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「分かった、ミリアリア嬢の言う通りにしよう」
レグルス王子が真っ先に賛同してくれるとは思わなかったので、私は少々面食らった。
「いや、だけど……」
「シリウス、キミだって人殺しになりたい訳ではないだろう?オレ達が聖女の護り手になったのは、国のため、ひいては世界のためだったはずだ。自らの手を汚してでも他を護るためだった、そうだろう?」
神妙な顔でシリウスを諭すレグルス王子は、ここだけ見れば結構な人格者だ。シリウスは唇を尖らせながらも、浅く頷く。
「それはそうだけど」
「ミリアリア嬢は聖女としての覚悟を持っている。儀式を中断出来なければ、これまで通りの手順を踏んでほしいと言っているのだ。その心意気に免じて、我々も可能な限り譲歩するべきではないか?リゲルもそう思うだろう」
「はい。私は聖女ミリアリアの提案に従いますよ」
リゲルが賛意を示し、シリウスも折れた。
「分かったよ。ボクだって好き好んで女の子を殺すようなゲスじゃないからね」
レグルス王子は2人を味方につけ、ミモザちゃんに爽やかな笑顔を向けた。胡散臭いと感じるのは、私の性格が歪んでいるからだろうか。
「ミモザもそれで良いな?」
ミモザちゃんはまだ迷っている。当然だ、自分の命が懸かっているのだから。
すぐに答えないミモザちゃんに、レグルス王子が小さく舌打ちするのが聞こえた。それだけで私が王子を警戒するのには十分だ。1番油断ならないのはこの男だと定めて、警戒レベルを上げる。
「ミモザ、本当ならお前は問答無用で殺される運命だ。それを聖女ミリアリアの慈悲で、生き延びる可能性を与えてやると言っているのだ。嫌ならこれまでの慣習通り儀式を執り行うが、それでも良いんだな?」
脅しとも取れるレグルス王子の言葉に、ミモザちゃんも頷くしかなかった。
「分かりました、従います。ただ、聖剣はまだ渡せません。必要になった時に、アタシが信頼できると思う人に渡します」
「……良いだろう」
なんとか話がついた。私はホッと胸を撫で下ろす。
「では、儀式を始めるとしましょうか」
仕切りたがりのリゲルがしゃしゃり出て、私とミモザちゃんは向かい合って膝を付いた。それぞれ光の薔薇を持ち、腕に蔦を巻き付けて固定する。私は左腕に蔦を巻き、いざという時に使えるよう利き手は空けておいた。聖剣はミモザちゃんの左脇、私の右手の正面にある。
レグルス王子達は私とミモザちゃんを取り囲んだまま立っている。男3人に囲まれると威圧感があり、私はますます警戒心を強めた。特にミモザちゃんの背後に陣取ったレグルス王子が、最も警戒すべき相手だ。シリウスは私の右、リゲルが私の左に居て、両サイドから私を見下ろしている。
「ねえ、どこまでは魔を吸収しても大丈夫か、どうやって判断するの?」
薔薇の蔦に残っていた棘を摘み取っていると、ミモザちゃんに尋ねられた。ミモザちゃんも同じように棘を毟り取っている。
「薔薇の花の色で判断するの。私達の限界が近づいてくると、花が黒ずんでくるから。真っ黒になる前に、薔薇を切り落とすの」
「花の部分だけ切り落とせば良いのね?」
「ええ」
私は肯定したが、それで大丈夫だと言い切れる訳ではない。
「ミモザちゃん、ごめんね。私のせいで、こんな危ないことに巻き込んで」
「自惚れんじゃないわよ。ここはアタシのための世界よ。主人公はアタシ、そうでしょ?」
ニカッと笑ったミモザちゃんは可愛くて綺麗で、神々しいほどに輝いていて、さすがは主人公だと感心してしまう。ミモザちゃんは凄い。私なんてせいぜい悪役令嬢止まりだ。
「始めるわよ」
ミモザちゃんと同時に、短く祝詞を唱える。
光の薔薇が一瞬で虹色に染まった。絡めた蔦が腕を締め付け、花弁が霧を吸い込み始める。
周囲の黒霧が渦を巻き、私とミモザちゃんを取り巻いた。魔が薔薇の花から蔦を通り、身体の中に溜まってゆくのがわかる。頭が重い。左腕が痛い。身体が軋んで悲鳴を上げている。全身の魔力が活性化し、光が魔を浄化している。
先に限界が訪れたのはミモザちゃんだった。ミモザちゃんの持つ光の薔薇の、花弁の縁が黒ずんできた。
「ミモザちゃん、聖剣を!」
「……無理……動けない……」
私は倒れ込むようにしてミモザちゃんに近づき、聖剣へと右手を延ばした。力を振り絞って聖剣の柄を握り、鞘から引き抜いた。バランスを崩しかけて、私は左手を地面について支える。
私のガラ空きになった右脇腹に、ミモザちゃんが刃物を突き立てた。




