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「初夜はどうだったぁ?」
開口一番、デリケートな事を大声で聞いてくるミモザちゃんに、私は言葉を詰まらせた。
「……ミモザちゃん、デリカシーって言葉知ってる?」
「あ、そっかー、初夜はとっくに済んだんだっけ」
「ミモザちゃん……」
「結局何日部屋に籠もってたのぉ?」
「何か用なの!?」
用がないならどっか行ってよ!私は今ミモザちゃんに構ってる体力が無いんだよ!
私の願いも虚しく、ミモザちゃんは私の隣に腰掛ける。
「日課の浄化魔法と、ついでに回復魔法でも掛けてあげようと思って」
ミモザちゃんは言いながら、浄化魔法を掛けてくれた。
「結婚式の日から浄化魔法掛けてなかったでしょ。ダンナがいない今のうちだと思って」
どうやら私を心配して、わざわざ部屋に来てくれたらしい。それならそうと、初めから言ってくれれば良いのに。
アーク兄様は今日、午後から王城に呼び出され、父と二人で登城していた。私は目覚めて初めて、部屋で一人きりの時間を過ごしていたところだ。
兄様は文字通り、片時も、私から離れなかった。8年の空白を埋めたいという兄様の言い分も理解できたのだが、昼夜問わずベッタリとくっつかれているのも少し疲れてきていたのだ。トイレにまで付いて来られるのは、さすがに神経にくる。
「ちょっと、溜息なんか吐いてないでよ。アンタのメンタルが魔に影響するんだからね!」
「私はミモザちゃんほどメンタル強くないのよ」
ミモザちゃんは8年の間に、封じた魔を浄化でかなり減らしていた。イザール兄様が開発した浄化の魔導具も、ミモザちゃんが実験台になってくれたから完成したらしい。
「アタシだってメンタル強くないわよ!」
「婚約者のいる王族にあれだけ絡める人は、鋼のメンタル持ってると思うけど」
「大昔の黒歴史掘り返さないでよ!」
私はずっと意識が無かったせいか、まだ8年経ったという実感が薄い。ミモザちゃんの中では、とっくの昔に終わった事なのだろう。
「ごめん。でもさ、ミモザちゃん。この際だから色々聞いておきたいんだけど」
「……アタシも色々聞きたい事があるわ。前世の事とか」
ミモザちゃんがアーク兄様の留守を狙って来たのは、その為だろう。私にとっても良いタイミングだった。兄様には前世の事を伝えるつもりはないし、唯一知る父にも口止めしている。
「ミモザちゃんは何処を目指してたの?」
「レグルスルートの封印失敗エンド」
「えっ、それって主人公死ぬよね?」
確か能力値が低い時のバットエンドだ。魔の封印が出来なかった主人公は、偽聖女だと断罪されて毒杯を賜る。
私が驚いたことにミモザちゃんも驚いたようだ。
「もしかしてアンタ、続編やってないの?」
「えっ、続編なんてあったの?」
前世の記憶のどこを探しても、続編のぞの字も見つけられない。続編が出る前に、こちらに喚ばれたのだろうか。
「あー、だからかー。納得した。続編は50年後の世界でね───」
ミモザちゃんが教えてくれた所によると、続編には本編の主人公らしきお婆ちゃんが出てくるらしい。続編の、いわゆるお助けキャラで、偽聖女として毒杯を賜ったが、こっそり毒をすり替えてくれた人がいて生き残ったという設定だったそうだ。
『聖なる乙女と薔薇の封印』で毒で死ぬのはレグルスルートの封印失敗エンドだけ。しかも毒をすり替えてくれた人物は、名前は出ていなかったがデネボラ様の設定と同じだった。だからミモザちゃんは、あまり能力値が上がるような事はせず、レグルス王子を攻略しながらデネボラ様ともコンタクトを取っていたらしい。
「デネボラ様はレグルス王子と結婚したくないからって、協力してくれるはずだったのよ。教本の嫌がらせも事前に打ち合わせしてたのに。アンタのせいでどんどん能力値が上がっちゃうし」
「私、物凄く余計な事してた?」
「そうね、アタシの計画メチャクチャにしてくれたわね!」
私は頭を抱えたくなった。要らぬ正義感を発揮したせいで、ミモザちゃんに負担を掛けていたようだ。当初の予定通り、何もしないのが正解だったのだ。
「ごめん、本当ごめん。何もせず大人しくしてれば良かった」
考えてみれば、ミモザちゃんにだって前世の記憶があるのだ。死亡エンドを回避する道を進むに決まっている。私が知らないだけで、大聖女エンド以外にも生き残れるルートがあるなんて、考えてもみなかった。
平謝りする私だったが、ミモザちゃんは首を振る。
「いや、全部終わって落ち着いて考えてみればね、これで良かったと思うよ。アタシが封印失敗したら、魔は誰が封印することになったと思う?」
そりゃあ私しか居ないでしょ。
ミモザちゃんが偽者って事になったら、本物の聖女探しが始まる訳で。父様は世界を混沌に落としてまで、私を隠すことは出来ないだろう。聖女だとバレた私は碌な準備もなく神殿の地下に連れて行かれ。
「死ぬよね」
そう、何もせず封印失敗エンドに至っていたら、私はたぶん死んでいた。
「だからね、これが最善。誰も死なないハッピーエンド!」
ミモザちゃんは、大輪の花が咲くように笑って、断言した。だから私も信じる事にする。これがハッピーエンドだと。




