? へえーって思っただけ」
「絶対茶化してるだろ」
「でも似合うじゃん。真面目に」
その言い方は軽いのに、どこか本気の温度が混じっている。リリス特有の、相手の肩の力を抜かせる柔らかい軽口だった。
レオンが返答に困っていると、エルザまでこちらを見ていた。真面目な顔で、しかしどこか少しだけ優しい目で。
「大事に持て」
「お前まで」
「無事を祈られているんだ。それを雑に扱うな」
その言葉は、エルザらしい不器用な優しさだった。彼女の声はいつも通り落ち着いているのに、その奥には、“その願いを裏切るなよ”という静かな想いが宿っていた。
朝の風が吹く。レオンの手の中の花束が、白と薄紫の花弁をふわりと揺らす。
リリスの軽やかな笑いと、エルザの真っ直ぐな言葉。その二つに挟まれたレオンの胸に、小さな花束の重みが、ゆっくりと深く沈んでいく。
それは剣の重さとは違う。戦場の責務とも違う。もっと柔らかく、もっと静かで、けれど確かに心を動かす重みだった。
セシリアがくすりと笑う。その笑いは朝の風に近かった。冷たい空気の中に、ほんの少しだけ柔らかな温度を混ぜるような笑い。
「素敵だと思うわ」
その一言は、花束の白と同じくらい静かで、けれど確かにレオンの胸に触れる優しさを帯びていた。
カインは何も言わなかったが、花束とレオンの顔を一度ずつ見て、ほんのわずかに目を細めた。それが何を意味するのかは分からない。だが、少なくとも否定的な色ではなかった。むしろ、“それは良いものだ”と静かに肯定しているようにも見えた。
ロアンが肩をすくめる。
「人気あるなあ」
「お前にだけは言われたくない」
「ひどいな。事実確認しただけなのに」
そのやり取りに、小さな笑いが起きる。
別れの朝の、ほんの小さな笑い。だが、その小ささが、この場ではやけに温かかった。
喧騒の中で生まれた、ひとつの花束を中心にした小さな輪。そこには、戦場へ向かう者たちの緊張も、別れの寂しさも、未来への不安も、すべてを一瞬だけ忘れさせる柔らかな光があった。
レオンの手の中で揺れる白と薄紫の花弁は、まるでその笑いに応えるようにふわりと震えた。その震えは、“無事で帰れ”という願いと、“必ず帰る”という決意をそっと結びつける合図のようだった。




