表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/53

後日談1

 アークと2人自室でまったりしていると、ノックの音と共に長兄イザールが入って来た。イザール兄様は浄化魔導具の調整のために度々神殿を訪れているが、私達の部屋まで来るのは珍しい。


「アーク。頼まれてた薬、持ってきたよ」


 イザール兄様は、抱えていた紙袋をアークに手渡した。


「薬?アーク、何処か具合が悪いの?」


 袋の大きさに、何か重篤な病気なんじゃないかと不安になる。私が腕をそっと掴むと、アークは安心させるようにふんわりと笑って言った。


「俺はいたって健康だから心配ない。これはただの避妊薬だ」


 言いながら、アークは紙袋から小瓶を幾つも取り出した。とても見覚えのあるそれらは、寝室の飾り棚にズラリと並んでいるのと同じ物だ。ガラス瓶の色彩が独特で、青から紫へのグラデーションが美しく、単なる置物だとばかり思っていたのだが。


「え、飲んでたの?」

「当然だ。リアはまだ出産に耐えられないだろう」

「ああ、うん、そうだね」


 確かにその通りで、私の身体はまだ虚弱と言っていいレベルだ。出産なんて健康体でも命懸けだ、今の私には自殺行為だ。


「俺は早くリアとの子どもが欲しいが、まだ無理はさせられないからな。だから仕方なく薬を飲み続けているんだ」


 アークは紙袋を空にすると、私の額にキスしてから席を立つ。隣室へのドアを開けっ放しにして、奥の飾り棚の瓶を紙袋に詰め始めた。


 こちらに背を向けたアークをチラチラと窺いながら、イザール兄様が近付いてくる。私の座る椅子の背後に回った兄様は、屈んで私の耳に口を寄せ、囁く。


「結婚生活はどう?」

「順調ですよ」

「あー、夜のほうだよ」


 実の兄とするような話題ではない。私は曖昧に微笑んだ。久方ぶりの貴族的対応だったので、そこには触れるな!という意図が上手く伝わらなかったようだ。イザール兄様は更に声を落として、だが無遠慮に続ける。


「体力が戻らないうちは、色々と辛いだろう?薬の効果を強めようか?」

「あの薬の、ですか?」

「うん。あれ、性欲減退効果もあるから」


 私は驚愕した。兄様、その効果は全く発揮されていないんですが。いや効果が出ていてあれなのか?まさかね……。違うと言ってくれ。


「イザール兄様、私は薬の効果を疑っています」

「え、効いてないの?」

「長期間服用すると薬の効果が落ちますよね」

「ああ、アークは10歳から飲んでるからなぁ。その可能性も考慮しないといけないのか」


 確かイザール兄様が脅して、アークに避妊薬を飲ませ始めたのだと聞いた。何故そんな子どもの頃から。そこまで幼い時には必要無いだろう。


「いや、それが必要だったんだよ」


 イザール兄様は、私の心の声が聞こえたかのように答えた。私って考えてることが顔に出やすいんだろうか。それともイザール兄様は読心術でも出来るのだろうか。出来ても不思議ではない、私の中でイザール兄様は、何でも叶えてくれる猫型ロボットの上位互換だ。

 イザール兄様は更に私に近付いて、内緒話を始める。


「アークの奴、10歳の時にね───」

「何を話しているんだ」


 影が差し、アークの大きな掌が眼前に迫った。思わず目を瞑ったが、掌の気配は私のすぐ横を通り抜けた。


「痛い痛い痛いっ、ごめん黙るから!」

「あと離れろ、近過ぎる」

「兄妹なんだから……分かった離れるから!顔を潰さないで!」


 イザール兄様は文字通り顔を歪ませて、涙目で捨てゼリフを吐きながら退出していった。


「アーク、10歳の時に何したの?」

「……別に」

「夫婦に秘密は無しだよね?」


 わざとらしく視線を外された。私に知られたくない事って何だろう。


「他の子でも襲ったの?」

「そんな事するか!俺が襲ったのはリアだ!」

「え?でも私、そんなの記憶にないよ」


 アークは私から視線を外したまま、暫し逡巡した。だが私に誤解されるよりはましだと判断したようで、訥々と話し出す。


「リアに王家から縁談が来てな。俺はリアを盗られたくなくて……リアと夫婦になってしまえば、王家といえど引き離せないだろうと……」

「全く覚えが無いんだけど。本当に私が相手だった?」

「当然だ!俺はリアにしか反応しない!」

「そ、そうなんだ」

「お前が覚えていないのは、睡眠薬を盛ったからだ。俺も子どもだったから自信がなくてな。でも為せば成るものだ、俺は初めて出来て嬉しくて、イザールに話してしまって」


 なるほど、それで避妊薬を飲まされることになったんだね。兄としては当然の措置だ。アークと寝室を分けられたのもその頃だったし、私の知らない所で色々と攻防があったのだろう。

 だけど、とりあえず、これだけは確認したい。


「アークってロリコン?」

「ロリ?何だそれは」

「幼い子どもに対してだけ興奮する人」

「違うな。俺の欲はリアに対してだけだ」


 それは嬉しいけど、その手は何かな?

 アークの長い指で素肌を撫でられながら、私は机の上に並ぶガラス瓶へと手を延ばす。


「とりあえず、これ飲んで」

「さっき飲んだ」


 イザール兄様、やっぱり全然効いてないよ。次回からは薬の効果をうんと強めてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ