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会場に到着して直ぐに、ミモザ嬢は注目を集めた。彼女の桃色の髪は悪目立ちする。しかも今シーズンの社交界で1番話題の人物だ。ミモザ嬢が入場すると、ざわめいていた会場が静まり、ひそひそと囁きあう声がさざ波のように広がった。
ミモザ嬢を目にしたレグルス王子達は顔を強張らせて固まり、手にしたグラスを取り落とした。殺したはずの彼女が生きているとは思ってもみなかったようで、幽霊にでも会ったかのように顔色が悪い。だが俺が彼女の後ろから現れると、得心したとの顔でこちらを睨んだ。
「……ミモザ、まさかしぶとく生き残っていたとはな。アルカディア公爵家が匿っていたようだが、2人共、我々に謝罪するために出頭したのか?」
レグルス王子が周囲の関心を引くために、殊更声を張り上げる。彼の目論み通り、祝賀会に集まった王侯貴族達が、この面白い余興を見物しようと集まってくる。
ミモザ嬢は綺麗にカーテシーを決めて、微笑んだ。
「レグルス殿下、ご機嫌よう。先日は大変お世話になりました。今日は、そのお礼参りに来ました」
「ふん、殊勝な事だな。自分が偽の聖女だと認めるのか」
「力が劣る聖女であることは認めます。でも偽者じゃありません!」
「往生際が悪いですね」
リゲルが首を振りながら、ヤレヤレと肩を竦める。シリウスがレグルス王子の隣で、何か耳打ちする。レグルス王子は厭な笑いを浮かべると、再び声を張った。
「お集まりの諸君!オレはこの国の王子として、聖女を騙る偽者と、それに加担するアルカディア公爵家をここに断罪する!」
レグルス王子は告発文に書かれていた内容を、芝居がかった調子で大袈裟に語った。ここに居る貴族達は何度も聞かされているようで、驚いた様子はなく、ただ興味深げに王子達とミモザ嬢を見比べている。
王子が語り終わったと同時に、シリウスが前に進み出た。その手に持つブローチを野次馬達、特に奥の一段高い場所にいる方々によく見えるように掲げる。
「これはボクが開発した魔導具です。偽聖女の非道を証明する、画期的なものです!」
シリウスが持つブローチが光り、壁に何かを映し出した。映像は暗く不鮮明だが、辛うじて映っている人物が誰かは判る。
リアがレグルス王子達と話しているが、音声はない。映像にはリゲルとミモザ嬢も映っていて、シリウスの姿だけがないのは、彼がブローチを付けていたからだろう。
初めて披露される映像記録魔具に、会場がどよめいた。皆が熱心に壁を見守るなか、映像は進み、封印の儀式に場面が移る。
キャァッ!!
リアがミモザ嬢に刺され、彼方此方から悲鳴が上がった。映像はリアが床に倒れた場面で終了する。
「ご覧の通りです!そこの偽聖女が本物の聖女ミリアリアを殺したのです!」
ザワザワと周囲が落ち着きを無くす。これまでレグルス王子達の言う事に半信半疑だったり、出鱈目だと聞き流していた者たちが、映像という証拠を前に揺らいでいる。
俺はそっと合図を出した。
「今回の聖女は2人」
久しく聞いていない、愛しい声が会場に響く。それと同時に、レグルス王子達とミモザ嬢との間に立体的な映像が出現した。リアがそこに居るかのようだ。
「な、何だこれは!」
レグルス王子が後退る。
「アナタ達と同じ、映像記録魔具です!」
「だがこれは……先程の物とは精度が違う」
誰かの言葉に皆が頷く。平面と立体という違いだけでなく、画像の鮮明さも段違いのうえ音声付きだ。
「こ、こんな物が存在するはずがないよ!天才のボクが造った物より高性能な魔導具なんて、ある訳がない!」
「ところが存在するんだよ。これを造ったのは本物の天才だからね。君のような凡人に毛が生えた程度の者には、理解出来ないかもしれないが」
人垣を割って現れたのは、イザールの友人ラサラスさんだ。彼が抱えているのは聖剣で、その柄頭についた宝玉から映像が出力されている。
「な、なんだお前は!ボクが凡人だっていうのか!」
「シリウスは魔法の天才なのです。侯爵家の子息である彼を貶めるなど、不敬ですよ」
「へぇ、ぼくがちょっと侯爵家の子どもに意見したくらいで、不敬罪になるのかな?どう思う、レグルス?」
ラサラスさんはレグルス王子に向き直り、にこりと笑った。ラサラスさんが笑みを深めるに従って、レグルス王子の顔が青褪めてゆく。
「あ、兄上……」
レグルス王子の呟きを拾ったシリウスとリゲルが目を剥く。
「久しぶりだね、レグルス。面白い友人がいるみたいだけど、ぜひぼくに紹介してくれるかな?でもその前に、ぼくの友人が開発した映像記録魔具の続きを見ようか。皆興味津々のようだからね」
第三王子ラサラスは、微笑んでいるようで目が笑っていない。兄君の静かな怒りを感じ取ったのか、第四王子レグルスはがっくりと膝をついた。




