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いつも長閑な神殿が、上空から見ても騒然としていた。俺が窓から身を乗り出すと、飛行魔具が傾き悲鳴が上がった。
「ちょっ、アーク!席に座ってて!」
長兄イザールが文句を言ってくるが気にするほどの事ではない。俺の関心事はリアだけだ。
昨夜眠っていると、リアの気配がして目が覚めた。眠りが浅いのは2ヶ月もリアと会っていないせいだ。俺はリアがいないと眠ることさえ満足に出来ない。
明け方まで屋敷内をリアの姿を探して彷徨っていると、朝一番でイザールが訪ねてきた。そこで気付けば良かったが、寝不足で頭が働かず、まんまと屋敷から連れ出された。リアの居場所が分かったと言われ、夜型のイザールが朝からやって来た忙しなさにも騙されて、俺は自ら飛行魔具に乗ってしまった。
「まだ着かないのか」
苛々と尋ねた俺に、イザールはのらりくらりと答えた。
「うーん、もうちょっとかなぁ」
「さっきもそう言ったよな」
「そうだったかなー」
ヘラヘラと躱され続け、様子のおかしさに気付いた時にはもう昼過ぎで、王都から随分と離れていた。
俺がイザールの座る操縦席に一撃入れ、助手席にいたイザールの友人の頭を鷲づかみにした時点でイザールが折れた。
「止めて!不敬罪になるから!」
イザールは白状した。リアは今王都にある神殿に居ると。俺を神殿から出来るだけ遠ざけるよう、リアから頼まれたのだと。意味が解らない。
「リアが俺を遠ざける訳がない」
「色々やり過ぎて嫌われたんじゃない?」
「リアが俺を遠ざける訳がない」
「この2ヶ月の現実を見ようよ」
「リアが俺を遠ざける訳がない」
「アーク!それ以上やると墜落するから!あぁもう、リアはこんな面倒なのの何処に惚れたんだよ!」
飛行魔具を王都に引き返させて、やっと今、神殿の見える場所まで戻ってきた。既に日が暮れて着陸が難しいからと、イザールは飛行魔具を旋回させている。俺は待ちきれず、窓をこじ開けて空中に身を躍らせた。
「何やってんだーーーー!」
イザールが叫んでいるが問題ない。身体強化を掛けて無事着地すると、近くにいた神官を捕まえて聞いた。
「リアは何処だ。何かあったのか」
「せ、聖女様が魔の封印に成功されたそうで……」
儀式の詳細を知らされていない一般神官には慶事であるはずなのに、顔色が悪い。俺は嫌な予感がして拝殿へと駆けた。儀式には俺も参加するはずなのに、何も聞いていない。俺の知らない所で何が起きている?
すれ違う神官や巫女達は、皆慌てふためいていた。拝殿に駆け込むと、神殿長である父が厳しい表情で奥の扉の前に佇んでいる。のほほんとかボンヤリとかいった形容詞が標準装備の父が、あんな顔をするのは珍しい。ますます不安が募る。
「父上、リアは何処に!?」
「アーク、リアは……この中だ」
言いかけた事を飲み込んで、父は扉を手で示した。薔薇の意匠が刻まれた、両開きの扉。この中には魔を留めておく地下空間があるはずだ。聖女が魔を封印する時にしか、扉が開かないと聞いている。リアは封印の儀式に同行したのか?
「迎えに行ってきます」
俺は扉に手を掛けた。取手も指をかける凹みもないので、薔薇の彫刻の膨らみを手掛かりにする。開かない。どんなに力を入れても、扉はビクともしなかった。
「この扉は聖女しか開けられない」
「壊します」
「無駄だよ。ただの扉じゃなく結界なんだ。聖女が認めた者しかここは通れない」
「聖女の護り手の俺なら通れるのでは」
「今結界を解除する方法を探している。落ち着きなさい」
リアが中にいると分かっているのに、落ち着いていられるか。
俺は拳に身体強化をかけて扉を殴った。
「ちょっ、止めなさい!」
知るか。リアがここに居るということは、父も俺とリアを引き離すのに手を貸していたということだ。そんな奴の言う事を聞いてやる義理はない。
何度も扉を殴りつける。石造りの扉は砕けず、拳が血に塗れてゆくがそれが何だ。リアに会うことに比べれば些細な事だ。
「……兄様」
リアの声が聞こえたような気がして、俺はハッと顔を上げた。キョロキョロと辺りを見回すが、リアの姿はない。昨夜と同じだ。リアの気配はするのに姿が見えない。
その時俺は思い出した。昨夜目覚めた時、部屋のチェストの引き出しが少しだけ開いていなかったか?
あの引き出しには、俺がリアに贈ったネックレスとイヤリングが収められていた。もしかして昨夜、リアはそれらを取りに来たのか?だとしたら希望はある!
「リア、俺を呼んでくれ!」
俺の願いに答えるように、またリアの声が聞こえた。
「……アーク兄様……愛して…る……」
瞬間、周りの景色が歪み、オレンジ色の魔石に付与した転移魔法が俺を運んだ。




